機械翻訳をそのまま出版?トンデモ本の裏にあるもの—Accidental Einstein and what’s plaguing Japanese publishing

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機械翻訳をそのまま出版?トンデモ本の裏にあるもの—Accidental Einstein and what’s plaguing Japanese publishingBooks and the City

期待を裏切るようで悪いが、私は既にランダムハウス講談社(現武田ランダムハウスジャパン)を離れて久しい人間なので、今回のアインシュタイン本機械翻訳事件については、舞台裏の詳しい話は知らない。知りたい人はアマゾンの書評や、他の記事で充分だろう。

武田ランダムハウスのお詫びと訂正

Gigazineの記事

読売の記事

アマゾンの書評欄で明かされた内情

でも、なぜそんなに切羽詰まった台所事情になってしまったのか、その根幹にあるものを正直に書こう、という話である。おつきあいいただければ。

まずは武田ランダムハウス・ジャパン側の事情。私はランダムハウスと講談社が提携して色々やっていこうという話のあった2002年頃からずっとRH側のトップをサポートしていた。少なくともRH社としては、アジア進出への足がかりとして、既にずっと出版不況であまり未来のなさそうな日本で出版社(RHK)を立ち上げることについては現実的な見通しを持っていた。

どうせ、他の大手出版社からベテラン編集者が移ってきてくれることはなさそうだから、中途入社志望の若手編集者を雇い入れ、多少失敗があっても、時間がかかっても、会社も、人もいっしょに育っていけばいいというスタンスだった。私が日本語の読めないRH側のトップにいつも釘を刺されていたのは「RHKはRHの名に恥じない翻訳書を出しているか?」ということだった。

RHKはP&L重視で思い切ったアドバンスもどーんと出せなくて、取りたいタイトルが買えないことも多かったが、スリラーやコージーミステリーや、あるいはノンフィクションや純文学のジャンルで、これは世界中で面白いという評価が高いから、日本の人にもきっと読んでもらえると信じてがんばって作ったタイトルが多かった。残念なことに日本の市場は既にかなり内向的になっていて翻訳本のハードルは高かったのだけれど。

その社風が一変してしまったのは、2005年にRHアジアのトップが入れ替えになった時だ。新しくRHアジアを統括することになったのは某アジアの国のサブライツ・エージェント。こいつがまたその国のいけないビジネス慣習を引きずった旧いタイプで、部下の判断はすべて「オマエはオレに忠実か?」で決めるようなヤツ。こいつがRHKのトップを決めるときに自分の飲み友だちを引っ張ってきたのがいけなかった。

仮にも一社の社長を新しく捜すときには、リクルート会社に委託してそれなりの人物を推薦してもらい、片っ端から極秘でインタビューして最適な人材に狙いをつけるのが常識だろーよ。それが、とあるエージェントで二世社長を育て上げ、これから退職しようとしているエージェント仲間に声をかけたのである。

その結果、飲み友だちが飲み友だちを呼び、いつのまにか私がgeriatric divisionと揶揄するジジイ編集者と忠犬ハチ公みたいな編集者が増えてしまった。これじゃ読者も混乱するわな。海外ミステリー文庫だと思っていたラインにいきなり「焼き物の美学」とか「なんちゃら侍捕物帖」みたいな本が入ってくるんだから。

ま、RHKは他にも色々メチャクチャなことをやっていたわけだが、ルーツはここにあると思っている。

その後、ランダムハウス本社でもトップが入れ替わり、アジア進出はいったんヤメという判断の下にRHKから手を引くことになり、武田ランダムハウスジャパンという名前に変わった。ランダムハウスの名前は2年限りのライセンス契約で、実質的にはRHと何ら関係はない。

そして一方で、武田ランダムハウスだけでなく、日本の版元が追い詰められる罠がそこにはある。

今日本の本の返品率は平均40%を上回ると聞く。そこそこ売れているベストセラーの本ならこれがほとんどなくなるわけだから、平均して40%というのは、返品率90%近いような本がゴロゴロあるということだ。で、これは放っておけばそのうち取次から本が返ってきて「納品時に払ったお金かえして」となるわけだが、どこの出版社もそれを支払う代わりに「あ、次の本ができましたんで、それを納めますから支払いは勘弁してちょ」ということをやっている。実はそんなことの繰り返しだ。

だからヒット作が出ないと、どんどん苦しくなる。それを刊行点数を増やすことで補う。これがいわゆる自転車操業だ。何せ出版不況でどんどん本が売れなくなっているこのご時世に、刊行点数だけがどんどん増えていっているという状況はこれで説明がつく。ただし、ここ4〜5年はそれでも効かなくなっているようだが。

とにかく、期日内に納品しないと返品代を支払わなければならない。だから編集長が社長に頼んでも刊行日は変えてもらえないし、監修者にも見せず、編集作業も終わらないまま出さなければいけなくなる。何があろうと刊行点数だけは増やさなければいけないので編集者の担当冊数だけが増え、その分、一冊一冊の本が疎かになる。そうやってテケトーに作られた本は当然クオリティーが下がる。

第三者から見れば、何をそんなに急ぐことがあるのかと思いそうだが、そこにはこういうくだらん資金繰りのからくりがあるのだ。

この自転車操業の先にあるものは、徹底的なリストラか、倒産しかない。武田ランダムハウスジャパンには後者をお薦めしたい。

それにしても…(と、ここからが本題だったりする)。

今回のこの事件を取り上げたマスコミも程度が低いっつーか、もう少し努力できんのか、と呆れる。おそらく本も手に入れずに、他のサイトに載っていた訳文をそのまま写してお茶を濁している記事ばかり。

出版業界のこの「自転車操業」という暗闇に突っ込めないのは、どのマスコミも傘下に同じことをしている書籍出版社があるから、ということなのだろうか。

それより、件の本についてもう少し。

それじゃあ、原書を手に入れて、どういう文章がどうなってしまったのか、検証してみようという記事はひとつも見かけない。著者や出版社に問い合わせて、「日本語版の本がこんなことになっていますが」と言ってコメントをとったところもない。

マスコミの人間なのに、誰も著者名の「ウォルター・アイザックソン」ってのを聞いて誰なのかちーっともわかってないんだろうな。彼の名前を聞いて、お、あのCNNの社長だった人?とか、あのタイム誌の副編だった人?とか、オバマ政権の放送管理委員会の人?とかって気づかないんだから。

まぁ、アタシみたいに「およ? ウォルター・アイザックソンが著者とくれば、ベンジャミン・フランクリンやキッシンジャーの評伝を書いた格調高い文章で知られるあの人ね。だったら機械翻訳なんてハナからムリじゃん?」とまではわからなくていいからさ。(笑)

しかも来年にもなれば君たちはまたこの名前を聞くことになるんだよ。なにせそのウォルター・アイザックソン、この春企画が決まったときにも話題にもなった「iSteve」というスティーブ・ジョブスのお墨付き評伝を書いている真っ最中なんだから。しかもその日本語版は講談社から出るんだからさ。

こういうこと、別に英語がデキなくったってネットでちゃっちゃとリサーチすればすぐに得られる情報だよね? つーか、翻訳本の話ってんで、アタシにコメント求めてくれればこういうネタになりそうな話、いくらでもタダで教えてあげるのに。誰も訊いてくれないからブログに書いてしまったさ。

written by Lingual

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
  • Tommypapa

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