全米一の影響力を持つ書評家ミチコ・カクタニは謎の日本人女性ーNY Times book critic is the industry’s most mysterious woman


アメリカの出版界でもっとも影響力のある書評家といえば、やはり、ニューヨーク・タイムズ紙の「」だろう。数年前までは、TVトークショーのホストであるオプラ・ウィンフリーが、自分の番組「ザ・オプラ・ショー」で「オプラのブッククラブ」というコーナーを作り、彼女が選んだ本が次々にベストセラーになる、という現象があったが、オプラは既に毎月定期的に「ブッククラブ」を放映するのを辞めてしまった。しかも、オプラが選ぶ本は、どちらかというと(ノーベル賞作家のトニ・モリソンら例外もいたが)大衆小説が多く、いわゆる「文壇」の最高峰、という感じではなかった。

ニューヨーク・タイムズの書評には2種類あって、毎日、交代で「art」セクションの書評欄に書いている専属書評家が3人いる一方、タイムズの日曜版に付いてくる「Book Review」(これだけ定期購読できるので、新聞の付録というより、雑誌の扱いに近い)では、編集部がそれぞれの本について相応しいだろうという書評担当を様々な業界から選んでいる。そしてMichiko Kakutaniは、3人いる専属書評家の中でも、もう20年も書評を担当している一番のベテラン、その影響力や知名度では業界ピカいち、それこそ「泣く子も黙る」存在なのだ。

その角谷ミチ子さんなんですが、これがまた出版業界でその素顔を知る人はなく、謎につつまれた存在。彼女の父親はナッシュのゲーム理論を証明するのに役立ったとされる「カクタニの固定点定理」で知られるイェール大学の角谷静夫教授。だから彼女も1955年、イェール大学のあるコネチカット州のニューヘーブン生まれ、イェール大卒業の後、ワシントン・ポスト紙やタイム誌でレポーターとして活躍、その後にNYタイムズに転職、83年から書評欄担当。98年には「批評」部門で栄えあるピューリッツァー賞を受賞している。

ミチコ・カクタニの書評は一言でいうと「辛口」を超える「激辛口」。相手がノーマン・メイラーだろうが、フィリップ・ロスだろうが、面白くないモンは面白くないと叩っ斬る。ファラー・ストラウス&ジルー社やクノッフ社といった文芸出版が「イチ押し」で宣伝に力を入れようが、ノーベル賞を取ろうが、ミリオンセラーになろうが、お構いなし。インタビューや取材には一切応じないし、写真も発表しない。ま、これがNYタイムズのレストラン批評家だったら、顔を知られると困る(レストランに行くと、バレて特別待遇になってしまうから)というのならわかるけど、何もそこまでしなくてもいいんでないかい?ってな気の使いよう。

出版記念パーティーに顔を出したり、編集者と付き合ったりということも一切しない。これは本を出す側と仲良くなると批判しにくくなるから、ということなんだろうか。潔いとは思うけどスゴイ意志の強さを感じる。今までも、カクタニさんの書評でけちょんけちょんに書かれた作家が激怒して、「どこがどう面白くないのか言ってみろ」と新聞広告まで打たれたり、あちこちで怒りを買っているようだが、絶対に応じない。この業界の暗黙の了解では、本の発売日になるまで書評は載せない、というのがあるんだけど、カクタニさんはしばしば「掟破り」をして本が出ないうちにネガティブな書評を出してしまうことも。

書評の文章もエリート臭さがプンプン漂うインテリぶり。普段アメリカ人はあまり使わない「limning(輪郭を描く、描写する)」という言葉を連発するので、「Limning Kakutani」というエッセイまで登場。彼女の書評を読むとあまりの辛辣さに「イタタタタ、きっつー」と作者でなくても辛くなるし、聞いたこともないような難しい形容詞が並んでいて「???」ということもしばしば。

その私生活も謎で、マンハッタン在住らしいのだが、どこに出没しているのかは全くわからない。ウッディー・アレンと友だちで、いっしょにイレインズという出版界御用達のレストランで食事していたとか、ブロードウェイの打ち上げでキャストといっしょに騒いでいたとか、サイモン&ガーファンクルで有名なシンガーのアート・ガーファンクルと昔つきあっていたとか、不思議な目撃談多し。

一度会ってみたいなぁ、どんな人なのかなぁと思っている人の1人なのだが、けっこう地下鉄の駅ですれ違っているのかもしれない。「あらぁ、ミッちゃんならいいお友達よ」なんて人がいたら、こっそり教えて。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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