Manga 2.0 ボーダーズ倒産と東京ポップマンガ撤退に見る今後のマンガ海外出版の行方を探る


アニメやマンガのことを書くとオタクどもが反応して、普段は出版関係者に細々と読まれているこのブログのアクセス数が急増する。捨てハンを使って屁みたいなコメントを残したり、面と向かっていちゃもんをつけてくる勇気のある輩は少ないが、「2ちゃん」や「はてブ」にコピペされて喧しいプチ祭りになったりすることもわかった。それでもやはり、ここ一連の出来事については日本発コンテンツの未来を憂える者として思うところを書いておきたい。

ここ数年、アメリカではリーマンショックによる不況が始まる前からマンガの売上げが落ち込んでいる。それまではEブックをも凌ぐ成長率を見せていた期待のカテゴリーだったにもかかわらず。原因は色々考えられるが、私はそれを「マーケティングもしないで何でもかんでも出し過ぎ」だからだと書いた。でもそれは漫画家の人に対して海外のマーケットを気にして自分の作風を変えろなどという暴言を吐いたつもりはない。アーチストはアーチストとして自分の心の赴くまま表現すればよろしい。例えそれが非実在の青少年を性の対象としたものであっても、未成年の目に触れず、買えないようなシステムを作ればいくらでもエロも萌えもありだと思う。

コンテンツの輸出に関して間違いを犯したのはあくまでも漫画家の作品と海外版権の交渉を託された出版社側だと思っている。彼らが勘違いしたのは「アメリカでもマンガ“ブーム”になる」と思ってしまった点だ。確かに一時的に盛り上がるブームというものもないではないけれど、アメリカは多様性を重んじる社会なので、それこそミーちゃんもハーちゃんも見境なく誰もが飛びつくような人気商品は作ろうとしても作れないのが現状だ。よっぽどのカネと知識がなければ。

それでもアメリカでMangaを面白いと思って買ってくれた読者が一定数いたから一般図書の出版社や本屋でも「新しい本のカテゴリー」として認知され、徐々に売上げも増えていたのだ。ところが日本側は国内で長く続く出版不況に喘いで焦っていたこともあるのだろう、ブームを期待してあれもこれもと出し過ぎた。タイトル数の増加にこれを受け入れる本屋の棚が追いついていなかったし、アメリカの出版社は急ごしらえの本を次々と出せる体制にはなっていない。

そして、そうこうしているうちにアメリカの書籍マーケットではEブックへの移行も着々と進んでいった。(しつこいようだが、私は拙著でもEブックはブームになっているのではないと言っている。)なのに、日本のマンガのEブックと言えばガラケーに対応しているのみ。これもひとつ、アメリカでマンガの売れ行きが陰りを見せた原因だ。

そこへ全米第2位の売上げを保ってきた書籍チェーン店、ボーダーズが倒産しそうだというニュース。(写真は閉店の憂き目を見たパーク街のボーダーズ店内のカフェ、地下のマンガは充実してた。)まぁ、これもここ数年の経営状態を知っていればニュースでもなんでもないのだが、日本のマンガ輸出側にとっては、業界第1位のバーンズ&ノーブルが倒産するより(日本ではなぜか身売りとの誤報)打撃が大きかったはずだ。というのも、回転率のいい売れ筋のタイトルに比重を置くバーンズ&ノーブルと違って、ボーダーズはそれこそ「なんでもござれ」方式にタイトルを置くことで知られていたし、マンガの売れ行きが伸びていた時期にボーダーズでマンガ担当のバイヤーだったカート・ハスラーはかなりの“目利き”だったが、彼は売れ行きが落ちる前にYen Pressの編集長としてアメリカでマンガを出す立場に回った。

そして、以前からそうとう危ないとウワサのあったTokyoPopがマンガ出版事業から撤退するという発表があったばかりだ。この東京ポップこそが、マンガ人気の初期に「下手な鉄砲も数打ちゃ」方式でかなり多彩なタイトルを出していたのだ。2003年頃にはそれでもよかったかもしれない。講談社から「セーラームーン」の版権を買えてたし、アメリカでも特に購買力のあるプレティーンの女の子たちが「ラブひな」や「ちょびっツ」を買い始めた。

東京ポップが怠ったのは、この最初のデモグラフィック(つまりは読者)のフィードバックを活かして、読者層を育てられなかったところにある。これは全体の売上げからではわからないが、1タイトルごとの売り部数と売上げを見ることで顕著になる。ピーク時の2006年に東京ポップは年間に2000タイトルほどを刊行、3000万ドルの売上げがあった。つまり1タイトルで1万5000ほどの売上げがあったわけだ。これが最新の数字では2010年に2400タイトルで総売上は900万ドル、1タイトル辺りの売上げは4000ドルにも満たないことがわかる。ライバルのVizメディアやアシェットのYen Pressは1タイトルごとにすくなくとも1万ドルは売り上げているだろう。

そして東京ポップにコンテンツを提供していた講談社が、ランダムハウスのデル・レイと組んだことも東京ポップのラインアップに打撃を与えたことも否めない。講談社の売れ筋をごそっと取られた上、東京ポップがどう逆立ちしたって、アメリカの最大手ランダムハウスのセールスチームの営業力に勝る術はないといっていいだろう。(写真は2010年ブック・エキスポでのデル・レイのブース。既にマンガの影が薄い。)

ランダムハウスは、自社の読者をよく知っているが故に講談社から出て日本で売れているからと言ってなんでもかんでもタイトルを出すことを良しとしなかった。つまり、講談社にいくらでも大人向けのコンテンツがあることを知りながら、最初のコア読者である少女たちが大きくなるのを待つ方針をとった。ジュベナイルとも称されるYAのカテゴリーでも「ハリポタ」を読み終わった女の子たちが「トワイライト」シリーズを読んでブームができあがっているのと同じ原理だ。

その過程の中では「日本ではこんなに売れている」と言われてもアメリカで出しにくい、出したところで黒字にならないと思われるタイトルは出さないという英断も下す。今回、講談社がアメリカに子会社を立ち上げたのは、デル・レイが出さない作品を自分たちで出すということなのだろうが、講談社インターナショナルの二の舞、つまりアメリカのマーケットを知り尽くした現地スタッフをちゃんと雇わないことには、どんなに英語版を作っても売れないということになるのだろう、残念ながら。しかも今さらまたセーラームーンに絶望先生ですかい。

こんな状況にあるのに、日本政府と来たら去年辺りにようやく腰を上げて「クール・ジャパン」と称してマンガやアニメを含めたソフトコンテンツを海外に売り込むプログラムを始めた。5年おせーんだよ。一方で、また石頭都知事が再選されて(漢字の間違いではありません)青年法をいじって規制を強化する動きがあるわけだし、やってることが矛盾してるのがわかっているのか?

まぁ、ここまでは私がこれまで言っていたことの焼き直しと裏付けにしか過ぎない。今回のお題は少しでもアメリカにおけるマンガ市場を広げていくにはどうすればいいのかという話。私がこうやってマンガの海外マーケットの話をすると決まって「でもフランスやイタリアではけっこう売れてるじゃん」という反応があるのだが、マーケットの大きさを考えてみろっつーの。確かにヨーロッパ大陸の方が、多言語・他文化が入り乱れている分だけ、日本コンテンツの翻訳へのハードルが低いのはたしか。ヨーロッパで細々とやってそれでいいのならともかく、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアという英語圏でやれなきゃあまりインパクトはないということ。

ここで私から主張できるのは2つ。まずは、これからもYen Press、Del Reyといった現地の出版社に版権の売り込みを怠らないこと。彼らも翻訳ものに手間ヒマかけるよりは、いずれは地元のマンガアーティストを育てた方が効率がいいことにとっくに気づいている。でもまだ充分に成長していると思えるような作品はない。そして作品の選定は彼らに任せるべし。日本で売れているから、なんてのはナルト、デスノート、ワンピース規模じゃないと恥ずかしくいえないやね。ってことはアニメとの連携も不可欠。

そしてそれ以外のマンガを自社で出すというのならEブック化を検討するがよろし。でもやみくもにiPadのアプリを作ったんじゃ失敗する。マンガのコア読者層がどのガジェットや携帯を持っていて、何にどのぐらいならお金を出すのかしっかり調べてからね。別に最低PDFファイルで見られればいいんだけど、ちゃんとセキュリティーにもお金かけないとすぐに海賊版を作られるわけだし。それと、いかにも日本の会社のサイトでーす、みたいなデザインじゃ誰も来ないから。それとEブックの場合、課金で困るのが、ティーンエイジャーたちはクレジットカードを持っていないこと。お小遣いを渡す親が限度を決められるペイパルみたいなシステムが絶対必要。そしてその場合、エロな内容は即、訴訟になることも理解しておいてもらいたい。バーンズ&ノーブルのNookは親子をターゲットにしたサイトショップを展開しつつあるから、そこへ入り込むのもよし。ゲームやアニメとの連携も重要。

なーんてことは、マンガやアニメに興味のない私でもわかることなんだけどね。だから海外出版向けに人を雇うのなら、日本語や日本文化がわかる、なんてことに囚われない方が良い。むしろ現地のマーケットに精通している人材優先。マンガブームなんて棚ボタはもう期待しない方が良い。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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