イラクとの戦争を前に ニューヨークのインテリ層をなだめるサルマン・ラシュディーーRushdie talks global politics on the eve of pre-emptive war against Saddam

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イラクとの戦争を前に ニューヨークのインテリ層をなだめるサルマン・ラシュディーーRushdie talks global politics on the eve of pre-emptive war against SaddamBooks and the City

サルマン・ラシュディーが『悪魔の詩』を発表して、イランのホメイニ師からファトゥワ(死刑宣告)を食らったのは 1988年だから、あれからもう14年も経つ。もう忘れてしまった人や知らない人のために、一応ことの成り行きを書いておくと、『悪魔の詩(Satanic Verses)』という小説は、イスラム教に対する冒涜にあたるとされて、ラシュディーを殺した者にホメイニが数億円の報酬金を約束したのだ。彼はインド出身の英国籍で、当時はイギリス当局の厳重な警備で守られていたが、その後『悪魔の詩』を日本語に翻訳した筑波大の助教授が実際に何者かに殺される事件があった。

当時は、この小説のどこがイスラム教の冒涜にあたるのか、正直いってサッパリわからなかった。とりあえず、タイトルの悪魔の詩(原題だと悪魔の章句)というのは、イスラムの預言者モハメッドがコーランを朗読しているときにうっかりアラー以外の神も認めることを言ってしまったというエピソードがあるらしくて、一神教のイスラム教にとってその発言部分が「悪魔が言わせた章句」となっているらしい。だけど小説『悪魔の詩』はあまりコーランとは関係なくて、宗教の冒涜と言っても、遠回しの言葉遊びや暗喩でイスラム教を揶揄しているらしいんだけど、イスラム教の基本的知識がないせいか、どこがどう冒涜になっているのかわからなかったのだ。

ホメイニもファトゥワの後、ほどなくして死んでしまったし、今もその死刑宣告が有効なのかどうかは知らないが、いつもの朗読会よりはちょっと警備が厳しかったかな?って程度。ラシュディーと言えば、『真夜中の子どもたち(Midnight’s Children)』でブッカー賞をとった現代ディアスポラ文学の先駆け的存在、というイメージの方が強いかもしれない。おまけに最近のラシュディーさんったら、映画「ブリジット・ジョーンズ」にまでゲスト出演してたの、気づいてました? 冒頭の出版記念パーティーでブリジットにいきなり「お手洗いはどこかしら?」と突っ込まれて目を白黒させてしまう、怪しげなオジサンがラシュディーなのだ。(遅くに着いたせいもあって、ナマ写真は失敗。イベント告知の看板で勘弁してちょ。)

ま、それはさておき、最新作のエッセー集を披露したラシュディーは、さすが英国的ウィットに富んだ文章で、アメリカの各地を旅したときに感じた田舎臭い保守的な感覚をからかって、それなりにニューヨーカーにウケておりました。質疑応答でもみんなが聞きたいのは、イスラム世界との軋轢や、イラク侵攻問題に関することばかり。ラシュディーもまたブッシュの強硬政策には反対で、「フロリダでのこと(ゴアと接戦となった選挙)を考えると、「魚臭い」としか言えませんな。(=大統領の資格があるのかも疑わしい)」と言って拍手喝采を浴びておりました。

インテリっぽい彼の口調で言うと「インド・パキスタン問題も逼迫している昨今は、世界が核保有国における先制攻撃の危険性を充分に承知していることだけが、辛うじて平和を維持する説得力のある議論となっているのに、軍事力で世界最強の国が、将来、自国にとって不利になる行動を起こすかも知れないと言う理由のみで先制攻撃に走ることは、先類を見ないほど世界均衡を著しく阻害する行為であり、また民主主義の土壌が全くないその国の政権を入れ替えた後で、どのような建国の選択があるのか、私はまだ理解するに至っていない」ってな感じ。いかにも頭のキレるジェントルマンですな。

最後に作家を初めとするアーティストは、政治に顔を突っ込むべきなのか、と聞かれてラシュディーさんはこうも答えていました。「私自身は、旧知の友人である詩人が積極的に政治にも関わっていたので、それが自然なことだと思っていた。政治的・歴史的背景を全く無視した小説世界に生きる人物を作り上げても説得力がないだろうしね。でもこうやって自分のあずかり知らぬ形で政界に引きずり込まれたこと(死刑宣告を受けて隠遁生活を余儀なくされたこと)を考えると、ガーデニングの本でも書いていた方が良かったかなあ、と思うこともあるけど」と聴衆の笑いを誘っておりました。

written by Lingual

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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