なんだか要領を得ないNYタイムズの記事

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なんだか要領を得ないNYタイムズの記事Books and the City

ニューヨーク・タイムズの分厚い日曜版をちらちらと読んでいたら、ビジネス欄に出版業界についてまとまった量の記事があることに気がついた。レポーターの名前はShira Boss…誰? この業界の番記者はMotoko Rich(おそらく日系人。そのうち会ってみたいと思っている人のひとり)なので、普段はあまり出版業界にタッチしていない人らしい。

けっこう長い記事だけど、最近とみに鈍ってきた翻訳力を鍛えるつもりで訳してみます。カッコ内は私のコメント。

「大いなる謎(あるいは最高のミステリー):ベストセラーの作り方」

ウィリアム・モリス・エージェンシー(業界屈指の総合エージェンシー)の文芸エージェント、シェイナ・ケリーがクライアントであるカーティス・シッテンフィールドの処女作CIPHERを手がけた2003年には、かなりこの作品に対する期待があった。20数社の大手出版社のトップ編集者に連絡を入れ、皆が皆、この全寮制の学校を舞台にした成長譚に先を争って入札してくると予想していた。

ところが数週間後、ほとんどの編集者が断ってきた。「気に入ったけど、どうやってマーケティングすればいいのかわからないから、あまり売れないかもしれない」という返事。結局、4万ドルでアドバンス(印税に対する先払い金。文芸系の処女作品のアドバンスとしては悪くない金額だけど)のオファーをしたのはランダムハウスだけだった。

ランダムハウスは気の利いたマーケティングとPRキャンペーンを展開し、タイトルをPREP(プレッピーの語源となった私立の進学校の意)と変え、05年1月にCIPHERを刊行した。初版はたったの1万3000部で、全部はけても印税がアドバンスの4万ドルに至らない数字だった。

PREPは大方の期待を裏切り、1ヶ月後にNYタイムズのベストセラーリスト入りを果たした。全体の70%の売上げデータを把握できるニールセン社の「ブックスキャン」(各書店チェーンの集約データで、紀伊国屋のパブラインを寄せ集めたようなもの)によれば、ハードカバーは13万3000部の売上げ。ペーパーバックもベストセラーとなり、通算32万9000部が売れた。海外版権でも25カ国語分が売れ、パラマウントが映画化のオプションを買った(実際に映画にされるかは別)。

概ね書評は好意的で、口コミでも人気が出た。同じようにやってもさっぱり売れない本が多い中で、なぜPREPは成功したのか? 一方で、オークション(何社もの出版社が同じ本を出したいという場合はオークションで競り落とされる)では大人気だったのに、書店ではサッパリ、というケースがあるのは何故なのか?

それはエージェントのブライアン・デフィオレにもナゾだ。「表紙が良かったのか? タイトルか? 前評判がダメだった? それともタイミング? 本の内容がよくなかった?」

本当のところは誰にもわからないというのが答えだ。「ほとんどの場合、偶発的な業界なんだ」というのはキャロル&グラフ社(最近、大規模なリストラを敢行した中規模の版元)の編集者、ウィリアム・ストレイハン。「答えがわかっていれば大金持ちになれる。その扉の鍵は誰も持ってないんですよ」

他の業界では、顧客のことをもっと知ろうと最新のテクノロジーを駆使するなど、この金の鍵を巡る争いはもっと熾烈なものだ。テレビ局はネットで視聴者モニターを募り、番組作りに役立てている。ゲーム開発社もネットを通してユーザーの反応を伺っている。航空会社やホテルも顧客データベースの改良に余念がない。

対照的に出版社は読者ファンに新刊情報を流すサービスなどをやっているが、読者から編集者への情報の流れがない。「もっと読者と直接的な関係を築く必要がある」と言うのは元編集ディレクターでもあるエージェントのスーザン・ラビナー。ブログをやっている人の方が、出版関係社よりも読者と密な相互関係にあるというのだ。「アマゾンができる前は、読者がどういう感想を持っているのかさえわからなかったんですよ」

業界関係者の多くは顧客の嗜好を、まるで恋に落ちることやギャンブルをするときに当たり外れがあるような、解くに解けないナゾだととらえている。出版社で働く人は、初任給が年間3万ドルでも飛び込む、文系の大卒者が多い。そして本売り上げでボーナスが左右されたりしない。「この世界の人は、お金目当てで来ていないから、こんなビジネスになっちゃうんですよ」とストレイハンは説明する。

ジャンクロウ&ネスビット(大手の文芸エージェンシー)社のエージェント、エリック・シモノフは、他の業界の人と書籍業界の話をすると「全く結果が予想できないし、純利は少ないし、信じられないくらい商品サイクルは長いし、マーケットリサーチというものが皆無なので驚かれる」と話す。

出版社も全く数字を考えない訳ではない。本に値段をつけるのに、編集者は特定の著者の前作の売り上げや類似書の成績を考慮する。そういう数字を元に、特定のジャンルの人気や、予想される読者層や、トピックの話題性やニュース性などを考えてP&Lの予想を立てる。

著者に支払うアドバンスも、通常、刊行後1年の利益の10〜15%で支払う印税をメドにしている。アドバンスは定額なので、出版側のコストとして計算される。売り上げ予想が実売を上回るケースが多いが、その場合も著者はアドバンスを払い戻さなくてもいい。印税がアドバンスを上回った時点で、著者にさらに印税が支払われる仕組み。

正確にアドバンスを割り出すのは至難の業で、どんな編集者も科学的に本の売り上げを予測することはできない。その代わりに、本能的なカンでやるしかないと信じて、予想しない損と得を繰り返して、それでもなんとか回っていく。

2005年の総売り上げが業界全体で346億ドルの出版界だが、結果は華々しいものではない。140億ドルを売り上げる一般書の利ざやは約5%、出す本の7割は赤字という数字がある。

一般書の総売上は前年比で5%増だが、2010年には2%まで落ちるとされている。もちろん、成長に向ける努力は怠っていないが、アクイジション(本の企画を買うこと)の仕方はもう何百年も変わっていない、とフォーダム大学のマーケティング学教授アル・グレコは指摘する。開拓地で1700部のベイ・サルム本(アメリカで最初に刊行された本とされる)が出た「1640年からずっと同じ」だという。「あの本だって売れるかどうかもわからず、たまたま初版の分がなくなったから巧くいったというだけのこと。それからもうずっとバクチなんですよ」

ストレイハンによれば、それなりの“ビジネス・モデル”といえるものがあるにはあるそうだ。出していればそのうち当たる、ってこと。

この業界で儲けるにはロングセラーやベストセラーに頼らざるを得ない。売れっ子作家によるヒット間違いなし、という本は、それなりにアクイジションとマーケティングに金がかかるため、頼みの綱は“予想外の”ヒット作だ。前述のPREP、2万5000ドルのアドバンスで400万部が売れたTHE NANNY DIARIES、20万ドルのアドバンスで250万部売れたMARLEY AND ME、25万ドル以下のアドバンスで半年のうちに525万部売れたTHE SECRETなどだ。

(つづく)

written by Lingual

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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