アメリカなんてちっとも良い国じゃないよ、という話


いつもニューヨークから「日本のここがアカン」と上から目線で文句垂れているようにに見えるせいか、よく「出羽の守」と批判されます。

2ちゃんあたりで「うるせぇよ、在外ババアが」と罵倒するネトウヨにしてみれば、愛する祖国の悪口は耐えられないのでしょうが、こっちとしてはその愛国心ゆえの発言です。だって外にいるからこそ日本のおかしいところが見えるようになって、それを指摘しているわけだから。愛する国だからこそ恥ずかしくないように振る舞って欲しいと思うから。

たまたまそこで暮らしているからといって、私がアメリカという国を盲目的に愛しちゃっているかというと、そうではありません。むしろ逆。アメリカの嫌なところもいけないところも人一倍よくわかっているつもり。

最近、仕事とは関係なく読んだ一連のノンフィクションの本のせいで、アメリカという国に嫌悪感を感じ、絶望したり、一縷の望みを抱いたり、やっぱりあんまりいい状態ではないよな、という思いを強くしたのであります。そんな4冊の本を紹介していくことにします。

まずは日本でもそのうち出るだろうし、ファンも多いマイケル・ルイスの最新刊「フラッシュ・ボーイズ」。さっそく映画化の話も進んでいるようだし、これは読み物としてかなりお薦め。英語で読めるなら洋書で今すぐ読んで損はありません。2008年のリーマン・ショック以来、同じウォール街の裏事情暴露本なんていくらでも出ているわけですが、やっぱりルイスは人物描写がピカいち。しかもみんな実在してて実名で書かれているので、グーグルで名前を入れて画像検索しながら読むとさらに面白いかも。

Flash Boys: A Wall Street Revolt

個人的に私はウォールストリート、特に株の派生商品のトレーダー業界、つまりイケイケでマッチョなアメリカの金融業界が大嫌いなのですが、それをさらに増幅させるような内容でした。資本主義の国に住んでいるのだから株式での取引が会社を育て、人々の生活を潤す源となっているのだ、というのはわかるのだけれど、このマネーゲームがあまり生産的な活動とも思えないのですね。

「株を取引するなら、正確な情報に則ってみんな平等に」なんて建前が全く通用しない、つまり規制の網をくぐり抜けて、一般投資家を食い物にするHFT(High Frequency Trading)の世界を暴き、そこに新しく公平な株取引場を作るはみだしっ子ヒーローたちが出てくるストーリーなんだけど、主人公チームが日系カナダ人、アイルランド人、ユダヤ系ロシア人、ってな組み合わせがいいよね。

チェースやバンカメ、メリルリンチにワームーなど、狡いことばっかりしているアメリカの大手投資銀行とは別に、業界でバカにされてるカナダの国立銀行の善人ぶりww。アメリカとカナダを「北米」と文化的に括ってしまうことが危険であると気づかせてくれます。お国柄がだいぶ違うんで。

出版業界でもアメリカとカナダの出版社じゃかなり違う。もちろんカナダではアメリカの出版社が出す本も普通に買えるので、カナダ独特の出版文化はなんじゃらホイ、というと難しいんだけど、トロントなんて、文化的にはニューヨークより質が高い街だと思うし、考えてみれば私が個人的に好きな作家はアトウッドとかマンローとか、カナダ出身が多いし。カナダ人の方がおっとりしてる、って感じかな、eh?

アメリカと違って、カナダではちゃんと国民健康保険がちゃんと機能しているし、狩猟好きでみんな銃持っているけど、銃による殺人も事故も少ない。マイケル・ムーアが『ボウリング・フォー・コロンバイン』で「カナダ人って玄関に鍵かけないってホント?」という実験をやっていて、犯罪率が高いアメリカのデトロイトから湖を渡ってすぐのトロントに行って、いきなり人様のお宅の玄関を開けてみる、というシーンがあったけど、数キロ離れて国境超えると、これだけ感覚が違うんだよね。

日本語でなんて訳せばいいのかな? このtemperamentの違い、つまり「温度差」がそのままルイスの「フラッシュ・ボーイズ」に出てくるブラッド・カツヤマの性格に表れていて面白かった。 と同時にそれはいかにアメリカ人が強欲で、ギトギトしてて、余裕がなくて、金の亡者で、ズルイか、って話になるんだけどね。

ルイスの本発売開始直後、そのカツヤマさんがCNBCに出てHFTで儲けている輩と出演して、NYSEのトレーダーたちが仕事中に見入ってしまったというシーンがこちら

私をアメリカ嫌いにする2冊目がマット・タイービの「Divide」。副題がAmerican Injustice in the Age of the Wealth Gap。

タイービはずっとローリング・ストーン誌の若手記者として、アメリカの大手投資銀行の悪行をずっとシリーズでレポートしていて、いつも読み応えがあるんで注目しているジャーナリスト。

実はその昔、まだ男の子だったマット・タイービに会ったことがある。

マットのお父さんはマイク・タイービと言って、3大民放局を渡り歩いてきた社会派のレポーターだった。ハリケーンの中継や映画のプレミアにはお呼びではないけれど、ニューヨーク市内のヘイトクライムや世界のどこかで内戦勃発、なんて事件には欠かせないタイプ。エドワード・モロー賞を4回も受賞している。

私はまだ大学在学中でテレビ局のインターン(平たく言えばパシリだ、パシリ)をしている時に、スタジオにやってきたマイク・タイービと出くわした。その日は午後の収録だけだったマイクは「息子のマシューです」といって周りに紹介していた。「僕もお父さんみたいなレポーターになるの?」と聞かれて「うん、そうだよ。でもテレビに出るかどうかはわかんないけど」と答えていた。

マシュー君は「お父さんはこれからビデオ撮りだからあっちにいってなさい」と言われてお行儀よく大人しく座って、じーっとお父さんの仕事ぶりを見ていた。ADのお姉さんが「何か質問があったら遠慮なく聞いてね」って言ったときに、マシュー君が「うん、大丈夫。後でお父さんに聞くから」と答えたのだけよく覚えている。Dad、じゃなくてFather、って言っていた気がする。

その時から何年も経って、最初にテレビで「マッタイービ」って聞いたとき「あれ?今誰かマイクタイービ」を言い間違えた?と思ったけど、画面に映っていたのは、まぎれもなくあの日のマシュー君だった。

そのマット・タイービが書いた本はアメリカにおける富裕層と、貧困層の違いをまざまざと浮き彫りにしていて怖気だつ。収入が違う故のライフスタイルが違うことなんて問題じゃない。それはあたりまえだ。だが、憲法の下で万人に保障されているはずの人権がここまで違ってくることが恐ろしい。

世界の富の40%を滅ぼしたとされるリーマン・ショックをきっかけにしたサブプライム・ローンバブルの崩壊の原因を作った大手投資銀行の人たちは結局だれ1人として罪に問われることなく、会社が雀の涙の罰金を払って終わりなのに、移民として辛い仕事をして家族を養おうとするだけで、あるいは黒人が夜中に道に突っ立っていたというだけで逮捕され、長く不毛な裁判の手続きを踏まされ、罰金を科され、さらなる貧困に落ちていく。

この数十年で犯罪率はどんどん下がっているのに、服役中の囚人の数は増えている。しかも白人以外の男性の比率が高く、その刑務所が私営となって富裕層がさらに儲けている。

ニューヨークにいると、富裕層の1%の人たちも、最下層の不法移民の人たちも、同じように目にする。もちろん個人的にはどちらにも属していないから、それがどういう人生を送ることになるのかはわかりづらいんだけど、マット君はその両方の世界に飛び込んでいって伝えてくれる。普段は大人しい、行儀良いマット君だけど、行間からthis f*cking bullsh*tという怒りが伝わってくる。

日本でもちょうどこんな番組が放映されて話題になっていたようだけれど、これは物理的な分断で、アメリカという国では貧富の差は既に開ききって違う世界を生きている。堤未果あたりに言われるとムカっとするんだけどねw

富の再分配が偏りすぎている。ちっとも公平じゃない。

お金持ちの人は税金払うのは嫌がるけど、寄付をいっぱいするからいいんだよ、という意見に私は全く賛成しない。金持ちがする寄付なんてアートだの、既にエリート御用達の学校だの、自分たちが住んでいる既に豊かなコミュニティーだのに向けられて、本当に予算を必要としている最下層への福祉になんて回らないからだ。富の再分配は政府にしかやらせてはいけない。それが非効率だ、下手だと言うのなら、効率よく上手にできるように、金持ちがロビイストでも送り込んでみろよという話だ。

しかもアメリカ経済全体を停滞させているのは、ミドルクラス、つまり中間層がどんどん貧困層に落ち込んでいることだ。もう親の世代の時代のように、大学を出てコツコツと働けばそこそこの生活ができるアメリカンドリームなど存在しないに等しい。今日もニューヨーク・タイムズに「アメリカの中間層は既に世界一ではなくなった」という記事が出ていた。

公私立にかかわらず、アメリカでは学費が恐ろしい勢いで高騰している。卒業の時点で何万ドルもの赤字を抱えることも珍しくない。これでどうやって教師や、ジャーナリストや、福祉といった、給料は安いけど志のある人たちがやらなければ回らない仕事に就こうという人が確保できるのか?

では怒ったところで何ができるというのか。国会議員は既に富裕層のロビイストたちに絡め取られて対立させられ、次は万人に平等であるはずの投票権も、違法な規制によってビンボー人に不利になるようにされつつある。

リボ払いがお得ですよ、持っていると便利ですよ、とまだ収入がない大学生や、低所得者層を相手にクレジットカードを大量に発行した大手銀行と常に戦ってきたのがエリザベス・ウォーレンだ。最初はハーバード大学で米倒産法を研究した教授として、次に政府の要請で米消費者金融保護局の創設者として、そして今やマサチューセッツ州の米上院議員として、常にアメリカの中間層の発展こそがアメリカ経済を回す起爆剤だと主張してきた。その彼女の最新著書がA Fighting Chance。

A Fighting Chance

同じ政治的にリベラルでも、借りた金は返せよ、文句はそれからだ、という主張をする人が友人にもいるわけだけれど、その人たちはfiscally conservative liberalであって、私は、カネ貸す方がプロなんだから、返せそうもない人にカネを貸す方が悪い。そいつらが間違いを犯したと言うことで泣き寝入りは当然、という考え方だ。

ウォーレンは、自分自身もぎりぎりミドルクラスの家庭に生まれ、学費が年間100ドルしないような公立のコミュニティー大学で勉強できたから今の自分があると訴える。上院に立候補したときの有名なスピーチがある。

「自分の力だけで立身出世を果たしたという人へ、おめでとうございます。好きなだけ人生を謳歌して下さい。政府に一切たよらず、1人で大きい工場を建てるに至ったから税金は支払わないですって? その工場に物資を搬入したり、配送したりするのに使った道路、それは税金で、つまり私たちが払ったお金で作られたものです。大勢の部下を雇った? その優秀な社員の人たちは学校で、つまり私たちの税金を使った教育機関でその能力を培ったのです。その工場が安心して運営できるのも、いざとなったら警察や消防署が来てくれるのも、つまり私たちの税金を払っているからなのです。成功したのは立派です。儲けの大部分はとっておいて下さい。でも次に来る若者のために税金を払うのも当然の「社会契約」なのです。」という内容。

そして4冊目はお馴染みのラルフ・ネイダーの新刊、ノンフィクションのUnstoppable: The Emerging Left-Right Alliance to Dismantle the Corporate State。彼が主張するのは、アメリカが既に民主主義の国ではなくて、少数の私企業に乗っ取られたCorporatist国家になってしまったということ。

前回、数年前に話を聞きに行ったときは「次は最低賃金を上げる運動をするべきだ」と言っていたのが最近、現実味を帯びてきて、やっぱり先見の明があったのねと恐れ入ったところだったので、今回は意外にも新著で「実はリベラルも保守派も折り合える部分はある。そこを運動につなげるべき」という提言で、例えば、リベラルな人も、コンサバな人も、企業が方の抜け穴を利用して政府から援助を受けたり、税金控除をしたりするのはおかしい、という部分では一致している。いっしょに活動できる、という具体的な主張をしているわけですね。

ぶっちゃけ言えば、アマゾンみたいな企業がEコマースの法律が整っていないのを理由に消費税をユーザーに課さないのはズルイというのは、政治的思想の左右にかかわらず、対処できるはずだということ。ただ、最近、日本の政府が「税理士らを通じて自主的に税金を納めさせる」とか息巻いているようですが、甘いと思います。その辺の事情はまた次の機会に書くとして。

ネイダーは他にも、軍事費の見直し(アメリカの軍事費総額はダントツ世界一、2位〜9位の国の軍事費を足したものより多いと最近しきりに言われるようになっている)、大企業の脱税取り締まり強化(デカい会社ほどズルしている金額がすごい)、政府や自治体と取引のある企業の契約書全文公開、など、リベラルも保守も賛成できる改革を25個、提案している。

彼は昔から反核運動家でもあったから、福島第一や東電に対してもビシッと厳しいことを言っている。相手が政府だったり大企業だったり、複雑なお役所手続きだったりしても、ひるむな、1人でも始められることからやれ、とカツを入れている。悲観的リベラルな私には耳の痛いところでして。

ということで、オバマがどこでお寿司を食べたなんてことはどーでもいーから、こういうヒドイところもあるアメリカという国と、どうやってつきあっていくのか、どこは見習って、どこはマネしない方がいいのか、今日も半分空しくなりながらつぶやき続けるのであります。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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