Greenwich Village


グリニッヂビレッジといえば、ワシントンスクエアのミニチュア凱旋門が目印。この辺を拠点にしていた有名作家を挙げるとしたらキリがないくらい有名な場所だ。ヘンリー・ジェームズ、詩人ウォルト・ウィットマン、劇作家ユージン・オニール、ホラーの教祖エドガー・アラン・ポーなどなど。

ワシントンスクエアの北側には、かつて「The Row」と呼ばれた旧い建物が並んでいる。この近辺に建物が散らばるニューヨーク大学のESLであるALI (American Language Institute)も、昔はここにあったので、懐かしく思い出す元留学生もいるのではないか。何しろバブル真っ盛りの頃には、ここの英語学校ではクラスの95%以上が日本人だったそうだから。(それじゃ駅前留学と変わらないって。)

ヘンリー・ジェームズやエディス・ワートンの小説に描かれる、19世紀初頭のアメリカ上流社会といえば、この「ザ・ロウ」のどれかを舞台にしたといってもいい。ウォートンの生家は西23丁目14番地(今も健在)だが、彼女が住んだことがあるのは、このロウの7番地。ちなみにウォートンは女性で初めてピューリッツァー賞をとった。The Age of Innocenceはダニエル・デイ・ルイスとミシェル・ファイファーで映画化されているから、ビデオで当時の雰囲気を確かめてみてはいかが?

ワートンの良き友人だったヘンリー・ジェームズも自著『ワシントン・スクエア』で、ザ・ロウの上流社会を描いている。これもオリビア・デハビランドとモントゴcメリー・クリフト主演で『女相続人』という映画になっている。彼の生家はもう少し西のワシントン・プレース21番地だったが、親戚がザ・ロウの18番地に住んでいた。
ここでちょっと話が文学からずれるが、ワシントンスクエアの怪談を披露しておこう。ここは「ザ・ロウ」が立ち並ぶずっと前は沼地で、ワシントンスクエアの原型となった広場では公開処刑が行われていた。無縁仏の墓地でもあった。恐いことに、ニューヨーク市の公文書のどこを探しても、その後、死体を他へ移したという記録がないという。つまりはそのまま、ここに大勢の人が埋まっているというわけ。一説によるとその数は1万近いという。写真はその昔、公開処刑に使われたという「ハンギング・エルム(首吊りニレの木)」。幹の真ん中あたりに折れた枝の後があるのがおわかりいただけるだろうか。う〜む、よほどおデブさんを絞首刑にしたのが最後だったのかな?
ワシントンスクエアから数ブロック五番街を北に上がって、10丁目で左に折れる。ほどなくして見えてくるここの14番地がマーク・トウェインがかつて住んだ家。玄関の脇にそのことを記した銅板が埋め込まれている。彼の本名はサミュエル・ロングホーン・クレメンス。ちなみに、「マーク・トウェイン」というのは、トム・ソーヤーの冒険やハックルベリー・フィンのお話でお馴染みのミシシッピ川を渡るリバーボートの船主さんたちの言葉で「二手に分かれろ!」という意味なんだとか。
マーク・トウェインゆかりの地、といえば、ニューヨークだけでなく、生まれ故郷のミズーリ、少年時代を過ごしたサンフランシスコ、多くの作品を書き残したコネチカット州ハートフォードなどもあるが、いつもこの街の上流社会で引っ張りだこだった。彼を訪ねてきた人たちが出くわしたトウェインは、ベッドに横になったまま葉巻をふかしながら、自分の冒険話を人に聞かせていたという。(トウェインのお墓は5番街37丁目のプレスビテリアン教会にある。)
そのまま西10丁目を歩くと、右手に緑の窓枠にピンクの壁、というけばけばしい建物が目につく。37番地のこの建物がシンクレア・ルイスがかつて、奥方でジャーナリストのドロシー・トンプソンと住んだ家だ。(彼らが引っ越してきた1928年当時はこんなケバい色じゃなかったと信じたいが。)シンクレア・ルイスの作品といえば、「Babbitt」「Arrowsmith」など、田舎の町の一市井人の生き様を書いたものが多いが、本人はニューヨークが好きだったのか、「Main Street」がピューリッツァー賞にノミネートされた頃は、市内のホテルを渡り歩く生活をしていた。

1930年にルイスがノーベル文学賞に決まったときは、このアパートで受賞を知らせる電話をとったのだという。ところが、スウェーデンからのその電話を、ルイスは友人の1人がわざと下手クソな北欧訛りの英語を使ってイタズラ電話をかけているものだと勘違いして、途中で電話を切ってしまったとか。

素顔のルイスは計画性のない御仁というのか、いつも突然に家に客を連れてきては、自分は疲れて寝室にこもってしまったりしていたそうだ。そうなると、ドロシー・トンプソンもいつ来客が来てもてなさなければならないかも知れず、客が来て騒ぐとなれば、ろくに仕事もはかどらない。そんなこんなで夫婦の仲に亀裂が生じ、結局、離婚。ルイスはセントラルパーク沿いの高層アパートに引っ越していった。

EDITH WHARTON bibliography:
The House of Mirth (1905)
Ethan Frome (1911)
The Age of Innocence (1920)
Old New York (1924)
A Backward Glance (1934)

HENRY JAMES bibliography:
Daisy Miller (1878)
Washington Square (1880)
The Portrait of a Lady (1881)
The Bostonians (1886)
The Turn of the Screw (1898)
The Wings of Dove (1902)

MARK TWAIN bibliography:
The Gilded Age (1873)
The Prince and the Pauper (1881)
Tom Sawyer (1881)
Life on the Mississippi (1883)
The Adventures of Huckleberry Finn (1884)

SINCLAIRE LEWIS bibliography:
Main Street (1920)
Babbitt (1922)
Arrowsmith (1925)
Dodsworth (1929)

Greenwich Village

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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