『ぼくらの時代の本』はこれからずっと先のぼくらの本ーA book for the ages to come


ボイジャーさんから献本が送られてきたので拝読。翻訳者として私の名前もカバージャケットに載っているけれど、実はこの中の第3章をちゃっちゃと訳しただけなのでなんだか申し訳ない気がする。樋口さんの名前の10分の1くらいの小さな字でいいくらい。

クレイグと最初に会ったのはいつだったっけ? Chin Music Pressという、本社がシアトルにあるとんがった小さなアメリカの出版社からArt Space Tokyoという本を出していたのは知っていて、共通の知人も何人かいたからずっと前からそういう人がいるというのは知っていたんだけど、ちょうど2010年が日本で「電子書籍元年」とか言われていて、iPadが発売されて、クレイグのブログで彼の”本”に対するこだわりが書かれていたのに共感して、「これ、日本語にしてブログに転載していい?」と連絡とったのが最初といえば最初だった。

AST

それが縁で、インプレスから出たiPad出版攻略本みたいなのに、1章ずつ寄稿して、ブログのエントリーは結局、お互いのブログに日英併記で載せて、私が東京にいたときに「会おうか」みたいな軽いノリで渋谷の豆腐料理店で会ったんだよな。うん。思い出してきたぞ。あそこのお豆腐、また食べたいな。

それでどうして日本で暮らそうと思ったの?とか出身地はどこ?みたいな話をしたら、実はちょうど日本を引き上げようと思ってさーと、打ち明けられてすごく残念な気持ちになった。だって、クレイグが初めて日本に来て、いちばんハートにズギューンと来たのが本屋さんとそこに並んでいる日本の本のデザインだった、っていうんだから。お上が「クールジャパン」を売り出す前から、日本の何がクールなのかをよくわかっていたってことだよね。

その書籍業界がそろそろEブックに対応してかなきゃならないのは誰の目にも明らかだったのに、出てくる議論はどれも「黒船が来るだ〜どうすっぺ?」みたいな情けない官軍節ばかりで、クレイグにしてみれば、その日本のデザインの細かいこだわりをデジタルでも活かしてくのかなと思ったら、なんにしても後ろ向きで、ちっとも「変わらない(出版業界に限らず日本社会全体の話だよね〜、いつまで不況なのかね〜という話だった)」ことに心底ガッカリして、もう諦めて帰ろうってんだから、こっちも申し訳ない気持ちでその時は別れた。

まぁ、もともとクレイグって普段からあちこち旅をして、どこにも定住しない(それこそノマドだよな)で、パソコンさえあればどこでも仕事して暮らせるよ、みたいな人だから、その後、出勤途中のスティーブ・ジョブズを見かけるような、今をときめくIT企業が集まるシリコンバレーど真ん中でフリップボードで働いているって聞いたときも、(すごくひょんなことからフリップボード創設者のパートナーが日本人だということを知ったこともあり)あ〜、なるほどぉ、と思っていた。

その後、私もちょくちょく東京に行かざるを得ないような仕事になり、クレイグも日本にいることが多くなって、ボイジャーさんに「こんな人がいるよ」って繋いだことになってるのかな? 日本の出版業界のケビン・ベーコンと呼びたくなるNさんに紹介した記憶しかないけど。そういう縁から、今回の『ぼくらの時代の本』みたいモノが生まれたことに少しでも貢献できたのならこんなに嬉しいことはない。

ぼくらの時代の本ボイジャーの担当者Tさんもクレイグも、私がこの本の「マザー」などと持ち上げてくれたけど、そんなつもりは全然なくて、せいぜい「産婆さん midwife」かな。本が出来上がっていく過程で横にいて好き勝手に「Push! Breathe! Yes, you can do it!(頑張れ!もいっちょ、いきむ!フッフッフって息して!)」と応援してました、ぐらいの感じ。

挿絵の一つ一つから、注釈の文章まで、クレイグがこだわって作った本だから。そもそも本っていうのは、編集から装丁まで徹底的にこだわって作るものなんだろうけど、本作りのサイクルが長い(というかそれが普通だと思っていた)アメリカから眺めると、日本のそれは企画を通してから書店に並ぶまでがめちゃくちゃ短くて、だからこそ、数週間で「旬」を過ぎた本が返品されてくる。返品率40%超えてるでしょ。著者もろくに印税もらえてないだろうし、作る方もしんどいでしょ。

『ぼくらの時代の本』はそうならないでほしい。これからの時代に本を作るにあたって考えなければならないことが詰まっている。これから何十年も経っても、黎明期の電子書籍はこんな風だったんだなぁ、と理解することができる。どうやって本を作って、どうやってそれをみんなに読んでもらうか、フォントの選び方からクラウドファンディングのやり方まで書いてあるから、きっと誰でも自分で本を作りたくなってくるはずだ。

なにはともあれ、この本にはクレイグの本のフォルムに対する愛情が詰まっている。かなりオタッキーな人なんですよ。Techieテッキーなんだけど、レトロでジャポネスクなものも好き。見本刷りが届いた時は、本の匂いを嗅いでスーハーあへあへしてたに違いない。12月15日に代官山の蔦屋で出版記念のイベントがあるらしいので、行ける人には行って欲しい。そしてクレイグに会ったら伝えてください。「照れ屋なのはわかったから、カメラ向けられた時にいつも変顔するのはやめれ」と。

 

written by

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
© Copyright - Books and the City - All rights reserved.