ソーホーの本屋さんでPODエスプレッソ・ブック・マシーンを見てきた—My first encounter with the Espresso Book Machine at McNally Jackson in SoHo


個人的にもたいそう気に入ってずっと応援しているインディペンデント系書店(=チェーン店じゃない街角の小さな本屋さん)の〈〉で、POD(=Print On Demand)のエスプレッソ・ブック・マシーンがとうとうお目見えしたってんで、さっそく見せてもらいに行ってきた。

せっかくだから少しマクナリー・ジャクソンの話をしておこう。名字が2つ連なった店名からも想像がつくとおり、この店はマクナリーさんとジャクソンさんの2人が経営する書店だ。2004年に同じソーホーの少し先のマルベリー通りに開店したときは〈マクナリー・ロビンソン〉という名前だった。これはカナダに数軒あった本屋さんの名前と同じで、オーナーのサラ・マクナリーのお父さんがやっていた商売。そう、彼女は小さい時からパパの店に入り浸って本を読みあさっていたのだ。大学を卒業して出版社で数年働いた後、本屋さんを始めた。やっぱり血がそうさせたのか。今の店舗に移ってしばらくして結婚したのを機に、夫の名前に変えたというわけ。

ちなみに、カナダのマクナリー・ロビンソンは何年か前に閉店してしまった。ま、跡継ぎ娘がアメリカ行っちゃったからねぇ。さらにちなみに、サラの夫のフィル・ジャクソンはランダムハウス傘下のインプリント、スピーゲル&グラウの編集者。以前、ダブルデイの編集会議でよく顔を合わせていたので覚えている。(狭い世界なのだ。)私が愛するニューアーク市長、コーリー・ブッカーみたいなイケメンw。

本屋さんが好きな人もそうでない人も、ニューヨークに来る機会があったらぜったい寄ってみてほしい。ソーホーというお洒落な街で、いちばん「奇をてらってないけどお洒落な」お店だから。よく本の売上げは2の次で、凝った内装や品揃えの店もあるけど、ここは手堅く本を売ってショーバイしてるんです、というスタンスが感じられる。店内のカフェもスイーツや紅茶が充実、無料WiFiもあるけど、ノートパソコンだけ広げて他のことしているのがもったいないと思えるくらい魅力的な本が並んでいる。

入り口に貼ってある小さなステッカーに「このお店はローカルビジネスです。しっかりサポートしてね」と書いてある。つまり、あなたがここでちゃんとお金を落としていってくれるから私たちも商売ができるのよ、と言っているのである。そしてそこまで言い切れる魅力があると断言できる。

店内のディスプレイはゆったりしているけど、ムダなスペースがない。「店員お薦めの1冊」のコーナーも、個性的な店員がしっかり普段から色々な本を読んでますね、ってことが伝わるようなセレクション。(この間、見たときはちょっとありきたりでガッカリしたんだけど、今回は脱帽。)1階中央のアート系の本は、かなり幅広いジャンルから選択されているんだけど、この間は日本のABCあたりでしか見ないような本もあった。写真集は日本語の本まであったりして。

奥の「ヨーロッパ文学」「アジア文学」の棚も、時間があれば棚ごと大人買いしたいぐらい。ここのアジア文学から、「日本文学」のセクションを作ってもらうのが当座の私の目標ってとこかな。

ま、もしかしたら、たまたまこの店が私の好みとドンズバなだけかもしれないけどね。

階下に降りると、もう少し一般的な既刊書と児童書のセクションもあるけれど、そこでもやっぱり置いてあるアンチーク家具や、マニュアルタイプライターや、子供向けのオブジェまでがオッサレ〜、なのだ。あ、なにこのランプ、上に本を乗せると家の形の間接照明になるのね。欲しいかも。添えてあるジョージ・オーウェルの言葉もふるってる。「ナゼ私は書くのか? 政治的な言葉は嘘を真実に見せかけ、殺人を偉業に仕立てあげる。そして空虚な器に中身があるかのようにしてしまうからだ。」だなんて、カダフィやムバラクに聞かせてあげたい。(ここでしばし、グッズなどの小物に見とれる。)

おっと、階下に来たのは本を漁るためではなく、エスプレッソ・マシーンのオペレーター、デイビッド君を捜しにきたからなのだった。「すみませ〜ん、サラが今日はエスプレッソ・マシーンのデモを見せてくれるって言うんでお邪魔しましたー。」「オッケー、今このお客さんの本を探してるから、ちょっと待ってね。」「はいはい、ここでならいくらでも時間がつぶせますよ」、と。

2人で上に戻ると、サラが「あら、ちょうどよかった、こちらエスプレッソでリクエストのお客様」とのっぽの学生風の男子を紹介する。欲しい本はコロンビア大学出版の「#$%W@#$%*(聞いてもわかんねぇ)の解析と統計について」というむずかしそうなタイトルの本。学術書のようです。学生君もリストから棒読みです。卒論かなんかで必要なんでしょうか。もう市内はどこ探してもなくて、アマゾンでも在庫なしって言われて…だって。そう、一昔前だったらこういう本はもう神保町みたいなところを漁るしかなかったよね。元々印刷部数が少ないし、古書店に残っていても法外な値段が付いてたり。

デイビッド君が、エスプレッソ・マシーンでしばらく検索してみたけど、PODでも出せないことが判明。やっぱり詰まるところは版元が放置せずにちゃんと絶版と判断してPODの許可を出さないといけないらしい。学生君、ガックリ肩を落として帰宅、と思いきやカフェで和んでるんですけどw

ということで、他にも注文の入っていた本でデモをすることに。といって、しばらくコンピュータ画面とにらめっこしているわけですよ。つまりは、エスプレッソ・マシーン用に一括したカタログがあるわけではないので、本の情報を元に、グーグルEブックや、パブリック・ドメイン(版権切れ)のタイトルを集めたアーカイブや、それぞれの版元の情報から探さなくてはいけないので、ここにまず時間がかかるということらしい。(面倒くさいし、ちょっと研修が必要。)

そして、グーグルEブックスならまだしも、版権切れの本を誰かがスキャンしてそのままPDFファイルにしているようなタイトルは、指紋などのよごれや、落丁がないかを一応確かめているんですと。そしてこれは機械の問題とは別だけど、つないだパソコンのメモリー容量や、ネットへの回線によって、ダウンロードにも時間がかかったり。しかも、笑っちゃったのは、 背表紙を綴じる糊が一定温度でないとダメなので、朝イチに押しかけた場合はそれなりに糊の「あっため」時間もかかるし、ずっと回転して作り続けても糊がオーバーヒートするんだそうな。

エスプレッソ・マシーンが「1冊数分で仕上がる」と言っているのは、これらすべての条件が揃った時の数字で、実際はもっとモタモタ感があるわけですね。

糊が温まる間に、1冊のお値段は?みたいな話をしたけど、自費出版や版権切れの本の場合は、ページ数でチャージされる。どこかの版元のデータをダウンロードした場合は、ソフトカバー版とあまり変わらない値段で売ってくれるそう。この機械自体がいくらしたのか、後でサラに訊こうと思って忘れた。

さて、デモで見せてくれるタイトルが決まりました。これもグーグルEブックスから。グーグル本の場合、表紙は無地のスタンダードで、裏表紙にグーグルEブックスのロゴが入り、お店のロゴも入れられるようになっています。最初は表紙の印刷から。何てことはない、厚めの紙にカラープリンターで印刷。ここの部分はエプソン社製。

カバー部分がににーん、ににーん、と出てきたところで今度は反対側についたXerox製のプリンターでテキスト部分を印刷しまーす。これもカシャン、カシャン、とありがちなスピード。

そして、デイビッド君が「行くよーん、見てて〜」とスイッチを入れると、真ん中のエスプレッソ・マシーン製の部分で、製本が始まるわけです。まず、中身のテキスト部分をギュッと左右からプレスして、背表紙の部分が暖まったお風呂、じゃない、糊の入った受け皿に浸し、風呂から上がったところで右からジャケットがやってきて、左から中身がそこにつながり、まるでバルコニーで出会うロミオとジュリエット…ってのはウソ。

合体した本が更に下の部分で横になり、3方を裁断していきます。あら、けっこう大胆に切るわね。さすがアメリカ、こういうところが大雑把です。日本製だったら裁断部分は1センチ以下、ってな紙の使い方をするんではないでしょうか。

ということで、再びマシンの後ろ側に回ると、しばらくして、すとん、と本が落ちてくるのでした。ちょっとクライマックス感がないくらいなので、BGMでも欲しいところだが、こんなもんか。一丁上がり〜。

ということで、できあがり具合はカバー印刷に使うプリンターの性能次第だし、中身の文字部分のしあがりも、データの状態によるわけで、クォリティーがどうのこうの、という場合かなり幅がありますな。版元が許可しているデータだと、オリジナルと同じカバーが付くけれど、グーグルEブックだと、フランス風というか、均一的で面白くはない。ここに自分の好きな画像ファイルを取り込んでもらえばいいんだろうな。ってことは自費出版の場合、好きなようにできるわけだし。

ちなみに、自費出版の場合、自分でデータを用意して、一回きりの印刷だったら、セットアップが千円弱、印刷代がベース500円で1ページごとに2セント(=2円もかからない)、そこから30冊だと10%オフ、200冊以上だと25%オフ。ってことは200ページの小説を100部作ると、9万円を切るぐらい、30ページの詩集(白黒ならイラスト可)を50部刷ると3万円ってとこかな?

1回こっきりの印刷じゃなくて、データをセーブしてもらって、ちゃんと印刷できるかチェックしてもらったりすると50ドル追加、改定するごとに5ドル追加、マクナリー・ジャクソンでリクエストが入る度に売るようにすると、印刷代に加えて売上げの15%がお店の取り分(値段は自分で決められる)、お店にサンプルとして棚差ししてもらうこともできる。

とまぁ、こういう感じだけど、こういうのは既にオンラインでPOD自費出版をやってくれるところは他にもたくさんあるし、もっと安いところもあるかな? アマゾンやB&Nのサービスだと、彼らのオンライン書店で検索して出てくる、といううま味もあるしね。

でも、こんなんでマクナリー・ジャクソンが元手をとれるほど注文が来るのはまだ先の話だろうから、しばらくは客引きパンダですな。上野に来たのとおんなじ。

だって、版権切れの古典とか、ネットでタダで読める本をわざわざこんなに質を落としてまで紙で読みたい、って人もそんなにいないだろうし、まだまだ版元側がデータを供給しているところは、専門書や学術書ばっかりで、一般書じゃ、Shambala(自己啓蒙、宗教系のインプリント)とか、Faber and Faberの絶版もの(イギリスの老舗インプリントで古い本がたくさんある)とか?

しかもPODのサービスとしてはイングラム社のLightning Sourceがあるしね。今後、どういう展開がなされるのか、わかりません。

written by

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
Related Posts
  • Koda4423

    こんにちわ!神保町でEBMを導入した仕掛け人ですww
    日本でも客引きパンダですが、今回の震災を考えると、もっと早く導入(コンテンツの充実も)してれば、北海道で新刊が何週間も発売できないなどということもなかったのに・・・と
    思っています。
    電子ビューワーだけでなく、電子書籍ってのを考える一つのたたき台になればいいのかな?

© Copyright - Books and the City - All rights reserved.