文芸エージェントと「出版界のウラまで見せます」ツアーを見学ーJoining behind-the-scenes tour of publishing industry


今回、ほんの思いつきで参加することにしたのは、文芸エージェントが案内する「出版界のウラ舞台」ツアーというもの。ニューヨーク・マガジンの「今週のイベント」コーナーでチラッと見かけて申し込んだのだが、正直いって「お一人様40ドルも出して、誰がそんなつまんないもの見たいかね?」と不思議だった。だって、こんな地味で「見せ場」のない業界もないでしょ。テレビ局のツアーならスタジオ見学中に有名人にバッタリ出くわすとか、いつも見ている番組のセットが拝めるとか、せめて新聞社だったらそれなりの締め切り前の雰囲気があるとか、ツアーにでも参加しなければ見られないようなものもありそうだけど、書籍出版社なんて、フツーのオフィスにフツーっぽい人がいて、原稿がうず高く積まれた雑然としたデスクで、皆もくもくと働いているでしょ、フツー。「集合場所に行って、申込者がアタシ1人だけだったらどーしよー」と一抹の不安が。

ところが、会場に詰めかけた大勢の老若男女を見て納得。皆さん、ほとんどが作家志望の人だったのでした。ナルホドね。どうやったら自分の本を出してもらえるのか、視察にきていたというわけだ。そこで、まずはアップタウンにある文芸エージェンシーのオフィスへ。だけどさー、オフィスといっても、そこいらのマンションの部屋なわけ。文芸エージェンシーって自宅で1人でもできる仕事だし、ICMみたいに本以外のメディアも手がけている大きいエージェンシーでもなければ、みんな零細企業だからね。(事実、ワタシだって1人でエージェンシー名乗って、社長兼秘書兼掃除のオバサンとして自宅でシコシコ働いているわけで。)

で、エージェントの人が「本を出したい人はー、まず1枚の紙にどういう本を書いた(書きたい)のかを簡潔に説明して、返信用封筒を添えて、エージェントに出すんですねー」と説明し始める。で、エージェントから「原稿を見せて下さい」という連絡があって初めて、自分が書いたものを送りつける。部屋の隅には「スラッシュ・パイル」という原稿置き場(左、1週間でこの量が届く)があって、全米各地から送られた原稿が郵送用袋のまま山積みにされている。

日本と違うのは、出版社に直接原稿を送りつけても、読んでもらえる可能性はほとんどないという点。出版社にもスラッシュ・パイルがあるが、ここのはほとんどは封も開けずにゴミ箱送り。エージェントを通さないとイケナイわけです。なんでかっていうと、その出版社に全然そぐわないジャンルのものが来たり、いちいち読んでいたんじゃ玉石混合で効率悪いから。そしてもう一つ大切な理由は、アメリカが契約社会で、企画が通るには印税や、版権の範囲や、初版部数やら、基本的なことに加えて、ブッククラブ選択ボーナスやら、ペーパーバック版権やら、次作のファーストオプションやら、絶版の定義やら、雑誌への掲載権やら、やたらしち面どーくさい細かいことまで取り決めた契約書を交わすからで、これはとても素人の手に負えるもんじゃないんですな。

まあ、その辺は色々なガイドブックも出ているから、エージェントに出す手紙はこういうポイントを押さえろとか、エージェントはこういう本に載っているとか、契約書を交わす時はこういう点をチェックしろとか、ま、色々あるわけです。で、作家志望の人たちから具体的な質問が飛んだところで、次は出版社見学と相成りました。

いくつかオプションがあったけれど、ワタシが選んだのはダウンタウンにオフィスがあるワークマン出版。アメリカの出版社のほとんどはタイム・ワーナーや、ヴィアコムや、ドイツ資本のメディアコングロマリット傘下に吸収されてしまっている版元が多い中、ワークマンはずっと独自に、つまり、インディペンデントとして頑張っている。特に面白いパッケージの児童書で知られているところ。日本では、本に付録を付けたり、紙以外の「商品」にするのは違法だけど、アメリカは何でもあり、ワークマンの本には、恐竜の骨に入った塗り絵の本やら、そのままオモチャになる子供向けの本がたくさんあって面白い。
ワークマンのベストセラーといえば、そろそろ初版から900万部に届こうかという驚きの「What to Expect When You’re Expecting」というロングセラーがある。妊婦のガイドブックとしてはスタンダードになっている。他には、日本でも人気のある「365日ネコの日めくりカレンダー」の出版社、といえば知っている人もいるかもしれない。ワタシも毎年このカレンダーをめくりながら「ん、やっぱりウチの子が一番かわいいわ」と親バカさせてもらっている商品である。

さすが、大企業に買収されず、赤字倒産もせず、いい本を出し続けている出版社だけのことはある。出世しながら次々と職場を変えるのが当たり前のアメリカの会社には珍しく、勤続何十年というベテラン編集者が多い。

ということで、個人的にはそんなに新しい発見はなかったけれど、「そーよね、どこもこんな感じよね」と再確認したツアーでありました。エージェント業に従事している人は、出版社出身の女性が多く、しかもその女性のタイプが似ている。つまり、根明で、早口のお喋りで、世話好きで、姉御膚で、体型は太めで、美人はいない、と。(自覚してるよ!)

このウェブページを読んでいる人の方が色々聞きたいことがあるかもしれない…わかる範囲でお答えしますので、どんな質問でもドーゾ。例えば、出版社の編集者ってお給料いいの?とか。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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