ガクブル米書籍事情:アマゾンが出版社になった—How scared are we of Amazon as publisher?

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ガクブル米書籍事情:アマゾンが出版社になった—How scared are we of Amazon as publisher?Books and the City

今年の5月初旬に「いかにアマゾンが恐いか」という主旨のコラムを個人のブログに書いた。これはアメリカの書籍出版業界で編集者から、あるいは書店関連者から直接見聞きしたアマゾンの行状(すれすれ違法ではないので悪行とは言えないが)を思いつくままに書き連ねたものだ。以前からずっとモヤモヤとしていたものをようやく吐き出せたようで、書いた後かなりスッキリした。

アップロードしたところ、アクセスはサーバが落ちるぐらい大量にあったものの、えらく不評で気が萎えた。「小見出しがなくて読みづらい」だの「ちっとも恐くない」だのといったコメントをもらった。2ちゃんの厨房並みのコメントには、同じレベルでコメントを返していたら、それも評判が悪かった(これは素直に反省して、以後は糞コメは無視/却下することにした)。

「恐くない」というのは、アマゾンの顧客としてその利便性を享受している者なら当然だ。何しろアマゾンはお客様のためを思うからこそ、ああして安価で幅広い商品を揃え、徹底したサービスを提供しているのだから。出版業界以外の大手リテールなら、そのぐらい卸先を締め上げてトーゼン、アマゾンだけが特別あくどいワケじゃない、みたいなレベルなのかもしれない。むしろ、あのコラムを読んで、恐れおののくべきは出版社の人間なのだ。安くて便利なオンライン小売業、という看板の裏で、それを実現するために版元にかけられる有形無形の様々な圧力を暴露したのだから。

「これ、本当なの?」という懐疑的なコメントもあった。そりゃ、アマゾンがこんなことしてますって自ら認めるわけないし、やられている方も取引停止される可能性を思えばうっかり公にできない。読んでる方にしても確かめようがないかも知れない。でもさぁ、こんなブログで私みたいな非力な個人がでっちあげやウソを書く理由もないでしょ? アマゾンには一ユーザーとして個人的にお世話になってるし、利害関係がないのだから、私がアマゾンを糾弾する理由もないわけで、みんな本当のこと。なかなか表だって語られていないからこそ、貴重な情報だと思ったんだけどなぁ

キンドル・ファイヤー登場

で、そのアマゾン、相変わらず恐ろしい。ちょうどファイヤーのTVコマーシャルも流れ始めたところだ。

YouTube Preview Image

まだ肝腎の日本語コンテンツのEブックサービスが始まってもいないのに(日経のトップになってたけど、これってニュース?)、来月から販売になるアマゾンのタブレット、「ファイアー」に日本でもかなりの期待がかかっているようだ。不思議。iPadの半額以下という199ドルのお値打ち定価、アンドロイドをベースにした独自のOSは、一部クラウド化して操作のスピードを上げるというものらしい。要するに国内はiPadの一人勝ちだから、誰かライバルとして頑張ってくれ、という立ち位置なんだろうか? 結局のところ、両方とも「黒船」と言ってしまえば黒船なんだけど…。

でもこれ、結局アマゾンの顧客を囲い込むデバイス、というよりサービスのための端末なんだよね。音楽、映画、そしてEブックまで、エンタメコンテンツはみーんなアマゾンから買ってね、という縛りなので、ハードを売って多少足が出ようが、関係ないわけ。

「ファイヤー」発売に関するアメリカ国内の反応は、諸手を挙げての大歓迎ではない。特に出版社からしてみれば。

電子書籍に揺れつづける出版業界

もちろん、リーマンショック以後の不況にあって、曲がりなりにも書籍の総売上げがそんなに打撃を被っていないのはEブックの売上げに支えられているからなんで、ありがたいことなんだけど、実はアマゾン、春先から本格的に「中抜き」どころか、出版業に本腰を入れ始めたので、ファイヤーに対する気持ちも複雑。これでさらにEブックが売れるのは間違いなく、それは歓迎するけど、一方で、そのために紙の本を売るお得意様はますます少なくなり、気がついたときにはアマゾンに「コンテンツもうちら自分で作るから要らないよ」なんて言われた日にゃ、寝汗びっしょりの悪夢を見ているかのよう。

「アマゾンが出版社になる」というのも、昨日や今日に急に始まったことではなく、2007〜2008年頃からアマゾンは本社のあるシアトルを拠点にEブックベースの独自のプログラムを持っていて、Amazon Encoreという名前で、自費出版でそこそこ売れた作品に出版社としてオファーを出してみたり、海外のアマゾンサイトで売れている本を探して、それが英語圏でもイケそうだったら英訳して出すAmazon Crossingというインプリント(出版レーベル)があったりした。でも、アメリカの大半の出版社が集中しているニューヨークでは「西海岸で作ってるみたいだけど、誰が編集やってるんだろうね?」みたいなレベルだったわけ。いざ刊行されたタイトルを見ると、かなりショボかったし、眼中になかった。去年辺りまでは。

それが今年に入って、ロマンス小説のレーベル、Montlakeを発表してみたり、ランダムハウス傘下のSFで知られるデル・レイから編集者を引っ張ってきたり、というニュースが耳に入るようになってきた。インプリントの名前も「アマゾン〜」と入ってなくて、みんな「おやっ?」と思い始めたわけ。こうすると本を買う人からは「アマゾンが出している本」ということがすぐにはわからなくなるということなので。この辺までは他の出版社もそんなに危機感は感じていなかった。ロマンスやSFというのは、固定ファンが多読するジャンルなので、紙の本の生産では部数をきっちり絞らないと儲けが出ないが、Eブックでなら、タイトル数はいくらあってもかまわないからだ。この辺の本をガンガン読む人は、既にEブックに移行している、という認識もあったしね。

新たな事業進出をめぐる動き

アマゾンが今年5月にラリー・カーシュバウムを引き抜いた辺りから、業界が騒ぎ始めた。ラリーと言えば、元タイム・ワーナーブックス(現アシェット)のCEO。最近はエージェント業をやってて、そろそろ引退かしらね?と思われてた業界の重鎮。業界での顔も広い。昔お世話になって、今第一線でバリバリやっている編集者も多い。というわけで、6月のブック・エキスポでは、その彼を編集長として、ニューヨークで本格的に始動、というアマゾンのニュースに、私の知り合いの編集者たちもその噂で持ちきりだった。「ラリーに声かけられたらどうする? アマゾンだからお給料はいいんじゃない? 誘われたら行く?」とマジメな顔して囁き合っていた。アメリカでは編集者はいくつもの出版社を渡り歩いてキャリアアップしていくからね。アマゾンに編集者として引き抜かれていったら、他の版元に総スカンを食らい、アマゾンにいる間はいいとしても、その後のキャリアが危うくなるかも知れないという懸念があったのだ。

個人的にショックだったのは、友人のジュリア・シャイフェッツが抜擢されたこと。確かに彼女は、私と一緒にいたランダムハウスから、ハーパーコリンズで新設されたブティック・レーベルの「ハーパースタジオ」に移ったものの、ほどなくしてリーダーのボブ・ミラーがアルゴンキンに鞍替えしちゃって、ハーパーコリンズではあんまりハッピーじゃなかった(=望み通りの企画がとれてなかった)のは知ってたんだけど、6月に会ったときに「今は言えないけど、そのうち状況が変わると思うから、今はこの企画、保留にしといて」と言われたから、どーすんのかなーとは思っていたんだけど、こういう事情だったのね。

その彼女までがアマゾンに引き抜かれていったと聞いて、ショック、というより、アマゾンったら、こりゃロマンスとかSFといった「ジャンル・フィクション」だけじゃ済まないな、という気がした。だって、ジュリアはどちらかというとポップなノンフィクションやメモワールの編集者だから。

その後も続いてマグローヒルからデイビッド・モルダウアー(ってことは当然ビジネス書)を、そして自身も作家であり、文芸誌「ビリーバー」の編集者だったエド・パークも引き抜いた(ってことは純文学)。これで一通り役者が揃ったと言うか、アマゾンの本気度が伺えるわけだな。

これだけの編集者を揃えてどういう本を出すことになったかというと、まずは一番の大物が「ビッグ」や「プリティ・リーグ」といった映画で知られるハリウッド監督のペニー・マーシャルのメモワール。女優だった頃のエピソードから、同じ監督で兄のゲイリー・マーシャルの話もあるだろうし、今からベストセラー臭ぷんぷん。これはジュリアが担当する本だろう。アドバンス(印税の前払い料)がなんと80万ドル。最近、どこの出版社もなかなかこんな額は出せなくなっている。しかもこの秋には刊行点数が100タイトルを超えるというのだから、急成長といったところ。

アマゾンの電子出版事業

本格的に始動したアマゾンが最初に釣った有名著者が「4時間でできる」シリーズのグル、ティム・フェリス。彼は既に紙の本の出版を止めると宣言したセス・ゴーディンと同類で、既にセルフヘルプの分野でベストセラーがあって、ファン層が確立され、ソーシャルネットワークを利用して自分で自分を売り込めるタイプ。アマゾンにピッタリの著者と言える。

後は、紙の本を出す話がまとまらずにEブックの自費出版に流れた著者の中からどうやって売れそうなものを見つけてくるか、というのが出版社としてのアマゾンの課題だけど、既にその辺でも隠れた実績があって、Hangman’s Daughterというアメリカでは無名のドイツ人著者の本を、最初はEブックで売りまくって、ベストセラーにしている。

という事情もあったので9月にアマゾンがキンドルのラインアップを一新、とうとうタブレットも発売する、というニュースがあったとき、出版社の人たちは複雑な気持ちでこれを見ていたはずだ。そりゃiPadの半額以下で、フルカラーのタブレットにアマゾンのサービスが付いてくるんだったら(その逆に、アマゾンのサービスがカラーのタブレットでも手に入ることになったと言ってもいい)、これからはもっとEブックが売れるだろう。だけど、それでも企画の段階から紙の本を基本に本を作っている私たちは、出版社としてのアマゾンに太刀打ちできるだろうかと。

出版業に乗り出すのに、アマゾンは既存の出版社を買収することはしなかった。これからもしないだろう。何故かというと、丸ごと従来の出版社を買ってしまっては、プロダクションやマーケティングまで、紙の本を作ることをベースにしたビジネスを抱え込むことになるからだ。こうやって編集者など、必要なスタッフを引き抜いて出版社を作ればいいというわけだ。実に賢い。

そんな流れもあって、10月16日付けでニューヨーク・タイムズがアマゾンの出版業について書いたときも、今さらなに言ってんだろうねぇ、という反応だった。業界の人間にとっては、今まで知らなかった事実がひとつも書かれていなかったからだ。まぁ、ビクビクしているのが一般の人にもバレちゃった、という気まずさもあっただろうけれど。

タイムズの記事では「どれだけ従来の出版社がアマゾンを警戒しているか」という事例としてキアナ・ダベンポートという著者のことを紹介している。彼女はアマゾンとの前に、ペンギン社と契約してThe Chinese Soldier’s Daughterという本を来年出すことになり、2万ドルのアドバンス(印税の前払い)を受け取った後で、絶版になったり、あちこち散らばっていた短編をまとめてアマゾンから出したところ、ペンギンとの契約がこじれてアドバンス返せ、ということになった。でもまぁ、これは相手がアマゾンでなくても、いったんどこかの出版社と契約しておきながら、他でも本を出す(不届きな)著者に対しては当たり前の措置だ。日本ではその点、同じ著者が複数の出版社から著作を出すのが普通なので、感覚としてはわからないかもしれないが。

アマゾンの出版進出で懸念される問題

とにかく、アマゾンが出版業に乗り出すというのは、出版社がもうひとつ増える、というのとは全く意味が違う。これからも色々な問題が起きてくるだろう。考えられるのはこんなことだ。

1)エージェントの役目が失われるかもしれない

出版社との契約は、その副次権も含めてかなり複雑なので、著者の代わりに専門的な知識を持つエージェントが仕切るのが普通だ。でもアマゾンは著者と直接交渉しているらしい。ということは、著者にとってはアマゾンのEブックにしておけば、印税も増え、エージェントにコミッション(通常15%)を支払わなくてもすむので、一見オイシイ話かも知れない。だが、アマゾンは卸先や版元にプレッシャーをかけることからもわかるように、当然著者に対してもかなりのゴリ押しを強いてくるはずだ。後で搾取されていると感じても、代わりに闘ってくれる人がいないことになる。

それに、玉石混交の原稿の中から、お金になりそうな、めぼしい企画(本)を見つけてくるのがエージェントの仕事だ。それをアマゾンは自費出版の売れ行き数字で判断することができる。クラウドな目利きを持っていることになる。これは恐い。

2)卸先(リテールアカウント)の取り扱い

これも最近、ニュースになった。アマゾンがアメコミの大御所、DCコミックスと「ファイヤー」での独占契約を発表したために、バーンズ&ノーブルが対抗措置として、同じ作品の紙のバージョンを売ることを拒否。こっちの出版社は著作を出す、というよりも、特定の著者を抱えて、彼らの作品すべてをプロモーションするので、Eブック版権だけアマゾンに持って行かれると困るのだ。なぜって、その著者のプロモーションをすればするほど、アマゾンに美味しいところ(売上げ)を持って行かれる、ということにもなりかねないからだ。

3)紙の本の取り扱い

これは要するに、アマゾンがEブックだけを出しているのならまだしも、紙の本も出す場合(そして、需要があれば紙バージョンも手がけると明言している)、Eブックからはなんの恩恵も受けない書店が、その本を置くかどうかという問題だ。今のところ、インディペンデント系書店(中小の独立書店)は「売れるのなら売ってやるよ」という態度だが、オンライン書店BN.comも併設しているバーンズ&ノーブルはどうするだろう? Eブック版も売らせてくれないのなら拒否する、というオプションもあるだろう。

4)著者の立場

反対に、著者側がアマゾンの出版契約に惹かれる、ということは、アドバンスというシステムそのものが変わってくること示唆している。今まで、出版が決まると、本が売れようが売れまいが、刊行前に著者の元に入ってきていたが、それが実売ベースの印税のみになると、結局困るのは著者自身だと思うのだが。

とまぁ、こういう風に、出版業界の基盤を覆しかねない問題を含んでいるのがアマゾンの出版業。ただし、アメリカの出版社だって馬鹿じゃない。これは時代の波であって、自分たちがいくら拒否したところでムダなのはわかっている。だとしたら共存の道を探るしかないではないか。そしてその道というのは、さらなるリストラ、経営のスリム化、マーケティングの予算削減、アドバンス額の低下、とまぁ、アマゾン以外の人間にとって良いことは何一つないわけだ。せめてこれが読者にとっては、本がますます安くなり、読めるタイトル数が増えるという恩恵をもたらすものだと思いたいが、そもそも本って安くてバラエティーさえあればいいものなんだっけ?という根本的な疑問が浮かぶ…っつかー浮かぶよね?

 

おまけ:

この記事も長ったらしくて読みにくい、というフィードバックがあるだろう。でも、こっちの出版界でなにが起こっているのか、その広大な川の流れみたいなものを説明するのに、箇条書きとか、小見出しに分けて書くのってムリ。パノラマの風景を映し出すみたいなもので、スッキリしたフレームに小分けできないのさ。許せ。

おまけ2:

そしたらなんと、わざわざ小見出しをつけてくれた人がいて、ちょっとアップデートしてみた。

written by Lingual

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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