ブルックリンのブックフェスティバルが成長している2013—Brooklyn Book Fair growing bigger and better


今年もブルックリンのブックフェアに参加。毎年確実に大きくなっていますね。既にロサンゼルス(例の中村文則の『掏摸』がノミネートされたLAタイムズ主催のヤツ)とマイアミ(こっちは主催がデイド大学だけど、“国際”って付くほどの規模になっている)に次ぐ規模になっているとか。

今年からは私が毎年ブツブツ文句を言っていたパネルのチケット制が廃止になって、とりあえず会場に行って並べば入れるというのがありがたかった。「ブックエンド」イベントといって、前夜祭的な催しも増えた。反省すべき点は、こんなに大勢の著者が参加しているのに、どうしても編集者やpunditと呼ばれる業界関連者など、“本を作る側”の話を聞きに行ってしまう自分。著者のお話はいつかこの仕事やめて一読者として本と向き合えるお婆ちゃんになったら行くから勘弁してね。

拝聴したパネルからいくつか紹介。

 Making the Books

(この「メイク」という言葉には、本そのものをモノとして作るという意味と、成功する、という意味が含まれているdouble entendreになっている。)

DanPanel実はアメリカではその存在が珍しいEブック専門出版社、オープン・ロードのCEOジェーン・フリードマン、ランダムハウス傘下のインプリントとして独自のカラーを打ち出しつつヒットを飛ばすスピーゲル&グラウの編集者クリス・ジャクソン、そしてインディペンデント系出版社の大御所ヒーロー的セブン・ストーリーズのダン・サイモンが集まって、それぞれどうやって著者を見つけ出し、出版社を“回して”行くのかを語り合った、貴重なイベント。

来ている人はといえば、9割方が「ライター志望」。司会者が挙手を求めて判明。なるほど、このブックフェアはステージ上に上がった人(デビュー済みのライター)と「あそこに上がりたい」と願っている人たちで成り立っているんだね。私は何だろう?裏で音声やってる黒子だろうか?

ジェーン・フリードマン女史については拙著でも紹介したけれど、最近ますます貫禄ついちゃって、もう正に女帝って感じ。自己紹介の時に「著者ツアーというものを創り出したのはアタクシなんざんすの」ってな。頼もしきかな。

オープン・ロードがいかにして埋もれていたバックリスト、つまり過去のベストセラーに再び焦点を当てて売上げにつなげていくかは、折に触れて何度も聞いたけれど、自分のところの既刊書を大事にしない出版社はダメだよな~。いかにいいかげんに「今ちょろっと初版が捌ければ儲けもの」という感覚で本を作っているかってことだもの。なんやらiTunesのアプリで85円で大量に売り出された本を作っているところがあったけど、誰得?だし。それに対してジェーンが「自分が若かった頃、面白いと思って読んだ本をもう一度ヒットさせるのってすっごく楽しい」と言っていたのが印象的。

そしてスピーゲル&グラウのクリス・ジャクソンといえば、黒人男性というこの業界、特に大手ではほんとうに稀な人材。でも彼のおかげでJay-Zの自伝やThe Other Wes Mooreみたいな本がベストセラーになるわけで。そういえば、うちの近所のBaohausというテイクアウトの小さなお店を流行らせ、Momofukuのデイビッド・チャンがなんぼのもんじゃい、と怪気炎を上げるエディー・ヒュアンのメモワールを担当したのもクリスだったっけ。

クリスが手がける本って、ランダムハウスじゃなくてもっと小さな出版社から出ていそうな本が多い。ニッチな内容でそこそこ読者はいそう、ってな。でもランダムハウスの流通網とセールス担当のコネとマーケティングの力で、堂々たる全国規模のベストセラーが生み出される。この力をいちばん良く知っている編集者のひとりがクリス。日本だと大手さえもが前パブなしで「出たとこ勝負」かけてくるから結局出版社の規模が関係なくなってくる。それが良いことか悪いことかはわからないけれど、それだと自費出版のEブックだって大して変わらない。これからが勝負の分かれ目なんじゃないかなぁ。

そしてセブン・ストーリーズのダニエル・サイモン。かつて4W8Wの略語で親しまれたフォー・ウォールズ・エイト・ウィンドウズの創設者といえばわかるかなぁ。出版社をやるにはまずポリシー(哲学っていってもいいねと本人がこの場で申しておりました)ってな出版人の鑑であります。その哲学とは(必ずしも大手がやれるとは限らない)政治思想、人権運動、社会的弱者の声を代弁していくというもの。

その一方で、やはり大手はやりたがらない地味な詩集やリテラリー・フィクションも出している。ビッグ5を渡り歩いたエディターの友人が最近セブン・ストーリーズに腰を落ち着けたのも納得がいく。ちなみに4W8Wのもう一人の創設者、ジョン・オークスはアヴァロンに身売りした後、何やってるんだっけ?と調べてみたらORブックスの人だった。

で、それぞれに全く違う経歴を持つ3人の出版人にEブックのことを含め、今の書籍出版業界ってどーよ?という問いに同じような答えだったのが「今は何十年も同じように続いた書籍ビジネスがかつてない変革を迎えている“カオス”の時期。この混乱が恐いと思うのであれば、ダメになるだけだし、面白い、ワクワクすると思えるのであればサバイバルできるだろう」というもの。それぞれにEブック、大手、零細という違う規模、違う形態の出版社で働く3人ともそう断言できるのだから、すごいなぁ。

 

Publish and Perish?

E-books are killing publishing! The corporations are killing publishing! Self-publishing is killing publishing! While headlines continually bemoan the end of the literary world as we know it, others argue that the reports of publishing’s demise have been greatly exaggerated.という副題が面白いので訳すと「Eブックが出版を殺す!企業が出版を殺す!自己出版が出版を殺す!とまぁ文芸界の終焉を嘆くような見出しが多い中で、出版事業が衰えているなんて大げさだよと言う人もいる」。どう?どこかの国のマスコミと同じでしょ?

RichMotokoこのパネルも面白かった。小さい出版社からニューヨーカー誌での回顧録を出したジャネット・グロスと、ファラー、ストラウス&ジルーという老舗文芸出版社の黄金時代を書いたHothouseという話題の本を出したボリス・カチュカに加えて、レッド・レモネードのリチャード・ナッシュ。

リチャード君も拙著で「アメリカの出版業界の未来を左右するであろう人物」として紹介した。クラウドソーシングやクラウドファンディングと共通するコンセプトで、参加者が自由に未発表の原稿をアップロードし、そこから出版に値する本をみんなで見つけ、実現させていく試みをしながら、出版の将来について語っている人。元々ソフト・スカルというぶっ飛んだ出版社も運営していた。

でもこのパネルは、一方に旧き良き時代を語るグロスとカチュカがいて、対極的に出版の未来を語るナッシュの組み合わせなので、肝腎の出版業界の現状を語れるゲストがいなかったのが惜しかった。その分、司会者のモトコ・リッチがあれこれ細く補足しながらゲストを誘導していたからいいものの。

キンドルのKDPプログラムなど、Eブックでのセルフ・パブリシングが急成長するのは既存の出版社にとってはよろしくないこともあるだろうけど、著者や読者にとってはどうなのか?という問いに答えたリチャードの例えが秀逸。「ニューヨーカー誌やFSGのような出版社がやってきたことは業界のgatekeeperとして、何が広く読まれるべきか、いわゆる“お墨付き”の役割を果たしてきたって事だよね。でも昔はバニティ・プレスと言って軽く見られていた自費出版がEブックで簡単に誰もが自分の本を出したいという願いを叶えられるようになった。これは悪いことではないと考えている。スポーツで例えれば、出版社から本を出して原稿料で食べていけるプロの作家がオリンピックやプロリーグで、自分で趣味のレベルでジョギングしたりカヤックを漕いだりしてスポーツを楽しむのもアリだと思うんだ。その中から才能を認められてプロに引き抜かれることもあるだろうし、プロのスポーツを観戦するだけじゃなくてアマチュアの競技を楽しむ読者がいてもいいと思うんだ。」と。

この発言で私の中にあったセルフ・パブリシングに対するわだかまりみたいなものがストンと落ちましたね。なーるほど、そういうことだったんだ、と。そう、実生活でも私はアマチュアスポーツやパフォーマンスをあまり楽しめない人なのでした。お金を出してでも、自分には遠く及ばない才能と努力の結晶ががほとばしり出るのを見たいタイプ。だからセルフ・パブリシングの本がいっぱしにアマゾンの検索で上位に上がってきたり、読まされるのが苦痛なわけですね。

それはさておき、パネルの後でちょっとモトコ・リッチさんと話できたことも収穫だった。どうしてもこの業界、日本人女性が少ないものだから、日系だと思うと親近感が湧くのです。モトコさんはハーフかクォーターかな?3世ぐらいかな?実は昔、彼女がウォールストリート・ジャーナルにいた頃から名前に気づいて、NYタイムズに移って不動産だの都市開発だのとカバーしているなと思ったら、書籍出版業界のバンキシャになってずっとウォッチ、経済担当を経て、今はK-12、要するにアメリカの小中学校教育をカバーしてるんだ。いつかいっしょにお喋りしてミチコ・カクタニに関するゴシップをなにか知らないか問いただすつもり(笑)。

すっかり、自分の趣味を晒すブログエントリーになっちゃったけど、許して。今度はおそらくフランクフルトからのレポートになります。

 

 

 

 

 

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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