アメリカの電子書籍“ブーム”は終了しましたので


2013年の書籍総売上げの数字がAAP(全米出版社協会)から発表された。これは会員となっている約1200社の売上げ(つまり卸値)を計上した数字で、末端の小売りでの本の総売上げとは違う。

このブログエントリーは修正・補足の上、「マガジン航」に転載されています。文字薄くて読めねー、というならそっちへどうぞ。

そっちの総売上げ金額はブックスキャンの数値から想定するしかなく、具体的な数字は今年後半にならないと上がってこないだろう。AAPの数値にしても、メンバー社の報告のみなので全てをカバーしているわけではない。

それによると2013年の総売上げは約150億ドル、前年比で1%増。私が常々言っているように、アメリカは日本のような「出版不況」という状況にないので(これが理解できない人が多くて不思議だ)、2008年9月のリーマンショックの翌年を除けば、書籍の売上げは毎年数%微増している。インフレ率を考慮すれば、「横ばい」ということもできるが、とにかく、日本のようにここ18年間どんどん落ちっぱなしではない。

特に2013年の前半はどこもペースが落ちていて、このままだとマイナス成長かもと心配されていただけに、年末にかけてクリスマス商戦でかなりとりかえしたということができるだろう。一昨年はYAにカテゴライズされる「ハンガーゲーム」やロマンスに分類された「50シェーズ・オブ・グレイ」というメガヒットが売上げを牽引していたので、それに代わる地道なヒット作が増えたというのも、業界全体にとってはいいニュースだ。いやもう、この2作の快進撃にはちょっと飽きていたのでw

詳しいレポートは有料でAAPのサイトからダウンロードできるが、フォーマットやジャンルによる内訳が大部分である。みんなが知りたいEブックについては、売上げが全体の27%という数字。

要するに、あれだけ騒がれてきたEブックですが、アメリカでさえも3割いかないわけですよ。何年か前はIT関連の予想屋が「数年のうちに本の8〜9割がEブックになる」などと言っていましたが、そいつらがいかに自分たちで本を読んでいないか、PV稼ぎに大げさなことをいっていたか、わかろうというもの。出版社の中の人たちは3割いかない、という数字にけっこう安堵してたりします。

しかも一般書でいうと、2012年は前年比で33.4%の成長率だったのに、2013年は3.8%。でもまぁ、この数字にはウラがあって、出版社から出ているEブックはもはや急成長していないけれど、著者がセルフパブリシングで出しているEブックにかなりの読者が流れたということでしょう。ただし、こちらは刊行点数が増えても、数ドルという値段設定のため、Eブックを出せば誰もがウホウホと儲かるものではなく、ISBN番号もついていないので、一体どれだけの数が出ているのかも掴みきれません。

この5年ほど、日本の出版業界関連の人たちが次から次へとアメリカにやってきてこっちのEブックの状況を掴もうとしているわけですが、それももう終わりでいいかと思います。以下に、数字では見えにくい市場の違いを書いておきますので。

 

・セルフ・パブリシングについて

アメリカ人は基本的に自分で自分をアピールしてナンボ、という個人成果主義の国であり、教育においても「褒めて伸ばす」傾向があるので、アメリカ人は、自分が本を読まないにもかかわらず、みんながみんな「自分にはベストセラーが書けるはず」と思い込んでいる。アメリカの出版社のほとんどが持ち込み原稿を見ないのも、なんたら新人賞を創設して素人原稿を集めたりしないのも、それをやると玉石混交どころか、石ばかりが飛んでくるからなんですね。それを選別するための目利きとしてリテラリー・エージェントがいるわけです。

そういう人が、自分も出版できる!と大勢Eブックを出し始めた。もちろん中には口コミで「おもしろい」という風評が立って、出版社の目に留まり、紙バージョンを出版するまでにいたる本もあります。KDP以外にも色々とセルフ・パブリシング向けのサービスが充実していて、著者の情報交換も盛んです。だけどやっぱり「出版社から紙の本も出してもらう」というのがゴールになっている部分があります。Eブックでいくら儲けてもそれだけじゃ足りないんですね。

今のところ、セルフ・パブリシングの本は1ドル〜数ドルの価格帯が限度で、出版社から出ている新刊のEブックは10数ドルというのが相場。出版社の付加価値が10ドルだと思えばいい感じ。Eブックのおかげで、誰でも本が出せるという裾野は広がったけれど、同時にエージェントを付けて出版社から出すことの意義があらためて見直されたとも言えます。

アメリカで出版社がつくということは、エージェントが搾取されないように印税や版権を管理してくれて、海賊版が出たら対処してくれて、アドバンス(印税の前払い金)という形でまとまったお金をもらえて、出版社が編集からマーケティングを請負い、数年(数作)のコミットをしてくれる、ということでもあります。

これが日本だと出版社から本を出したところで、副次権などの管理はやっぱり自分でやらないといけないし、初版部数はどんどん少なくなっているし、1冊ごとに違う出版社を探さないといけないし、自分の本がどこでどれだけ売れているのかいないのか、さっぱり知らされないし…だったら自分でEブックを出しちゃえ、と思うのも無理からぬ気がします。

だからセルフ・パブリシングについては、アメリカのものは「クオリティー低い」ってことが前提で考えた方が良い。そして日本では、今ここで出版社が自らの価値を著者に示せないなら、ますますコンテンツが集められず、ダメになっていくと思っていいでしょう。特に医学的に何の証明もされていないどころか間違っていて健康を害しそうな健康法やダイエットの本(アメリカだとすぐに団体訴訟が起こって回収させられる)、著者やテーマが旬だからって誰かが聞き取って書き写しただけのような量産本(すぐにネットで酷評されてバレる)、誤字脱字の簡単な校正だけで急いで出した様な即席本…そういうコンテンツを量産して自転車操業をしている出版社はそろそろ持たなくなるでしょう。

その一方で、コボのWriting Lifeも始まり、他のセルフ・パブリシング向けサービスが出始めたら、出版社の存在意義ってなによ?ということになります。セルフ・パブリシングの本に対抗してEブックの安売りをしている場合じゃないと思いますが。

 

・マンガはメジャーじゃない

紙バージョンで出ていた日本のマンガが物珍しさも手伝って、アメリカでそこそこ注目されてた時代はもう終わりました。これからアメリカでオンラインで売り出すことを考えない限り、クールジャパン?なにそれ?という状態になっていくでしょう。アメリカ版のマンガ的コンテンツと言える「グラフィック・ノベル」は、紙で丁寧に作り込んでいくとか、クラウドファンディングで読者を確保するとか、Eブックとは関係ないところでサバイバルの道を模索しています。

日本は良くも悪くもマンガの売れ行きが出版社を支えている部分があるので、Eブックになっても重要なコンテンツなのですが、リフロー可能なテキストコンテンツと違って、データ量がハンパない。そもそもキンドルリーダーの仕様だって、日本で売られているものはローカル端末のストレージ量がアメリカのキンドルの2倍になっているくらい。アメリカだと、アマゾンが本をダウンロードするデータ量ぐらいだったらということで3G回線を付けたモデルで十分使えた。

アマゾンはセルフ・パブリシングの著者に対しては、回線使用料を印税からさっ引いてくるので、マンガをセルフ・パブリシングで出している、出そうとしている人にとってはデータ量は大きな問題で、そういえば先日もKDPでマンガを100円で出せなくなったみたいなニュースを見ましたが、こういうのはアメリカでは全く問題にならないので、この辺をどうしていくかは日本の人たちが自分で考え、システムを構築していかなければなりません。

 

・リテールの形態が大きく変わっているのであって「本屋さんがなくなる」問題ではない

アメリカではバーンズ&ノーブルやブックス・ア・ミリオンのような大型チェーン店と小規模のインディペンデント系書店には大きな乖離があるので、「Eブックのせいでどんどん本屋さんがつぶれている」などと思うのは大きな間違いです。

リーマン・ショックの後では特にガソリンの値段が上がり、代わりにネット回線の発達によって、アメリカでは買い物をするために毎週のようにモールまで車を飛ばす習慣が廃れているし、ウォルマートやターゲットといった量販店で衣食住の全てが安く揃うので、家電だけとか、本だけとか、その他の大型店から足が遠のいているという背景を理解しないと、実態が掴めません。業界規模第2位だったボーダーズが倒産したのもEブックのせいばかりとは言えませんし、バーンズ&ノーブルも自らがヌックというハードウェアを作っている部分で大きな失敗をしたわけですが、オンラインのBN.comでは、Eブックも紙の本も、アマゾンに負けないくらい売りまくっていて、メガストアも少しずつ縮小する方針でクローズしているので、潰れまくって困っているというわけではありません。

その一方でアメリカの小さな本屋さんは、これまでEブック以外の敵と戦い抜いてきているので、残っているところは足腰が強いし、数も差し引きで少しずつ増えているぐらいです。しかも「アマゾンは敵」と理解していて、同じ土俵で戦おうとはこれっぽっちも考えていません。むしろアマゾンにできないことを常に実行してサバイバルの道を模索しています。自動配本で取次から送られてくる本を並べて「売れないなぁ」などと悠長なことを言っている本屋は1軒もないのですから。

 

・人が本を読まなくなっている、と諦めてない

このところ日本でも毎年、企業がこぞってジョークホームページを作ったりしているエイプリル・フールですが、アメリカで「これは一本まいりましたな」とみんなが感心していたのがNPR(National Public Radio、つまりNHKみたいな公共メディアチャンネル)のニセ記事でした。

Why Doesn’t America Read Anymore?というタイトルで本の写真が付いた記事をFBにアップ。多くの人が即座に「そんなことないもん!」「読んでるよ!」「NPRのウソつき!」「この記事、問題じゃない?」とコメントを付けてSNSで流したのですが、最後まで記事をちゃんと読むと「エイプリルフールでした。見出しだけ読んで早とちりする人がどのぐらいいるかという実験です。最後までこの記事を読んでくれた人、ありがとう。これからもNPRをよろしくね」というメッセージが出るようになっている仕掛けだったのでした。

ありえなさそうな新製品、新企画の発表に終始している日本のエイプリルフールジョークとはレベルが違いまっせ。

アメリカは元々、みんながみんな本を読むことに期待していないというか、読書人口では日本とそんなに変わらないと思います。でもやっぱり本が好きな人は好きだし、何が面白いのか自分たちで見つけてくるし、ちゃんとそこにお金を使っています。著者はそういう読者とコミュニケーションをとることを厭わないし、本は「モノ」ではなくて、メッセージをやりとりする「ツール」だと割り切っている感じがします。まぁこの辺は数字で根拠を示せと言われてもムリなんですが、AAPの数字ではわからない部分を説明するとそういうことです。

ということで、アメリカではもうEブックはニュースにもならないし、日本が参考できる部分も限られていますので後は自分たちでどうぞ。

written by

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
  • Ume Take

    米国の場合、電書ブームは終了、(一定の市場を獲得し)次の段階に突入という感じでしょうか。
    Eブックをさらに普及させるためには、DRMを無くす、端末とEブック販売ストアの相互乗り入れを可能にするなど、さらなるブレークスルーが必要となりそうな気がします。
    書籍販売サイトからEブックファイルを端末にコピーする権利を購入するだけという現在の方式では、モノとしての価値と信頼感を備えたうえ貸借り・譲渡・売買できる紙の本に対抗するのは難しいでしょう。

    一方、日本の電子書籍の場合、まだまだ少ない品数、再販制度を引きずった価格設定、端末やリーダーソフトの貧弱さなど、こちらはいまだブーム以前の状況といったのが実感です。
    とはいえ、日本のように本の絶版が多い市場では、電子化で絶版を免れる本や旧作の復活など、将来的には本のアーカイブスとして一定の役割は担って行けそうな気がしています。

    さらに個人的に期待しているのは、従来の販売経路とは異なる個人出版の作品。
    10万と言われるボーカロイドのオリジナル曲、数千のフリーゲーム、数万点に達すると思われる種々多様な3Dモデル、それら3Dモデルを利用したアニメ制作などなど、ネット上に公開されている様々な無料創作物の氾濫を見る限り、日本人の創造性というのもなかなか侮れないと考えています。
    その中から個性的な作品が育ってくれば、出版全体ももう少しおもしろくなるかも知れません。
    ただし気になるのは、そうした多様な表現分野から書くことを選ぶ人たちが果たしてどれくらい登場してくるのかという点。

    以下は書物が活躍(?)する短編アニメ(3Dモデルや音楽などフリー素材を組み合わせ作られた作品)ですが、こうした小説以外の映像分野に人材が流れているというのも、漫画大国日本ならではの現象かも知れません。

    思い出のソラ
    http://www.youtube.com/watch?v=fkuOGF5B3IU
    魔法使いのウサ耳な弟子
    http://www.youtube.com/watch?v=zHAZAnukSEs

  • Ume Take

    米国の場合、電書ブームは終了、(一定の市場を獲得し)次の段階に突入という感じなのでしょうか。
    いずれにしてもEブックをさらに普及させるためには、DRMを無くす、端末とEブック販売ストアの相互乗り入れを可能にするなど、さらなるブレークスルーが必要となりそうな気がします。
    書籍販売サイトからEブックファイルを端末にコピーする権利を購入するだけという現在の方式では、モノとしての価値と信頼感を備えたうえ貸借り・譲渡・売買できる紙の本に対抗するのは、なかなか難しいでしょうね。

    一方、日本の電子書籍の場合、まだまだ少ない品数、再販制度を引きずった価格設定、端末やリーダーソフトの貧弱さなど、こちらはいまだブーム以前の状況といったのが実感です。
    とはいえ、日本のように本の絶版が多い市場では、電子化で絶版を免れる本や旧作の復活など、将来的には本のアーカイブスとして一定の役割は担って行けそうな気がしています。

    さらに個人的に期待しているのは、従来の販売経路とは異なる個人出版の作品。
    その中から個性的な作品が育ってくれば、出版全体ももう少しおもしろくなるかも知れません。
    10万と言われるボーカロイドのオリジナル曲、数千のフリーゲーム、数万点に達すると思われる種々多様な3Dモデル、それら3Dモデルを利用したアニメ制作などなど、ネット上に公開されている様々な無料創作物の氾濫を見る限り、日本人の創造性というのもなかなか侮れないと考えています。
    ただし気になるのは、そうした多様な表現分野から書くことを選ぶ人たちが果たしてどれくらい登場してくるのかという点。

    以下は書物が活躍(?)する短編アニメ(3Dモデルや音楽などフリー素材を組み合わせ作られた作品)ですが、こうした小説以外の映像分野に人材が流れているというのも、漫画大国日本ならではの現象かも知れません。

    思い出のソラ
    http://www.youtube.com/watch?v=fkuOGF5B3IU
    魔法使いのウサ耳な弟子
    http://www.youtube.com/watch?v=zHAZAnukSEs

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