バーンズ&ノーブルはどうなっていて、どうするべきなのか?― What B&N’s financial report means


昨日発表されたバーンズ&ノーブルの決算報告がさんざんだったものだから、日本のメディアでもニュースになっているみたい。とりあえず「上手くいっていないらしい」ってことだけが。

アメリカのメディアが例えば紀伊國屋書店の業績を気にするなんてことは考えられないから、これは日本特有の騒ぎ方かな。だったらもう少しアマゾンという脅威に自分たちはどう対応していくべきなのか、ってことを少しでも検証してから記事書いてよ、と言いたいが。

こっちではEブックにおけるアマゾンのシェアは今のところ60%になっている。キンドル開始当初はそれこそ90%超えだったから少しずつ減ってきているわけだ。バーンズ&ノーブルのヌックは15%ぐらいかな?

バーンズ&ノーブルの決算発表のプレスリリースを見ると、こんな感じ。ヌックのところだけ異常にポジティブなのが笑っちゃうね。

問題は今後ヌックのタブレットデバイスをどうするか、という点で、もうこれ以上自分たちでハードを作って、さらにアンドロイドベースのソフトを作っていくのは大変だから、いっそのことマイクロソフトかグーグルにでも売り飛ばせば良いと思うよ。グーグルだったら今同じニューヨークのビル内にいるんだから簡単だしね。

だってタブレットってどう考えても読書専用のデバイスじゃないんだからさ、総合的なエンタメをコンテンツとして提供する気がないなら手に余るわけ、B&Nのような書店には。だから今後もEインクのデバイスに絞って、読みやすくしていくっていうのには賛成。あれは長持ち系のデバイスだからどんどん新しい型が出てみんなが飛びつくもんでなし、カスタマーケアを書店でやっていくってのはアマゾンにはできないしね。

肝腎なのは、ユーザーにとってキンドル以外のEブックを買えるサイトが残ることだ。オンラインで本を買う、という点においてはBN.comも遜色はない。値段やサービスもほとんど変わらない。違いは、アマゾンだと本のついでに他のモノもワンクリックで買えてしまうところかな?

もしバーンズ&ノーブルがヌックのデバイスを止めるのなら、DRMについても検討するいい時期なんじゃないかな?それこそKoboやソニーEリーダーと足並み揃えてDRMフリーを推し進めていく。そうすれば、BN.comで買ったEブックは(キンドル)以外のデバイスで読んで一括管理できますってことになるんで。

それより注目は、リテール側の決算だと思うけどなぁ。店舗とオンラインで売られた一般書が前年比で6%近く減っている。これは去年からパフォーマンスの悪い店舗をクローズし始めたのもあるだろうけど、同店舗での売上げは前年比で3.4%減っているけれどEBITDAは16%増えている。これは救いだね。っていうよりマージンの高い商品が売れたってのが原因だとすると、本以外だよね。バーンズ&ノーブルはここ数年、エデュケーショナル・トーイつまり学習おもちゃの販売スペースを増やしている。

そして相変わらず手堅い大学向け教科書ビジネス。

一般書の分野でEブックが急速に(というより順調に)普及したアメリカを見ている日本からすると、次は教育書だよな!という期待があるのかもしれない。でも実はテキストブックのEブック化は遅々として進んでいないのが現状。原因は色々あるけれど、日本からだとわかりにくい点をいくつか。

こんなインフォグラフィックもあった。

ハーバードだのMITだのって、アメリカ流の大学教育がテレビになったり本になったりと、色々流行っているようだけど、実際にこういうエリート向けの私立大学に行こうとするとムチャクチャな費用がかかる。リーマンショックでマイホームバブルが崩壊したアメリカでは、次に来そうなのが学生ローンバブルだからね。昔は(つまり私が学生だった頃)学生ローンと言えば、奨学金であるペル・グラントを補う形ですごい低金利で政府の管理の下にローンが組まれていたのだが、規制緩和されたのがいつか知らないけど、その辺の銀行に委託され、やたらめったらローンが組まれるようになっていった。不況で新卒の雇用が難しくなれば、払えない社会人が増えるのも道理。そうやって学生の支払い能力を見誤った銀行がつぶれてくれればいいが、結局政府が税金で尻ぬぐいするんだろうなぁ。

学費そのものがどんどん値上がりしているのもあるし、寮、生活費、そしてバカにできないのが教科書代。1教科1学期につき平均で数百ドルするんじゃなかろうか。テキストブックといえば1冊100ドルするようなのがザラにあるし、当然、学期末には要らなくなるので、ほとんどの学生は古本を買って学期末にはまた売り飛ばす。バーンズ&ノーブルも元々はそういう学生相手にテキストブックを「回す」商売で手堅く儲けてきた。学生同士でも教科書を貸し借りするってのを普通にやってる。

Eブックだと軽いし、紙より安いし、当然Eテキストブックでしょ!と思ったら大間違い。いくら安くてもEブックは使い終わったら売るという選択がないからね。しかも何らかのデバイスを持ってないと使えないわけだし。

テキストブックを出している出版社もその辺の事情は把握しているから、Eテキストブックを出してないとか、出していても紙と同じぐらいの値段を付けているとか、普及させようと言うよりも、ちゃんと大学側が教科書の費用をどうするのかという将来性が見えるまで守りの姿勢に入っている。例えば印刷会社がこういう記事を載せちゃうとか。

学生の方でも、他にも考えられる原因としては、Eテキストブック買うくらいなら、最初からもっとインタラクティブな教材の方がよくない?って話もあるだろうし。「紙の方が勉強しやすい」ってのも実際に実験してみると差がないことがわかっている。

そしてこれもよく理解されてないけど、今アメリカもオバマ政権に対抗してなるべく税金を使わせないようにしているお茶会議会の圧力があって、オバマ大統領は再選選挙の際も学生のE環境を整えたい、みたいなことも言っていたけれど、二期目に入ってからは各週で教育費がどんどん削られているのが現状で、中高教育にEテキストブックを買いそろえていけるような予算はとても下りない。お金のある金持ち私立でやると、「格差助長」と叩かれるしね。

いい機会なんで、B&Nはヌック部門と書店ビジネスを切り離すか、少なくともタブレットからは撤退すればいい。そしてレン・リジオ会長が書店ビジネスの株を買い戻せばいちいちマーケットハックどもにあれこれいわれて株価が下がったりするのを気にしなくてもいいし。いずれにしろ、インターネットで商品流通の基盤が変わったんだから本に限らずアメリカのリテールが全てシフトしつつあるわけで、B&Nのような大型書店の時代はもう終わりってこと。ゆっくりジリ貧になりながらどうするか見極めていくしかなかろ。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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