なんだか要領を得ないNYタイムズの記事(つづき)


(願いが叶う)“引力の法則”を説明したセルフヘルプ本、THE SECRETを出したエートリア・ブックス(ペンギン傘下のインプリント)のパブリッシャー(発行人にあたる)であるジュディス・カーは言う。「こういう本が出るのをいつも願っているんですよね」

本が出る前に出回っていたTHE SECRETの映画バージョンを観て、もしかしたらミリオンセラーになるかもしれないと思ったそうだ。何を根拠に?「ただの直感よ」背筋がぞくぞくするのを感じたとか。
大手版元はどこも大きく賭けて失敗している。最近支払われた最高額のアドバンスの中に800万ドルというTHIRTEEN MOONSの企画があった。ハードカバーで160万部売れたCOLD MOUNTAINの著者、チャールズ・フレイジャーの次の作品だ。

ランダムハウスは10月刊行のハードカバーを75万部刷ったが、売れたのは24万部。印税額は100万ドルと、アドバンスに遠く及ばない。来月ペーパーバック版が予定されているが、これでさらにハードカバーは売れなくなる。

「あてずっぽうですよ」というのはダブルデイ/ブロードウェイのビル・トーマス編集長。「全て経験に基づいた推量ですが、推量であることに変わりはないです。思ったより売れたものが、思ったよりも売れない本を上回るようにするだけですね」

高額のアドバンスを払うほど、思ったよりも売れないときのリスクが大きくなる。各社で入札競争になったり、何が何でも欲しいプロジェクトがこのケースにつながる。

「たまに、すごくいいなと思うものがあると、予算を度外視してさっさとエージェントに電話して50万ドルなんてオファーしちゃう」とトーマスは言う。これがオークションに火をつけることも。

「そうなるとビジネスの部分が吹っ飛んじゃうんですね」とエージェントのデフィオレは言う。「どの出版社もその本が大きなヒットになればいいと思って数百万ドルのアドバンスを払うんですが、そうならないときもあるし、こういう大きな賭けは危ないんですよ」

ハードカバーの場合、版元がベストセラーになる可能性があると思われる数タイトルに贅沢なマーケティングとPRキャンペーンを張る。他は数千冊売れれば良しというタイトル。ほとんどは“ミッドリスト”といって1万5000から2万冊売れる本だ。

だがそういうカテゴリー分けも予想外に無意味になる。「業界の誰も、どのビッグタイトルがコケるかわからないし、どの地味な本が成功したりするかわからないんだ」とトーマスは言う。

本がベストセラーになるのには2通りある。一つは、1週間のうちに大量の部数が捌けてベストセラーリストに載るもの。他は、何ヶ月も何年もかけてじわじわと売れるもの。例えば、セン・マーティンス社が1989年に3万ドル払って出したトム・フレンチの犯罪ノンフィクションUNANSWERED CRIESはペーパーバックで40万部出回り、去年も3万1000部が売れた。

古くても売れ続けるこういうタイトルの場合、既にマーケティングやアクイジションのコストが回収されているので、売り上げにもっとも貢献している。だが、版元はハードカバーに宣伝費をつぎ込みがちだ。刊行時のタイミング、パッケージ、マーケティングなどの組み合わせでベストセラーへの道が開けたり開けなかったりする。

例えばTHE SECRETの成功には、タイトル、テーマ、映画のDVD化、マーケティング、ネットの力、そしてオプラ(主婦向けの人気トークショー)への出演と最近のトレンドが合わさった結果だと言える。

だが、こういう本で成功しているのはTHE SECRETだけだ。「どこも、THE SECRETみたいなヒットにしようとたくさんのお金をつぎこんでいます」というのはペンギン・グループのスーザン・プレストン・ケネディ社長。「同じような本はいくらでもあるけれどダメでした」

PREPもどう出るかわからなかった。シッテンフィールドが全寮制の学校を舞台にした本を書いていると周りは「どうしてまた?そんな本はいくらでもあるじゃない」と言ったそうだ。

ベストセラーになった後は後で、「もちろん売れるさ。全寮制学校の本だもん」とも言われた。

パブリッシャーは、成功の鍵になったのは、もちろん本の内容もあるが、キャッチーなタイトルと、おしゃれな表紙と、気の利いたキャンペーンのおかげだと言う。4人からなるPRスタッフは、表紙とマッチしたブックベルトを配ったり、おしゃれなグッズをつめたバッグに著者の高校の頃の写真を添えて雑誌社に送った。

「それが注目されて、もっともっと原稿を催促する電話がかかってきました」とパブリシティ担当の一人、ジン・マーティンは言う。

その後のマスコミの評判も上々だった。読者層を限定されることなくアピールできた。若い女性だけでなく、ティーンエイジャー、大人の読者、さらには男性にも読まれたようだ。出版社にとって、マーケットリサーチはお金がかかりすぎる上、本は1冊1冊違うので、やっても無駄ということで、こういった読者の反応も個々に入ってくる情報でしかない。

パブリック・アフェアーズ社のパブリッシャー、スーザン・ワインバーグによれば「面白くて良く売れた本というのは、どこか今までにない新鮮さをもっているものが多い」と言う。

例えば、元モデル事務所のローリー・フリードマンと元モデルのキム・バーノインが書いたダイエット本SKINNY BITCHという本は「文章が面白く、厳しいことも言うけどまっとうな内容」とエージェントのタリア・ローゼンブラット・コーヘンは指摘する。著者は無名でベーガン(厳格な菜食主義)にもかかわらず。「最初は皆に、無名だし、ビーガンはダメ!って言われていたのに」

本はフィラデルフィアのランニング出版に本の数万ドルのアドバンスで売れたが16ヶ月前の刊行以来、特にメジャーなマスコミで取り上げられなかった。ベーガンや大学生の間で話題になり、ロサンゼルス・タイムズのベストセラーリスト入りした。今や10万部増刷され、著者は数十万ドルでもう2作分の契約もした。

専門家は、もっと本を買う側が何を求めているのかを調べれば、もっとこういうヒットが生み出せるのではないかといぶかしがる。

全米新聞協会は巨大な購読者データベースを持っているけれど、本は何もないんです、と前述のグレコが言う。「書店の出口で客を捕まえて、何を買ったの? 探していた本は見つかった? どうしてこれを買おうと思ったの?なんてことをやってないんです」と言う。

例外は全米ロマンスライターが行った顧客リサーチ。ここでは読者層、どこで本を買ったか、どのぐらい読むのか、どんな表紙が好きか、などを調べた。ロマンスの著者はこれらのデータを使ってプロモーションのキャンペーンを張る。

ほとんどの出版社は相変わらず売り上げデータぐらいしかないか、著者の過去の作品データでさえ、これから出るタイトルが売れるかどうか確約はできない。

PREPの後、ランダムハウスはもう2作、もっと高額のアドバンスでシッテンフィールドと契約した。2作目のTHE MAN OF MY DREAMSは去年5月に刊行されたが、売り上げがアドバンスに追いついていない。ブックスキャンでは3万6000部、ペーパーバックが6000部となっている。

シッテンフィールドはある編集者の言葉を思い出していた。「出版ってビジネスだと思われているけれど、実はカジノなのよ」

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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