風が吹くと桶屋が儲かり、アマゾンが儲かると郵便局が閉まる—Unexpected repercussions of Amazon on USPS


ここんとこアメリカの書籍出版事業に直接関わるトピックだけになってきたため、このブログの更新頻度が下がり、定期的に見てくれる人が減ってきているようなので、2014年はもう少し話題を広げてもう少し頻繁に書くことにしました。(いつまで続くかわからないけれどねw)

Neither snow nor rain nor heat nor gloom of night stays these couriers from the swift completion of their appointed rounds. (雪であろうと雨であろうと灼熱であろうと夜の暗闇であろうと約束の期間での迅速な配達が妨げられることはない。)

マジソンスクエアガーデン裏(8番街33丁目)にあるニューヨーク市ジェームズ・ファーレー(中央)郵便局の建物には上記のような文が掘られている。米国連邦郵便公社(USPS)の正式なモットーのように思われているが、そうではなくて実は古代ペルシャの騎馬配達隊についてヘロドトスが記したものなんだそうだ。

勇ましい碑文とは裏腹に、日本のそれと比べると、アメリカの郵便配達はあまり当てにならない。そんなことを在米日本人の口から聞いたことのある人は多いだろう。日本から送った小包が行方不明になったり、理由もわからず遅れたり、手荒に扱われて壊れて届いたりする。国内郵便もかなりいいかげんで、切手額が足りなくても届いたり、ご丁寧に「壊れました」との通知とともに何層にもくるまれて届いたりもする。

そして2009年からはずっと赤字で、これからさらに郵便局の営業時間を減らすことや郵便局をドラッグストアや他のリテールの施設内に移すことが検討されている。郵便料金の値上げは頻繁に行われるようになっており、今年も1日から普通郵便が3セント上がって49セントに、海外向けは1.15ドルになったばかりだ。ここ数年、少しずつ上がり続けているので、もうニュースにもならないぐらいだ。Forever Stampを使ってない在米の皆さん、気をつけてね。

でもこの赤字は、実は教育や福祉の分野同様、連邦政府が賄う公共のサービスを極力減らそうとする共和党保守派議員が仕組んだ法案の結果であって、2006年にそれまで退職者の健康保険代は毎年必要なだけ予算に組み込まれていたのが、郵便局の売上げの中から前倒しで確保しなければならなくなった。まだ雇われてもいない、この先も勤務し続けるかどうかわからない将来の局員の分まで。それが年間約80億ドルの負担に。

ちなみに米郵便局の売上げはここ10年ほどそんなに変化はない。Eメールが普及した分、手紙のやりとりが少なくなったが、その代わり、eBayなどのネットオークションで個人取引される小包が増えているからである。

万事テケトーなアメリカの郵便局よりも、もう少しトラッキング機能が正確なフェデックスやUPSといった宅配会社に客を取られているという側面もあるが、その一方で、これら私企業が「採算がとれない」と判断した僻地や遠隔地への配達は結局、郵便局に投げられ、下請けしているのが実情である。というのも連邦政府管轄下の公社であるからには、USPSは住んでいる地域によって料金の差別をせず、すべてのアメリカ国民に等しく配達サービスを提供しなければならないと法的に決められているから。

これがなんで書籍出版に関係した話なのかというと、やはりあの企業が絡んでくる問題だから。日本でも年末に『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』の翻訳版が刊行され、しばらくあのタコ入道さんのことをネットで見聞きしなければならないかと思うと正月からやや憂鬱でもあったのだが。

アマゾンがフェデックスやUPSに対して、配達の仕事をやるからもっと安い料金でやれ、と締め付けた結果、フェデックスやUPSが見放した末端地域では米郵便局が尻ぬぐいをしている構造になっている。

最近、そのフェデックスやUPSさえもやらないアマゾンの「日曜配達」サービスを引き受けることになった。うちのアパートを担当している配達員は、パートタイムの人なので「日曜日も仕事できれば収入が増えるからありがたい」と言っていたが、こんなの、ドイツやフランスでやろうとしたら暴動が起きるだろうなぁと苦笑せざるを得ない。

全ての客に「少しでも安く便利に」という方針の下、アマゾンは配達会社に対し、厳しい条件を出してくるわけで、日本でも昨年9月に佐川急便がとうとうアマゾンの仕事から手を引いたよね。でもアマゾンの言いなりになって必死に安く配達したところで、そのうち例の「無人配達ドローン」みたいなのが実現しちゃったらあっさり切られるだろうけど。

要するにアマゾンは、キンドル以外の「モノ」は全て外の業者から卸していて、顧客の手に届く一歩手前の「宅配」も業者に委託している。そして顧客に負担をかけずに、自分たちが儲けるためには、その源流の「物資」の部分と、末端の「配達」の部分に圧力をかけるというビジネスモデルなのだ。これを「本」に限定すると、搬入する本やキンドルファイル、つまりコンテンツ部分を、今のところは出版社から卸し、配達の部分もまだ自分たちで賄えるようにはなっていないということだ。

去年のクリスマス商戦では、それが裏目に出て、アマゾン側ではちゃんと注文を処理できたのに、クリスマスまでに商品が届かないという事態が発生、アマゾンは20ドルのクーポン券を配って火消しをした。詳しくは「マガジン航」のコラムにも書いた。

 

ここにきてバーンズ&ノーブルが苦戦しているのは、よく言われる出版不況ともEブックの普及とも関係がないように思えます。アメリカでは本に限らず、品揃えで勝負する「ビッグボックス・リテール」全般がダメになってきているからです。状況は家電製品も服飾品も同じです。みんなスマホやパソコンでオンラインショッピングを済ませるようになったから。わざわざ悪天候の中、混雑する店に出向いて、重い荷物を抱えて買い物しなくてもいい時代になってきたというわけです。

でもオンラインショッピングにも落とし穴があって、今年は特にそれが裏目に出ました。クリスマスが近づくにつれてお目当ての商品がどんどん安くなったりするので、少しでも安く買おうと、誰もが発送がクリスマスギリギリに間に合う日まで待って一斉に注文を入れたからさぁ大変。

フェデックスやUPSといった発送会社がキャパシティー以上にムリを強いられたため、結局間に合わないプレゼントがたくさん残されてしまったのです。25日の朝にクリスマスツリーの下にないプレゼントには何の意味もありません。念願のおもちゃを期待していた子供には泣かれ、親戚宅からはケチで無礼なヤツと思われ、クリスマスディナーでは肩身の狭い思い。

オンラインショッピングの大御所アマゾンも、プライム会員にはクリスマス前2日までに注文すればイブに無料でお届け!キャンペーンを売りにしていたため、新規会員入会は拒否されるわ、プレゼントが間に合わなかった客に20ドルのお詫びギフト券を配るわ、と対応に追われました。

 今後アマゾンがこれ以上出版社との取引で卸しの掛け率を下げられない(アメリカではディスカウント・レートという逆の考え方なので、ディスカウント・レートを上げられない)と判断すれば、できるのは出版社以外からコンテンツを持ってくる、という意味でKDPなどのシステムを整えているところだ。だから、今年以降、アメリカにおけるEブックの成長率がこれ以上上がらないとすれば、出版社がこの先考えなければならないのは、いかに自分たちの本(コンテンツ)を代替の効かないプロダクトとして完成させていくかってことなんだろうと思う。本ではなく「プロダクト」と言うのは、製本からマーケティングに至るまでのパッケージを想定しての言葉ね。

裏を返せば、プロの出版社なのにゴミみたいな本を出しているところはそろそろゲームオーバーだよ、って話。自己啓発なんていくらでも本人が書いてセルフで出せばいいし(セス・ゴーディンとかティム・フェリスみたいに)、エセ科学やくだらん健康法、長生きしたければナニナニしろ・するな、とか、日本は他の国からどう思われているとか、隣国の悪口系とか、「○○力」とか、その辺り。

なんかえらく脱線した気もするが、要するに言いたかったのは、アメリカの郵便局の仕事ぶりがダメダメで、しかも赤字なのは、アナタがアマゾンのサービスを安く便利に使うからしわ寄せが行って疲弊してるんですよ、っていう意外な連鎖。

言いたいこと言ってスッキリ。まずは今年もよろしゅうに。

 

 

written by

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
© Copyright - Books and the City - All rights reserved.