おフランスの我が道まっしぐら出版&書店事情—Bookstores and bestsellers in France


フランスの書籍出版事情については「そのうち誰かがまとめてくれるだろう」という気持ちがあって、アメリカに住む私が書いてもやっぱり余所者の印象にしかならない気がして敬遠していたが、とりあえず今の時点でわかっていることを書いてみる。補足、反論、大歓迎。質問に答えるのはムリとしても。

そもそも「ヨーロッパの出版社は~」と一括りにできないのは重々承知の上で言えば、ヨーロッパ諸国の中で、イギリスはさすがにアメリカと文化が似ていて、書籍の定価販売制度がなくて自由市場で本が売られているのは同じだし、Eブックを取り巻く状況はアメリカの状況をイギリスがそのまま数年遅れで追いかけていると言って差し支えないだろう。

残りの大陸ヨーロッパの場合、本は定価販売制度のところが多く、スペイン&ポルトガルのイベリア半島組、ドイツ語圏のドイツ、オーストリア、スイス、国民が英語達者な割りにはがんばって翻訳してるデンマークとオランダ、その他イタリア、ハンガリー、ギリシャも定価販売のはず。(違っていたら、あるいは他にもあったら教えて下さい。)

そしてフランス…。ブックフェアに行ってもいつも思うのだけれど、いつもこの国だけ、我が道を行ってるんだよね~。例えば、世界的なベストセラーを見てみると、アメリカやイギリスでまず話題になって、ヨーロッパ中で売れる本、というのは確実にある。ハリー・ポッターやダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』とか、最近では『50シェーズ』とか。で、業界紙PWが時々やってる各国の売れ筋トップ10を並べたりすると、同じタイトルがスペインで6位、イギリスで2位、イタリアで8位、ドイツで12位、てな具合にランキングしたりするわけ。

でもそんな時もフランスのベストセラーチャートだけは、他の国と1冊も被っていないことが多い。圧倒的に他の国では売れていないフランス人著者の本がほとんど。上位100位ぐらい見ていると、モーパッサンやネミロフスキーあたりが入っているのはお国柄かな。ノラ・ロバーツやシルビア・デイなども根強い人気。そしてナゼか突出して、デニス・レヘーンとロバート・ラドラム。数年前からこの手のスリラーが流行っているんですと。

日本文学といえば、もう村上春樹一色なワケ。悲しいほどに。マイナーな人気で川上弘美と小川洋子。なんとなくわかるでしょ。それとAki Shimazakiという聞き慣れない名前が。調べてみたらカナダに移民した日本人女性で、モントリオール在住、フランス語で書いている変わり種。フランス版多和田葉子的な立ち位置かな。

で、笑っちゃうのが今だに『50シェーズ』3部作が売れているのだ。鼻に抜けるけだるい声で「さんくぁんぬあんすでぐへい」なんて言うとちょっとカッコいいけど、あんなゆるいお子様エロが売れてるンすよwww 今頃。

サド侯爵やら、O嬢だの、アナイス・ニンだの、サドマゾ含めたエロチカといえば、いくらでも国産のすげーのがあると思うじゃないですか。フランクフルトでも、これを指摘してちょっとフランス人編集者を虐めてきました。「なんでフランスで売れたのか、私にもサッパリわけがわからない」「今ベストセラーになっているのは、周り(のヨーロッパ諸国)で騒いでいたときは、意地を張っていて、ようやくどこかの出版社が拾ったから」という言い訳されたりw

とまぁ、フランス売れする本の話はこれぐらいにして、日本で「アマゾン狙い撃ち」みたいな見出しで見かける記事のことに関しては、あの国は、社会主義国なんだと基本理解すればわかりやすいです。つまり、自分たちで「これは守らにゃいかーん」と思ったら他のEU諸国からどう思われようとお構いなしなわけですな。

パリを中心に、フランスはどこに行っても日本に負けないくらい小さな小じゃれた本屋さんがあるんですが、これがかなり手厚く国に保護されている。フランス全体で約2500店、パリだけで700店という数字を見たけれど。

例えば、災害などのトラブルや急な事情がなくても経営が悪化してきて、キャッシュフローに支障が出てきた場合や、オーナーが代わる時などに申請すれば、国が低金利ローンでお金を貸してくれる。特にパリで本屋をやると、他のモノを売るお店より安く店舗が借りられる。なんたってSemaestというお役所がわざわざ市内の物件を物色して、買い取って改装までして、本屋を含むパリ市お墨付きのお店を募集するんだから。

1981年に当時の文部大臣だったジャック・ラングがイニシアチブをとって制定したラング法で、本の定価は出版社が決め、ディスカウントは5%までという制限が設けられた。それでも、やっぱり大手チェーンやFNACなどのディスカウントにやられて2000年代にパリの書店が半分近く減った。特にラテンクォーターの界隈。

オンライン書店でフランス進出を狙っていたアマゾンは当然怒りましたね。それでも5%のディスカウントと配達タダでかなり食い込みはしたけれど。

そしてこのラング法は2011年にEブックにも適用されるようになったというわけ。その時、フィリペッティ文部大臣が出版社の会合の席で、アマゾンは値下げ攻勢で競合を倒して市場を独占しようと“ダンピング”(しかも、フランス語で適切な言葉がなかったのか、英語のdumpingを使ったらしい)している!アマゾン許すまじ!と発言したっていうんだからww しかも彼女(名前からしてイタリア系だと思われるけど、なかなかの美魔女なのでオジサンたちはAurélie Filippettiで検索するように。)、小説家でもあるんだよなぁ。

産経新聞あたりでは「仏議会がアマゾンを狙い撃ち」という表現をしていたけれど、大手量販店のフナックも対象になっているからアマゾン「だけ」にイジワルしたと言うよりも、今までやってきたことの延長だよね。インディペンデント系書店を守ろうという方針があるんだから当然。

でも最近ではイスラエルも同じような法律ができたりしてアマゾンも焦っていることだろう。

こう書くと、なんだフランスも「出版文化を守る」というお題目唱えて既存の構造を守るための対アマゾン抗戦してるんじゃん、と思うかも知れないが、本屋さんは大事にしても、その一方で出版社に配慮する法律は全くない。前述のパリ市の方針では、小さな出版社も格安でオフィスが借りられる、というのはあるみたいだけど。

とまぁ、アマゾンに関してはフランスだけじゃなくて、他のEUの国でもVAT(付加価値税)の税率が国ごとにだいぶ開きがあったり、Eブックは課税対象外だったりと、「ズルして儲けやがって」感が漂っているので(前回の吞んだくれコラムで紹介済み)、アマゾンのグランディネッティ副社長の思惑通り、近いうちにヨーロッパでもEブックが売上げの半分になる、とはとても思えないのだよね。そうそう、今週にもイギリスがそのやたら高い20%というVAT率を撤廃して、イギリス国内の他のEブック販売会社がやりやすいようにするかどうか、議会で採決するらしいし。

以上、ホフでのワイン代と、川向こうの安宿までのタクシー代をつぎ込んで得られたナマ情報でした。もっと知りたければパリ旅行させてくらはい。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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