少女誘拐・拉致・殺人事件の夏にデビューした異色作「The Lovely Bones」
去年は「summer of shark」と週刊誌が銘打つほど、アメリカ各地の海岸でサメが出没したことが話題として取り上げられ、あたかも全米の近海でサメの数が急増したかの印象を受けました。それが今年は、ユタ州の自宅から拉致されたエリザベス・スマートちゃん事件やカリフォルニア州で拉致・殺害されたサマンサ・ルニオンちゃん事件などが大きく報道され、ある意味で必要以上に子供を持つ親に不安の種を植え付けているような気がします。
この騒ぎをまるで予告したかのように、1冊の本が話題になっています。アリス・シーボルドの「The Lovely Bones」はまったくのフィクションなのですが、主人公の少女が殺された後に天国から事件のことや家族のその後を語るという、一風変わった作風になっています。こう書くとなんだか悪趣味に聞こえますが、この少女の声がユーモアも交えて淡々としていながら、自分のレイプや殺人を描写するあたりが斬新で、書評家にも軒並み絶賛されています。
近くに住む男性が犯人なのではないかと気をもむ父親や、証拠不十分なため手が出せずにいる気のいいお巡りさん、事件以降は何をしても「殺された女の子の妹」としか見られずにとまどう妹、悲しみのあまり引きこもってしまう母親などを見守る暖かい描写が胸を打ちます。少女が語る「天国」でもティーンエイジャーらしい悩みがつきまとうものらしいですね。救いなのは、それぞれが少しずつ立ち直り、少女もやがて自分の死を受け入れていくことです。
エリザベスちゃんやサマンサちゃんを直接知らない私たちにとって、この夏が終われば事件のこともすぐに忘れてしまう所詮は「他人事」なのかもしれませんが、どんなに衝撃的でも一過性のニュースと違って、あらためて小説の力というものを感じさせてくれた本でした。









