この世界はお嬢ちゃまとお坊ちゃまばっかりで疲れますこと
言うまでもなく、アメリカの出版業界の中心は、全米一物価の高いニューヨーク。大手版元も、トップエージェンシーも、マンハッタンに集中している。ランダムハウスとか、サイモン&シュスターとか、ペンギン・パットナムとか、メディアコングロマリットの一部として書籍部門がある出版社や、ウィリアム・モリス、ジャンクロウ&ネスビット、インクウェルといった大手エージェンシーのオフィスはミッドタウンに集中し、もう少し小さいインディペンデント系の出版社やエージェンシーはダウンタウンに散らばっている。
定期的に業界誌「パブリッシャーズ・ウィークリー」で年給比較統計なるものが発表され、それをそのまま円に換算すると「そんなに悪くもないんじゃない?」と言われるのですが、ところがどっこい、家賃なんて明らかに東京都心の2倍はするこの街で、このお給料で暮らしていくにはけっこう厳しいものがあるのですよ。
というわけで、あまり知られていない米出版界の真実—それはおしなべてみな薄給ということ。日本だと、大手出版社の正社員のお給料はやたら高くて、編集プロダクションだと労働条件が悪い上にもらえるお金はスズメの涙、というパターンがありますが、こっちは大手もみなシワい。そりゃ、徹底した格差社会のアメリカなので、トップレベルの人たちは破格なのだけれど、他の業種と比べた場合、明らかに低いのが現実。みんな、「とりあえず本が大好きで、本に関わる仕事だから苦に思わない」のである。
実際にその中で働いてみるとわかるのだけれど、この業界は競争社会とはいいながら、他の業種と比べると明らかにのんびりしているというか、あまりガツガツしたハングリー精神が感じられない。人種でズバっと言ってしまうと、白人とユダヤ系の人ばっかり。黒人、ヒスパニック、アジア系のマイノリティーは珍しく、こっちの企業で働いている日本人にいまだかつて出会ったことがありません。(ペンギンの版権部でアシスタントをしている日本人名の子を見つけて、わざわざ「少ないよねー、同輩が」というメールを送ってみたことがあるぐらい。)
たまーに、ジャパニーズ・アメリカンの例外がいるぐらいで、そこそこ名前が知られているのは、NYタイムズの書評家、ミチコ・カクタニと、番記者のモトコ・リッチあたりかな。
ハッキリいって、後はみーんな、裕福なおうちのお嬢ちゃま、お坊ちゃまが多いんです。だってやっぱり、親が移民の出で、頑張って苦学生やって大学に行きました、っていうような人はもっとバリバリ稼げるファイナンス系やロースクール、最近ではエンジニアにITにバイオテクノロジー系に進むでしょ。文系でのほほ〜ん、としているのは「別に儲けなくたっていいしー」「本に携わる仕事がしたいんだもーん」というどこかお気楽な人たちが多くなってしまうのですよ。
ま、生き馬の目を抜くようなギスギスした職場なんて、私もゴメンですぅ、という気持ちと、好きなことしてればいいのよ、という親のサポートがあったからこそ、私もこうやって勝手気ままに仕事をしているわけですが。
でも、この「のほほ〜ん」には2種類のパターンがあって、明らかに親の援助もあり、どう転んでも将来の心配をしなくていいから出版界にいる人と、貧乏なんだけど、お金のかかりそうなことに興味がなく本さえ読めればいいからこの世界にいる人に分かれる気がしますね。
私も仕事上、あっちの業界人や、こっちの出版人に会う機会があるわけですが、高校はスペンスやダルトンといった私立校(グウィネス・パルトロウの母校といえばお分かりかと)、大学はプリンストン(文学部が有名で、ジョディー・フォスターやブルック・シールズが通ったことで有名)ってな人がわんさかいて、時おり、別世界に住む天上人ですかい、ということもあります。
しかも、こういうホントのお嬢ちゃま・お坊ちゃまとなると、バーキンを持つとか、ポルシェに乗るとか、わかりやすい成金的兆候は一切示さず、見かけは質素だったりするから始末が悪い(?)。ま、いい人たちなんですけどね。









