大型チェーン店のバーンズ&ノーブルが世に送り出す新人賞ーBarnes & Noble proves its contribution to discovering new authors


バーンズ&ノーブルといえば、全米に500店ものメガストアを持つアメリカ一の書店チェーンとして知られている。そしてその存在は、インディペンデントと呼ばれる小書店や、小出版社を脅かすものとされている。そのレッテルを払拭するだけのためではないだろうが、一方でバーンズ&ノーブルは積極的に無名の新人を送り出す「ディスカバー」というプログラムをもうかれこれ10年もやっていて、今までに書店内の特設コーナーやオンライン書店のページで1000人もの新人作家を紹介してきた。

年に1度、その中から最優秀作のフィクションとノンフィクションの作品を選ぶ発表会を覗いてきた。3名ずつの最終候補作を見て、去年、大ブレークしたアリス・シーボルドの「The Lovely Bones」が入っていたので「な〜んだ、決まりジャン」と思ったのがどっこい。次点にも入らなかったのだ。売れ行きにこだわらず、審査員がいいと思った新人を選んでの結果らしい。それも、こういった賞には珍しく、短編集が選ばれたのだ。

めでたくフィクション賞に選ばれた「The Shell Collector」の著者ダニエル・ドアーも、まさか自分が選ばれるとは露にも思わなかったらしく、壇上で思いっきりパニックしていた。

「今朝、シャワーをしている時に一瞬、受賞したらどうしよう、いちおう何かスピーチを考えておいた方がいいかなぁ、とは思ったんすけどね。でも僕の作品は短編集だし、ベストセラーの本も候補作に入っているし、とるわけないな、やっぱりいいや、と思ってホント、何も用意してなかったんですよー。参ったな」と言ってオドオドしていたのが、いかにも内気な物書き、という感じで、会場を和ませていた。

同じフィクション部門で、惜しくも受賞を逃したのは日系アメリカ人の女流作家、ジュリー・オオツカの「When the Emperor was Divine」。NYタイムズのミチコ・カクタニもかなり好意的な書評を載せていたので、読んだのだが、やはりテーマは戦時中、強制収容所に送られた日系人の話だった。使い古されたテーマとはいえ、エッセンスだけをギュッと詰め込んだ研ぎ澄まされた叙情的な文章に才能の片鱗を感じさせる。聞けば、イェール大卒、コロンビア大でライティングを専攻した才媛。

残念ながら3位になったアリス・シーボルドだが、やはり候補者の中では一番名前が売れているだけあって、サインを求めるファンが大勢取り巻いていた。でも、表紙が汚れないように透明のプラスチックカバーをかけた同じ本を何冊も抱えてサインしてくれ、なんて頼むのは、後でネットオークションで売りさばこうという意図が見え見えで、イヤなものだと思うんだが、彼女は淡々とサインしておりました。

で、ノンフィクション部門の候補作だが、候補作の中ではマシュー・ハートの「Diamond」しか読んでいなかったので、予測不可能。結局、2年前に実際にテキサスで起こった黒人リンチ事件を追ったルポタージュ「A Death in Texas」が受賞。この本は、KKK崩れの白人グループが、何の罪もない男をチェーンで車に縛り付け、引きずって殺したという残酷な事件の一部始終を追って、人物模様を浮き上がらせたもの(らしい)。関係者がとかく避けがちなトピックだが、それを敢えて直視したガッツは評価されていいだろう。

候補者だけでなく、審査員もプレゼンターも作家とあって、自分は候補になったけど、選ばれなかったとか、自分も受賞したときは嬉しかったとか、和やか〜な雰囲気。普段は孤独な執筆業に携わる人たち、こうやってたまには、同業者と言葉を交わしあい、他の人の作品をじっくり読む機会を大切にしているようだ。

written by

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
Related Posts
© Copyright - Books and the City - All rights reserved.