お次はドイツの出版事情—Up next, publishing in Germany


前回はフランスの書籍出版事情について書いたので、今度はドイツ。毎年10月に行われる世界最大の本の祭典、「フランクフルト・ブックメッセ」には日本から版権買い付けに翻訳本の編集者が大勢訪れるが、それだけでは肝腎のドイツの書店事情は全くわからないと思う。

おフランスほどぶっ飛んでいないし、日本とも共通点は多いが、ドイツにおける出版文化を理解する上で知っておきたいお国柄というか、基本的なものの考え方はこんな感じ。

 

1)とにかく大都会が大嫌い

2)トレンディーな流行、という価値観がほとんどない

3)社畜になるなら死んだ方がマシ

 

と思っていて、しかも頑固なところがある。この辺が全く日本と違うので、まず先入観を捨ててかからないとわかりにくいかと。

出版ビジネスだけでなく、全てが東京だけに集中し、その他は過疎化する地方で成り立っている日本とは全く正反対(私、最近よく聞く「真逆」という言葉がきらいなので)の国がドイツ。そもそも“首都”という構造がない、というか、ゴミゴミした都会がキライなので作らない。それはドイツ全土の地図を見ても全ての機能が集中した「中心地」というものがないのがわかる。とりあえず集中してないとやりにくいと感じる企業はミュンヘンやフランクフルトが多いが、両方ともそんなにデカイ町ではない。

いちおう首都はベルリン。金融はフランクフルト。フランクフルト空港はヨーロッパのハブなので、外からの人の行き来が必要な会社はこっちに拠点を置くことが多い。でも輸出入業は港町のハンブルグ、日系も含めたメーカー系企業は工業地帯に近いデュッセルドルフ、アート系は今やっぱり面白いのはベルリン、工業地帯は西側のエッセンと東よりのドレスデン。伝統やアカデミー系のイベントならケルンやシュトゥットガルト。そして出版社はミュンヘンとフランクフルトが多いが、かなりバラけている。そしてドイツを代表する老舗企業の本社はといえば、上記のどこでもない、さらに小さな町に置かれていることが多い。

例えばわが古巣のランダムハウスの親会社であるベルテルスマン。本社所在地はギューテルスロー(人口10万人)にある。聞いたことないでしょ? 私だって最初に聞いたときは「どこそれ?知らねーよ」 と目が点になった。位置的にはハノーバーとデュッセルドルフの間ぐらい? もう人間よりもホルスタイン牛の数の方が多いような町でさ。でもいちおう、ベルテルスマンといえば、ヨーロッパ中にメディア関連企業を持つコングロマリットなので、各子会社の幹部は年1度、ここに集まらなくてはならない。日本の某出版社と提携していたときは、幹部の人たちが毎年ボヤいていた。物見遊山の対象ゼロだから、日が暮れたらガストハウスでビール飲むくらいしか、することがないw

(でもドイツ人の名誉のためにいっておくと、小さな村に1軒だけあるパン屋さんで焼きたての黒パンを買って、添加物のテの字も入っていないような新鮮なハムを挟んだり、庭に生えてるリンゴで作っておいたジャムをのせて、それぞれ家庭で違う味のポテサラ食べる毎日って悪くないよ。その分、お給料がよくてバケーションがたーっぷり取れるから、世界中どこでも好きなところに行って、飽きるまでその土地の料理を堪能して帰ればいいんだもん。)

他にも例えば、フォルクスワーゲンの本社はヴォルフスブルク(人口12万人)。周りに何もなさすぎるんで、ここに勤めている私の親戚はそばのもう少し大きなブラウンシュヴァイクから通ってるくらい。BMWだって本社はミュンヘン、っていっても市街地からビミョーに外れた郊外だし、製薬会社のバイエルの本社はリーヴァークーゼン(人口16万人)。この辺はまだマシ。いちおう町だから。

運動靴のピューマやアディダスはヘルツォーゲンアウラハ(人口2万人)、カメラのライカはゾルムス(人口1万2000人)、テディベアのシュタイフはギーンゲンアンデアブレンツ(人口2万人)。発音すらできない、どこの村だよ?ってなレベル。人口少ないけど過疎化しているワケじゃないよ。バリバリの若手エンジニアもちゃんといるし、子供もいる。

なぜそんな舌を噛みそうな名前のちっさい町に本社を置くのか? これは単に頑固に創業者の出身地から動かさないというのもあるらしいが、ドイツ人って社長さんでなくても、自分の職場が都会にあるのを嫌がるわけね。日本のOLが山の手のおっきなビルの受付嬢に憧れるのと正反対の感覚。

ドイツ人はちゃっちゃと定時に仕事終わらせて、暗くなる前に帰って(特に北の方は日が短いので夜が早い)、家の近くの森でお散歩して(←これ重要、暗くなってからはできない)、夜はゆっくりおうちでくつろぎたいわけです。本は、スキマ時間にちまちま読むモノではなくて、ディナーが済んだらおうちでゆっくり毎晩楽しむモノなんだよね。

自転車通勤も好きだし、車で行くならぜーったいに東京の首都高やロスのハイウェイみたいに渋滞するような都会はまっぴらゴメン。だって何のためにドイツ人はベンツだのアウディだのBMWみたいな性能の良い車を作って乗ってると思うわけ? 制限時速のないアウトバーンで思いきり突っ走りたいからに決まってるじゃないですか。一ノ橋や箱崎で何キロもチンタラするなら軽だろうがマイバッハだろうが同じだもの。

ギュウギュウの満員電車に揺られて、渋滞にはまって、ダラダラとサービス残業して、まっすぐに帰らずに会社の人と飲みにいっている東京のサラリーマンなんて、宇宙人ぐらいにワケわからん不幸な人たちだと思っているのがドイツ人。

ということで、これが書籍と何の関係があるかと言えば、その流通網。ドイツって本屋さんに欲しい本がない場合、書店が配送センターに注文すれば翌日必ず届く、早ければ数時間後という早業がデフォ。出版社も倉庫も国内にばらけていて、アウトバーンや鉄道でさっと移動できる流通システムがあるからできる技。書店も全国に4000店ほどある。その日その本屋さんになくても2~3日なら待つか、という気になるけど、注文して数週間もかかるんじゃやっぱりオンラインで注文してしまうでしょ? ドイツだとこのインセンティブが低くなるわけ。

ずっとドイツ文学と世界のパイプ役として活動しているゲーテ・インスティチュート(日本もクールジャパンとかやってないで、こういう機関を作るべき)のホームページに行くと、まず最初にそのドイツの本の「インフラ」のことが言及されているくらい。それによると出版社の数が2200社、売れ筋の70%を占めるのが22社。合併もそうとう進んでて、個別の出版社として機能してても、親会社がランダムハウスかホルツブリンク、ってところも多い。

日本と似ているのが、大手出版社は創業ファミリーがオーナーとして君臨していること。今ドイツの出版関係者が不安いっぱいで見守っているのが、エッジーで文学の薫り高い版元として一世を風靡したズーアカンプ社がどうなっちゃうのか?ってこと。ヘルマン・ヘッセやベルトルト・ブレヒトといった文豪を世に出した名門出版社なんだけど、2代目発行人のジークフリート・アンセルトが死んで、夫人のウーラさんが引き継いだんだけど、初代のズーアカンプの息子とはケンカするし、勝手に本社をフランクフルトからベルリンに移したりと、経営がマズイと、株主の一人であるハンス・バルラックに責められ、お互いに相手を追い出そうとして著者を巻きこんでのケンカが泥沼化、5月には倒産申告(正確には新しくドイツで制定された会社更生法を申請)。半沢直樹のあのホテルみたいなドラマが展開されております。

そしてその本なんだけど、再販制があって定額販売なのは日本と同じ。19%のVATが通常のレートで、本にはその半分が課される。だけど、ドイツの本って重いのよ。そして値段も高い。特に英語から翻訳されているコマーシャルフィクションのハードカバーなんて、気楽に買えない感じ。ダン・ブラウンの『インフェルノ』が26ユーロとか、エリザベス・ジョージの歴史ロマンスが23ユーロとか。これが一切ディスカウントなしだからねぇ。

ベストセラーの傾向は、おフランスほど突飛ではない。ヨーロッパ中で人気のJo Nesboは相変わらず強いし、「50シェーズ」もまだ売れてるし、ダイエット本やジェームズ・オリバーの料理本もそこそこ売れている。ヨーロッパの他の国より多いかな?と思うのが手芸やDIYの本。そこはモノ作りの国だよね。あと、いつも何かしら犬猫の本が多い気がする。ゆるキャラは興味ないけど、動物好きというのはポイント高しw

EブックはキンドルとiBookstoreが強い。最大手書店チェーンのThaliaが展開しているOYOというのもある。けど、普及度はまだ全体の10%ぐらいかな? ドイツでは小さい本屋さんと大手のチェーン店も同じ条件で物流の恩恵を受けられるので、ディスカウントがどうのこうのでアマゾンにしてやられることはない。今のところ。書店数も全国で約5000店弱かな? 決して少なくはない。新刊の8割はEブックでも買えるところにきている。Eブックも2006年から定額販売が義務づけられているので、アマゾンや他のディスカウントショップが安売りでシェアを伸ばすことはできない。EUができたときに、本の定価販売は独禁法に抵触するという意見もあったが、これは出版業界一丸となってEUに抵抗して守りきった感じ。

だが、Eブックは伸びているものの、2010年をピークに(年間97億ユーロ)ここ数年は書籍の総売上が減っていて、もっとEブック化を進めれば売上げが増えるのか、はたまた出版不況の始まりなのかが議論されている。それと、多くの老舗出版社は、カフカやリルケ、ヘッセ、グラスなどみんなが知ってて、みんな読んでるような文豪のロングセラー(つまりはバックリスト)の売上げによって支えられている。長期的な問題は、没後70年で版権が切れたときに、新刊の売上げだけで黒字でいられるかどうかにかかっているとも言える。問題は、インターネットを通して古書がディスカウントで流通しやすくなったことで、昔は売上げ全体の3割がバックリストの本だったのが、そっちに流れていること。

何せ、ドイツ人ってあまり流行に飛びつかないんだよね。服でも家電製品でも、長く大事に使うというか、元から長持ちするようになんでも作っているというか。考えてみても、ドイツ発の「流行り」ってあまりないでしょ? カメラにしてもテディベアにしても、コツコツと作り続けられているモノが徐々に浸透して人気が出ることはあっても、パパっと流行ってパパッと廃れるモノってないし、そういうことに興味があるわけでもない。

流行は気にしないけど、人一倍海外の著作にも興味を示すのがドイツ人。英語に限らず他の原語からの翻訳ものも多い。翻訳モノに対する抵抗感がない。これが全体の12~13%。大江健三郎も村上春樹も飽きることなくずっと大事に出されている感じ。多和田葉子の活躍はご存じの通り。

そしてこれを書いちゃうと日本の人たちが死にたくなるかもしれないので、最後になったけど、ドイツだと編集者はもちろんのこと、書店員も「プロ」なので、プロとして当然の給料をもらい、規定以上の労働をしない。小さな村の小さな本屋さんでも、多くは大学で「ブックセラー学」を極めた専門家(女性に人気の職業)なので、本に関する知識がハンパなく、お客様にピッタリの本をお薦めする時には1冊5ユーロぐらいの「コンサル料」をとる。そして大学を出ただけではダメで、実際に3年apprentice(インターンシップみたいなもの)を積んで、書籍販売の歴史や流通経済を学ばなければプロの書店員になれない。

こういう労働スタイルの国に乗り込んできたアマゾンが、流通倉庫でドイツ人を安くこき使おうとしてもムリでしょってことで、今年に入って一騒動があった。きっかけはテレビで放映されたドキュメンタリーで、アマゾンが経済状態のよろしくない他のEU国の人たち(スペインや東欧に加えてトルコ系違法移民を含む)を季節労働者として雇い、過酷な条件で働かせていたことがすっぱ抜かれた。

そのドキュメンタリーでアマゾンが労働者を監督するために雇った現地の警備会社の人たちが映り、その一人がネオナチの愛用ブランドとして知られるシャツを着ていたことから、大騒ぎ。もちろんアマゾンは速攻でその警備会社と手を切ったけど、既に労働条件の悪さが明るみに出て、春頃からライプツィヒとバートヘルスフェルトの流通倉庫で(アマゾンはドイツ国内に8カ所)労働条件改善を求めるストが起こっている。(ドイツだと、業種別に最低賃金などの労働条件を細かく決めた協定があって、新規参入者をそれを参考にする。アマゾンは当然これを無視。)

クビを覚悟でそんなことをするのはさすがドイツの労働者だよな~、と感心してしまった。アマゾン側はここは流通倉庫じゃなくてロジスティックスセンターだから協定の範疇外などと抵抗していたようだが、たぶん、そういう小細工はこの国では通用しないw 書籍も含めて、ドイツでのアマゾンの収益は全体の14%もあるらしいから、アマゾンとしてもマーケットを追われるのは困るだろうし。

この「ちゃんとカネ出さないなら、こっちもムダな労働なんてしねーよ」という国民性は日本にはないものでありましょうなぁ。その分、ドイツ人は時間内に効率よくきっちり働くしね。勤勉、という意味ではヨーロッパでダントツ。そして彼らが「おうちに帰ったら、あの本の続きを読むんだ~」とワクワクできる間はドイツの書籍産業も安泰でありましょう。

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別にドイツに住んでいるわけではないし、ドイツ語は苦手なんで、なんの義理もないんですが、コラムの付け足しとして状況をアップデートしておきます。

Weltbildヴェルトビルトは全従業員6800人、ドイツで最大の書籍チェーンであり、出版部門も持っている。特筆すべきはオーナーに14のカソリック教会からなる監督区や軍人の福祉団体であるBerlin Soldatenseelsorgeが名を連ねているところ。(要するに何事においてもやり方がコンサバになりやすいと言える。)

2012年の売上げは21億ドル(160万ユーロ)で、これはWeltbildの日用雑貨の通販や、同社が一部株を所有する他の書籍チェーン店Hugendubelヒューゲンドゥーブルの売上げも含む数字だ。

このヴェルトビルトが1月10日に倒産を発表、それまでずっと買い手を探していたが見つからず、オーナー同士で検討していた再建策も合意に達せず、このところオンライン書店buecher.deでの収益は増えていたのにも関わらず、特に2013年後半の収益はよろしくなかったよう。

おもしろいのは自ら「独アマゾンに負けた」と言い訳しているところ。何しろオンラインでの本の売上げはアマゾンが75%もシェアを握っている状態なのでそこは仕方がないとして、書籍の定価販売が義務づけられているドイツなので、ディスカウント競争で負けたとは言えないはず。

今のところ裁判所がリストラ案を検討中なので、お店はこのまま営業するとの見通し。

オンライン書店サイトもあるので、そちらは買い手が見つかるかもしれない。アメリカのボーダーズの時もそうだったのだが、電子書籍の台頭「だけ」が原因とするのは尚早と思われる。

これまでにも宗教団体がオーナーであることからくるトラブルもないわけではなかった。昨年もバンクーバーにある同性愛者向けエロチカの本を売るのを突然やめたり、

2年前も出版部門で扱っていたタイトルが猥褻に当たると指摘されて出版部門を切り離して売却する案も出ていた。

最新の情報ではバイエルン州政府が(従業員失業を迂回するために)出資を検討中だと

州知事Horst Seehoferからコメントがあった。コラムでも書いたがドイツ国民の雇用を守ることが優先されるお国柄なので、今回の事態についてももちろん労組団体から非難ゴーゴー噴出中。

ヴェルトビルドは再建費用として1200万ユーロほど必要だと言っていたらしいが、教会はその半分の650万ユーロ(8887万ドル)なら出資すると回答したところから話が進まず、今回の倒産申請に至った。

だからこの騒ぎは、Eブックで書店が潰れる云々という視点ではなく、ドイツが自国の書店員(コラムでも書いたとおり、かなりプロフェッショナル度が高い)の雇用を守るためにどこまで動けるのかが試されているのだという印象を受ける。

 

 

 

written by

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
  • tsunoken

    う~ん、一昨年、書店未来研究会でドイツ視察に行ったレポートを読んだことがあるんだけれども、なるほどねえ。やっぱりドイツの連邦制ってのは単なる国の制度じゃなくて、国民のカラダに染み込んだ政体なんだなあ。

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