知り合いのおちゃらけ編集者は誰よりも繊細な隠れ「バーダー」だったーLuke, We’ll Always Remember Hugendubel!


編集者が本を書くと言うのは勇気のいる行動かもしれない。しかもそれが自己をさらけ出すメモワールならなおさらのこと。

A SUPREMELY BAD IDEAの著者、ルーク・デンプシーとは彼がクラウンにいた頃の知り合いで、ブリティッシュアクセントのめっちゃ面白い人、という印象だった。いっしょに会議なんかしてると、随所でパンチの効いたジョークを飛ばして和ませてくれたものだ。これが日本ならおどけキャラの関西人が東京で働いている感じ。お腹を抱えながら「私はモンティ・パイソンと同席してるんかい!」って気がしたものだ。

私がいた出版社は親会社がドイツのコングロマリットだったこともあって、各国の姉妹社の代表が集まって意見交換する場、というのが毎年のようにあった。その会議がロンドンで開催された時は、みんなのガイド役を買って出て、ひとり張り切っていたルーク。ホテルと会場を行き来するバスの中で、おカマのガイド嬢になりきり「皆様、右手に見えますのが、ジョージ・マイケルが公衆わいせつで捕まったトイレがある公園でございまーす。用事が済んだらゴーゴーの前にウィーウィーを洗いましょうね。(ってこれは日本語に訳すとおかしくもなんともないけど、ヒット曲Wake Me Up Before You Go-Goにひっかけて、言外に人前でそんなものを晒すな、と言っているわけ)」ドイツでの会議でも、彼がおかしなドイツ語アクセントで地元の本屋さんの名前を言うだけで(「ひゅうげんどぅーぶる!」)こっちは床に転がりたくなるほど笑っちゃうんだけどなぁ。

編集者としての彼は、自分が作るのはアメリカのポップカルチャーに絡んだノンフィクションが多くて、個人的に好きな本は泣かせるフィクション。んで自分が書く本はおちゃらけた中にもホロリとさせるメモワール。しかも野鳥観察に関する情報がてんこ盛り。一体どういう人だ、と思うだろう。

今回このメモワールを読んでわかってきたこともあった。ニューヨークにいる日本人の多くが感じていることかもしれないけれど、彼も自分が生まれ育ったスコットランドの田舎町がどうしても性に合わなくて、アメリカに渡って来た口だ。普通にアメリカ人女性と出会って、普通に子供も設けたけど、やっぱり何かがしっくり来なくて、離婚してしまった。そして心の奥で自分も思い切り傷ついている。

友人夫婦と野鳥観察の旅に出たのも、自分の居所を探してのことだ。もちろんルークのことだから、そんなことをオセンチに語ったりはしないけど。それどころか、表紙であーた、道路に寝っ転がってますけど。

自分で本を出してみて、著者の立場が痛いほどわかるようになったとも言っていた。つまり、本が売れてくれて、一人でも多くの読者に読んでもらうためになら、何でもする用意があるのだけれど、忙しくて編集者がかまってくれないとか、マーケティングするにもどうやれば効果的なのかわからない、とか。

確かに、この本、売る方としては困るよな。読めばほとんどの人が「面白い」と言うのはわかっているのだけれど、ターゲットが絞りにくい。ユーモアたっぷりの語り口って、人に伝えるのが難しいし、対象読者はって誰? 野鳥観察が好きな人?

ということで、せめて私がどんな人にもお薦めしたい本、としておきましょう。ルークは今、ペンギン傘下のHudson Street Pressというインプリントにいて、精力的にタイトルをとっているようです。

A Supremely Bad Idea: Three Mad Birders and Their Quest to See It All

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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