名門出版社、ファラー・ストラウス&ジルー(について)の本を読んで—Reading about FSG


現代アメリカ文学を語る上で重要な役割を果たしてきた出版社、ファラー・ストラウス&ジルーの黄金期を克明に生き生きと綴った本がまもなく刊行になる。もちろんギョーカイの人は春頃からみんなでゲラを回して読みっこしていて、私も入手済み。旧き良き時代の夢物語として楽しませてもらった。

ファラー、ストラウス&ジルー、通称FSGと言えば、ランダムハウス傘下のクノップフと並び称される老舗の文芸出版社。日本で言えばどこだろね、岩波とか中央公論とか白水社とか? 昔からノーベル文学賞が発表される度に、アメリカではFSGかクノップフが既に版権を取っています、ってのが定番だった。社内にはそのノーベル文学賞作家の写真(25人もいるそうな)が飾られていて、ああ、ここが殿堂なんですね、という感じ。

アメリカのマスコミの歴史をかいつまんで大雑把に説明すると、建国時代から一貫して文化の担い手は「ワスプの男性」だった。新聞の発行も、本の刊行も、雑誌の創刊も、良くも悪くも限られたエリート知識層の継承でしかなかった。

それが変わり始めたのが1930年代の大恐慌時代の時期だろうか。エリートおぼっちゃまたちもお金がなくなって、本の出版などと言う趣味にうつつを抜かしている余裕がなくなったわけですな。出版がビジネスとして、あるいは一般の読者の娯楽として様変わりした時期とでも言おうか。その新しい担い手が、ヨーロッパから流浪の民として追い出されつつあったユダヤ人のインテリ層というわけ。

祖国を持たない彼らは元々、レベルの高い文学を持つ民族だった。彼らは西海岸に渡り、映画という新しいメディアを使った娯楽を生み出したり(今もハリウッド業界はユダヤ人プロデューサーが仕切っている)、新聞や雑誌を一般大衆向けの読み物にしたり、とアメリカのマスコミを一手に牛耳っているといっても過言ではない。ディズニーも、レコード産業も、テレビ局も、コンデ・ナストも、NYタイムズもみーんなそう。ニューヨークを皮肉ってジューヨークと呼ぶこともあるくらい。

今やアメリカの現代文学は、FSG抜きには語れない。そのリテラリー・カルチャーを築いたのがファラー、ストラウス&ジルーだったというわけだ。終戦の1945年に海軍から帰還したロジャー・ストラウスがジョン・ファラーに声をかけてコンビを組み、そこへT・S・エリオットやジョン・ケルアックを育てたロバート・ジルーが加わった。どっちかというとストラウスがビジネスマンで、ジルーが生粋の編集者というコンビ。

FSGがすごかったのは、その後バランス良く次代の波を築いた作家たちを見つけ出してきたこと。初期の非ワスプ組として、フラナリー・オコナーやフィリップ・ロスがいたし、60年代のラテン文学の巨匠たち(ヴァルガス・ロサ、フュエンテス、ネルーデス)を翻訳してるし、ニュージャーナリズムの波(トム・ウルフやジョーン・ディディオン)にもしっかり乗った。スーザン・ソンタグを引き込んだことで、ヨーロッパの主要な作家情報も掴んでいたし、ロアルド・ダールやモーリス・センダックら児童文学の巨人たちも抱えていた。

FSGのオフィスは数年前にすぐ近くのロケーションに引っ越ししたけど、ずっとユニオンスクエアの西側に(つまり私のアパートの近くに)オフィスがあって、現役エディターの人も何人か知っている。だけど、私が知っているロジャー・ストラウスはこの本に出てくるジュニアーの息子、つまり3代目だし、ジルーさんも昔ブックフェアで見かけたおじいちゃん、ぐらいの印象しかない。

この四半世紀はジョナサン・ガラッシがFSGを統率してきたわけだけど、その彼がニューヨーク誌に寄せていたエッセイが胸を打つ。黄金期の後、どうなったかって? それまで「貧乏でもいいや、FSGから本が出ていれば」ってな作家たちがレーガン政権時代のイケイケ経済に毒されて(つまり、アンドリュー・ワイリーみたいなエージェントが現れてw)、出版社も変わらざるをえなかった、と。

90年代半ばのM&A時代には、FSGもドイツのメディアコングロマリット、ホルツブリンクの子会社となり、ストラウスの息子も引退していった。この本に「昔と違ってあまり社交的じゃない会社員タイプ」と表されたガラッシが「そうかなぁ?」と自問する。でも今のFSGのラインナップを見てよ。マイケル・カニンガム、ジェフリー・ユージェニデス、ジョナサン・フランゼン、トーマス・フリードマンらがいるんだよ(えっへん)、と。こういうこと書いてて泣けちゃう。

「もちろんフォーマットだのマーケティングだのEブックだのと、表層的にはすっかり様変わりしたかもしれないけれど、黄金期ってのは良い思い出ばかりが残るからそう思えるんだろうね。だって、昔と変わらないところもあるよ。面白い書き手を捜し出してきて、いちばん良いと思える「本」という形にして、ほら、こんな本があるよ、って世界に向かって言う、「出版」の部分がね」

 

 

 

 

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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