フランクフルト・ブックフェアでヨーロッパの人たちと飲んだくれる—Frankfurt report from Hof


フランクフルト・ブックフェアにはもう何度も足を運んでいるので、ハッキリ言って新鮮みも発見もありません。すみませんが、楽しげなレポートや写真は他の人のを見て下さい。内沼さんのとか平凡社さんのツイートとか

全体の参加人数はここ数年微減しているが、版権センターのテーブルは全部埋まってたし、今年は世界中から積極的にジャーナリストを呼んだから、その数9000人、前年比で17%増とか。

今年はちょっとジャンルの違う編集者を探しに行く旅だったので、日本の人たちとすれ違う6号館と8号館の間の渡り廊下はほとんど使いませんでした。その代わり、夜はホフに通って飲んだくれては、わけのわからない人たちとおしゃべり。

この「ホフ」ってのもちょっと説明した方がいいかも。ブックフェアの会場の向かいにあるヘッシャー・ホフというホテルで、ここのロビーやバーは夜な夜な世界中のエージェントや編集者が集うサロンと化すのです。有名なエージェントは、混雑するブックフェア会場には足を運ばず、ここのラウンジに会合の相手を呼びつけるのが習わし。

まぁそれは置いておくとして、いつもとはまたひと味違った意見を聞くことができてなかなか面白かったのであります。

例えば、Eブックのことについても、ヨーロッパの人たちはなーんの脅威も感じていません。「本って、そういうものじゃないから」とまで言ったフランス人編集者。とまぁこれは、俺たちが今まで作ってきたのが「本」で、それを勝手にデジタル化したいならすればいいけど、自分には関係ないね、というアッパレなまでの他人事w

アマゾンに対しては「ズルして(EUの国ごとに違うVAT課税率を利用して、安くあげられるルクセンブルクにヨーロッパの拠点を置いていることとか)儲けやがって」ぐらいの気持ちはどこもあるみたいだけれど。でもそれを是正しようなどというのは行政が考えることで、やっぱり出版業界があれこれ言うことじゃないし~、ってな。

そのアマゾンのラス・グランディネッティ副社長、いつも通り指標軸が曖昧でさっぱり役に立たないグラフ満載のプレゼンを引っさげて「来年にはアメリカで売られる本の2冊に1冊がネット」ってな強気の発言もあったみたいだけど、これはEブックだけでなく、オンラインで売られる紙の本をも含めた発言なのでお間違いのなきよう。

そしてアメリカの後には、同じ英語圏で定価販売制度が崩れ去ったイギリスが続くのはわかるんですが、ヨーロッパの他の国も数年遅れて同じパターンでEブックが浸透していく云々…については「ずいぶんと楽観的だなぁ」と呆れられておりました。

かといって、そこまで言うか的なアマゾンdisりぶりを遺憾なく発揮してくれたアンドリュー・ワイリーの言い分も、アグレッシブなアメリカぶりについていけない、という感じ。

ヨーロッパの出版社が入っているのは6号館のエージェントセンターの上なんだけど、この辺は毎日午後になると既にワイン片手に談笑してたりして、英語圏の8号館とエージェントセンターでの30分のミュージックチェアでドタバタ感ってのがないんだよね。なんだかゆっくり時間が流れているみたいで、英語以外の言葉も聞こえてくるし、いいよなぁ。しかも大写しになってる著者の写真見ても誰が誰だかわからないしなぁ。とまぁ文化の壁の厚さを感じてしまうわけですよ。

これが同じ「文化」といっても日本の出版社のあたりはマンガキャラばかりですからねぇ。これを「クールジャパン」と言われても…。日本の出版社も何か毎年テーマを決めたらどうですかねぇ? んで、文化庁がもっと金出して一目を引くブース作らせてよ。テーマは「春画と現代のエロ」とか「断捨離とZen」とか「絆」とか。

ところで、フランクフルトで披露される「話題の新刊」について私が以前から密かに思っていたことがあって、なんだかんだ言ってヨーロッパの人たちって「ヒトラー本」が好きだよね、ってことです。

思い起こせば2006年に1000ページ近くも元ナチスの将校が性的倒錯を語るジョナサン・リテルのThe Kindly Onesとか(これはフランス語が原語)、去年も、ヒットラーが生き返ったっぽい変なオッサンがベルリンでTVタレントとして人気が出ちゃうというHe’s Backって本のゲラが回されててみんな笑いながら読んでたし、今年は今年で、なんでヒットラーが世界征服やるっきゃないと思い込んだのかを検証したマジメなノンフィクションがあって、ヨーロッパのほとんどで版権が売れたって言ってたし、もう1冊元FBIエージェントが書いたノンフィクションで、Devil’s Diaryというタイトルの本があって、こちらはナチスの哲学者と呼ばれたアフレート・ローセンベルクの日記が元になっているとか。

もちろんドイツでドイツ人といると、やっぱりヒットラーのことは軽々しく話題にできない雰囲気はあるんだよね。ドイツでは小学校からヒットラーって酷い人がいて、ヨーロッパの他の国を苦しめてユダヤ人を大勢殺したんですよ~、ってイヤと言うほど学ばされるし。

ところがドイツ以外のヨーロッパの人たちはだーい好き。そりゃ昔はどこの国も一時期はアイツらに占領されて一般市民は裏でアッカンベーしながら従ってただけで、今もドイツ人っていうと融通の利かない「変な」人たち、と思ってるからねぇ~、とフランクフルトでそれを言うか、ってな意見もありました。これはオランダの人。

10月のドイツってお天気悪くて寒いし、日はすぐ暮れるし、食べ物美味しくないし、ヨーロッパの人たちは数日だけの短期出張で来られるからいいけど、日米組は1週間近くボッタクリの3倍値段で搾取されて疲れるんだよなぁ。で、ヨーロッパの人たちはドイツに来て、やや嬉しそうにナチスの本を語っているのは一種の腹いせなのかも、と思った次第w

その他にフィクションで、読みた~い!と思ったのがハーパーのテリー・カーテンが取って売り出していたGutenberg’s Apprenticeという本。グーテンベルクの活版印刷機発明の歴史をバックグランドに、ちょいと色気のある話を絡ませた感じ。版権はウィリアム・モロウなので日本語の編集者はタトルへどうぞ。

他は、「ミレニアム」シリーズで大化けした北欧スリラーはもうどこもお腹いっぱいという感じ。っつーか、あんなに人口の少ない国にそんなにすんばらしいスリラーばっかり眠っているわけはないだろうというw

あとですね、こうやって「ヨーロッパ」とひとくくりにして話しちゃったけど、やっぱりフランスって、あそこだけ飛び抜けて「変」だわ。ビジネスモデルとか、読書傾向とか、「本」そのものも。だって表紙を見てよ。ひとつの出版社のデザインがみんな同じなんだよ。っていうか「絵」がないし。だからフランスの出版社の人は帯の文章に頭を悩ますことも、目立つような表紙のデザインで手にとってもらう苦労もないわけ。これって地味にすごくない? 「本なんだから中身で勝負」ってのが真実なんだもん。

本気で日本を「クール」だと思ってくれそうなのもフランスだし。この辺はいつかもう少し何かわかってきたら書きますんで。

ということで、ドイツにいるのに全くビールは飲まず、ワインばっかり。白はさすがにうまいよ、ドイツは。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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