Columbus Circle


「コロンバスサークル」と言えばセントラルパークの南西の角を指す。アッパーウェストに向かう車で混雑する交差点だが、まず目に入るのが2棟の工事中のえらく立派な高層ビル。何を隠そう、ここが建設中の世界一規模のメディア・コングロマリット、AOLタイムワーナーの本社ビルなのだ。ITバブルがはじけ、9月11日のテロ事件以降アメリカの景気も下降気味で、AOLタイムワーナーの株も急降下、以来リストラを始め、その一環として出版部門のワーナーブックスが売りに出されている。

それにこのビル「呪われている」とのウワサしきり。着工以来、この工事現場で何人も事故死しているし、ついこの間も火事があったばかり。完成の暁にはAOLタイムワーナーの他にも、書店チェーンのボーダーズをはじめとする一連のお店や、ロサンゼルスから「銀座寿司幸」が乗り込んでくる予定なのだが、ハテサテどうなることやら。

ま、それは置いといて、来月からこの界隈で働くことになっている私、何か面白いものはないかなとこの辺りを探検してみることに。結局、このウェブページで紹介できそうな文学がらみの「名所」といったら「星の王子様」で有名なサン=テグジュペリがフランスからアメリカに逃げていた時に住んでいたアパートがあるぐらいか。

今や世界で5000万部も売れているというから「Le Petit Prince」は童話文学最高峰のクラシックと呼べるだろう。こんなホームページもあるぐらいだ。アントワン・サン=テグジュペリがアメリカにいたのは第2次世界大戦中の1941年から43年の間。彼が本国フランスで飛行士として活躍していたのはよく知られているが、祖国がドイツに降伏した後、自らこの地に亡命してきたのだ。

彼が「星の王子様」を書き上げたのは、セントラルパークに面した240番地の「サンドメニコ」という建物。セントラルパークサウスと言えば、五番街にある煌びやかなプラザホテルや高級コンドを想像してしまうが、サンドメニコはこのブロックでも一番みすぼらしいというか、フツーのアパートに見える。出入りするのも老人ばかりで、きっと入居して50年、家賃も数百ドルしか払ってないじいさん、ばあさんばかりと見た。

ここに住んでいた頃のサン=テグジュペリは、タバコ吸いまくり、コーヒーやコーラをカブ飲みしながら、徹夜で「星の王子様」を書き上げたのだそうだ。昔、読んだ本に「星の王子様」は実はナチス・ドイツに対する怒りと、祖国フランスのふがいなさに対する嘆きを込めた政治的な本で、児童文学なんかじゃないとする説があって、言われてみればナルホドね、と思って読み返した記憶がある。

サンドメニコの23階にあった彼のアパートを訪ねた友人は、バスタブいっぱいにスープを作ったり、ベランダからセントラルパークに向かって無数の紙飛行機を飛ばしたり、道行く人に水風船を投げつけたり、といった奇行に走るサン=テグジュペリを目撃したそうだ。

異国の地に安穏と暮らすよりも、愛する祖国フランスの自由のために戦うことを望んだサン=テグジュペリは、ようやく1944年にフランス空軍のパイロットとしての任命を受け、ひとり偵察飛行に旅だったまま、帰らぬ人となった。

コロンバスサークルからはセントラルパークを散歩するのもいいが、1ヶ所カフェを紹介するなら「ペトロシアン」カフェがお薦めかな。7番街の57丁目と58 丁目の間にある。ここは日本のガイドブックにも載っているか、雑誌でも紹介されているらしい。お客のほとんどはロシア語でくっちゃべるアッパーなバブーシュカ系のおばーちゃんなのだが、その中にチラホラと日本人女性を見かけるからだ。みんな「これが定番よ」と言わんばかりに紅茶とケーキをいただいている。

でも、ここはもちろん7番街と58丁目の角にある高級ロシア料理レストラン「ペトロシアン・パリ」経営のカフェ。ベルーガ、オセテラ、セヴルーガの3種類のキャビアセット(120ドル)で散財するのもよし(実行するときは誘ってね)、サーモンやチョウザメの薫製を使ったクラブサンド(18ドル)やキャビア入りのシーザーサラダ、カモとアヒルのフォアグラもある。まっピンク色のボルシチは、シンプルで甘め。ケーキのお土産もいいが、私は帰るときにクロワッサンやバゲットを買うことにしている。

Columbus Circle

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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