「ベストセラーの母」がランダムハウスでのらくらしているらしいという話ーRunning into idle(?) Phyllis Grann at Random House
それは私が米最大手の総合出版社、ランダムハウスに出入りするようになってまだ2日目のことだった。アポイントの相手にどうしてもとらなくてはならない電話がかかってきて(もちろんベルテルスマンの本社のあるドイツからだ)、オフィスの外で待っていようと廊下に出ると、隣の部屋のイスが空いているのが見えたので、何も考えずにその部屋に入ってしまったのだった。待ち合い室か会議室と思ったのは、他の部屋よりひと回り大きなオフィスで、窓を背にしてそこにポツネン、と座っていたのは「ベストセラーの母」と呼ばれるフィリス・グランだったのだ。
「あわわ、スミマセン。失礼しました」
「いいのよ」
あわてて部屋を飛び出し、バクバクする心臓をなでおろした。あ〜、ベックラこいた。そう、ペンギン・パットナム社から半年前にランダムハウスへ彼女が引き抜かれた(正確には、辞めてからランダムハウスにスカウトされたのだが)のは知っていた。でも、まさかあんなにガランとした部屋で静かーに仕事しているとは到底想像できなかったのだ。
私のベックラ度を伝えるには、もう少しフィリス・グランのことを書いた方がいいだろう。彼女はそれこそお茶汲み・コピー取りの秘書からペンギン・パットナムのトップ編集長に上り詰めた「叩き上げ」の編集者なんである。トム・クランシーやパトリシア・コーンウェルを育て、ベストセラーを連発する売れっ子にした。
タトル商会の賀川氏が著書「出版再生」で説いている「ベストセラーを生み出すマーケティング」を極めたのがフィリス・グランだ。そのグランがペンギン・パットナムを辞めたのは親会社であるピアソンの幹部との確執があったと言われている。
ま、ともかくそのグランがランダムハウスに移ったというニュースに、アメリカの出版界は「おおっ!」ってな感じに驚いた。でも、ランダムハウスで何やるんだろう?というのが本音だったろう。日本でも出版社にはそれぞれのカラーというか、特有のカルチャーがあるように、ペンギン・パットナムとランダムハウスでは企業文化が全然違うからだ。
ランダムハウスは経営陣から皆若く(社長、取締役、常務、みんな40代!)社内のインプリント同士で作家を取り合ったりするなど、社内でライバル意識というか、競争するところがあるのに対し、ペンギン・パットナムはグラン(今60才ぐらいか)を始め経営陣も年配者で占められ、もっとトップダウン、そこでフィリス・グランはまさに「女帝」として君臨していた感じなのである。
猛烈なスピードで担当作家の原稿に目を通し、赤を入れ、宣伝の方法まで采配を振るい、経費にまで目を光らせ、忙しく立ち回っていたハズのフィリス・グラン。デスクには原稿が山積みになっていて、お付きの下々の編集者が入れ代わり立ち代わり彼女の啓示を仰ぎにきて、幹部が御機嫌うかがいに出入りする…どう考えたってそんなイメージなのに、私が気づかずにずかずか入ってしまうようなガランとした部屋で、何も置いてないデスクに座って、ひっそりと仕事しているような人じゃないんだけどな。
で、最近NYタイムズにすっぱ抜かれた記事じゃ、ホントにヒマしちゃってるらしいのだ。一応アドバイザー、ということらしいが、それじゃまるで宝の持ち腐れ。心臓に悪いから、早いとこ忙しくしてあげてほしい。









