ハーバード女子大生の盗作問題 量産YAの落とし穴


アメリカでこの数年、最も伸びているカテゴリーがYA(ヤング・アダルト)と言われるものです。これは12~18歳のティーンエイジャーを対象とするマーケット、しかも圧倒的に女の子中心の読者層を指します。ジャンル的にはファンタジーや学園ものが多く、このYA層が「shojo manga」にも手を伸ばしだしたのがきっかけでアメリカでもマンガがブレークするようになったのです。

彼女たちは携帯電話でメールも打つし( textがとうとう動詞になってしまうほど)、インターネットで日記代わりにブログもつけていたりするけれど、リアルタイムで「ハリー・ポッター」を読んで読書の楽しさに目覚め、ベイビーシッターで稼いだお小遣いをせっせと本につぎ込み、年間1000億ドル近い売り上げ総額を提供します。つまり版元側にとっても無視できないマーケットなわけで、その需要を次々に作品を提供しなければならないことが今回の事件の背景となっている気がします。

カーヴィヤ・ヴィスワナサン自身も教育熱心なインド系の家庭に育ち、サルマン・ラシュディーもジェーン・オースティンも読めば、こういったYAの本も大好きという典型的なアメリカのティーンエイジャー。

版元のリトル・ブラウンは、デビュー作家にしては破格の50万ドルというアドバンスで彼女のデビュー作HOW OPAL MEHTA GOT KISSED, GOT WILD, AND GOT A LIFE(長いタイトルですが、訳すと「どうやってオーパル・メータがキスして、ハジケて、自分を再発見したか」ぐらいの意)を出しました。しかも、容姿端麗なハーバード女子大生のデビュー作ということで、YAマーケット以上のアピールがあると踏んだのか、YAではなく一般図書・文芸書として売り出したのです。

事件発覚のきっかけとなったのは、ハーバードの学生新聞によせられた投書でした。YAの人気シリーズ、メーガン・マキャファティーのSLOPPY FIRSTSとSECOND HELPINGSによく似た言い回しがたくさん出てくる、と。確かに、双方を比べてみれば固有名詞を取り替えるなど、機械的に検索していたのでは出てこないけれど、偶然の一致にしては似過ぎている、という箇所が何十カ所もあったことがわかりました。

当初、このことが明るみに出た時、ヴィスワナサンは「私自身もマキャファティーのファンで、何度も作品を読み返したため、無意識に似た文章になってしまったようだ」という弁明をしました。ところがこれでは済まされず、さらに他の出版社から出ていたチックリット(女性向け読み物)にも似ている箇所があることがわかりました。

結局、最初は改訂版を出すとしていたリトル・ブラウンは、著書を全て回収し、2作目の話もなくなってしまいました。

今回の事件は、まだ20歳にも満たない著者の認識が甘かっただけなのか。

ところが、出版業界としては触れられたくない存在にスポットがあたることになってしまった。パッケージャーである。(続く)

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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