書籍出版についてよく誤解されている12のこと


ひょんなことでたどり着いたブログ記事が、この業界の人の気持ちをドンピシャリ書いていたので、翻訳してみる。全部で12項目あるけれど、7〜9は日本とはシステムが違うから該当しないだろう。ライターのJ・E・フィッシュマンって聞いたことのない名前だったけれど、色々な業界に顔を突っ込んだ上、今はA Third Wayという新しい出版の形態を目指しているらしい。元記事はココ。(*の部分は補足説明。)

最近よく書籍出版の現状についてあれこれ書いている。考えてみればもう25年以上フォローしているわけだしね。

私が最初に出版業界に入ったのは、出版社がスポーツチームみたいにお金持ちがステータスとして所有したがるものではなくて、金儲けのビジネスとして経営されるべきだと人々が気づきだした頃だった。

ちょうど80年代の終わり頃、ネルソン・ダブルデイが家族経営の出版社をベルテルスマン(*ドイツのメディアコングロマリット)に4億7500万ドルで売って、そのお金でニューヨーク・メッツの株を買ったのと時期を同じくしている。

その後、編集アシストとしてダブルデイに入った頃で、ダブルデイの帳簿をチェックしていたベルテルスマンの会計士がナゾの巨額な領収書を見つけたという噂がまだ残っていた。噂によれば、百万ドルというお金がシェイ・スタジアム(*ニューヨーク・メッツの本拠地)のジャンボトロンの費用に流用されたらしい。

これが根も葉もない噂だったとしても、出版業界の台所が万事テケトーでけじめのないものだったことに変わりはない。そのせいで、その噂はかなりの信憑性を持って伝えられていたし、その上、ネルソンの旧友とやらが偉そうに廊下を闊歩し、その一人が自分のオフィスの壁に豪邸だろといわんばかりに自宅の写真を飾っていたことを覚えている。

大事なことは、その後出版業界に残った者にとって新しい規律の時代がやってきたということだ。バリバリ文系の者もP&L(損益決算書)を読めなくちゃいけなくなったし、なんと!営業畑の人まで時々編集会議に顔を出さなければならなくなった。

本気だということを知らしめるためにベルテルスマンのお偉いさんたちは、ほどなくしてダブルデイの(誰が見ても膨れあがっていた)刊行点数を半分に減らした。製造業のQC(品質管理)を導入して、昔ほどテケトーな作りの本を減らした。本の表紙デザインも良くなった。

隣の芝生はとっくに人工芝になってしまったのかも知れないが、今日の私は元編集者、元エージェント、元作家として、今また同じ業界で新しいゲーム(電子出版のこと)を試みているわけだ。

昨今の書籍出版はシナジーの砂漠となり、どこの大手出版社もメディアコングロマリットの一部と成りはて、最初に出版社をコングロマリットの傘下に入れた連中はどこかよそへ行ってしまった。

その裏で、変わることを余儀なくされた編集者、エージェント、読者、そして著者は、一体この先我々はどうなるのかと途方に暮れているわけだ。

私にだって確固たる未来がわかるわけではないが、それでも予想すると以下の12点が思い浮かぶ。

ま、クリスマスの時期にリストは付きものだし(*アメリカの子供たちはサンタや親に対し、欲しいプレゼントをリストアップするし、サンタはサンタで「今年良い子にしてた子」と「悪い子だった子」のリストを作ると言われている)あと5つくらいあるんだけど、最初は業界外からの視点で、よく単純化されすぎてたり、ひどい誤解をされている点をまず。

いくよん。

書籍出版についてよく誤解されている12のこと

①新刊本が全て
世の中、新しいものが注目されるのは自明の理で、新刊書はもちろん新しいから新刊本なわけだしね。そして編集者の評判はえてしていちばん最近なにを出したかで決めつけられやすい。でも出版社にとっての本当の資産とはバックリスト(既刊本)、つまり毎年毎年地道に部数が捌ける本だ。船を支える脚荷のように、ずっと利益をもたらしてくれる。だからこそ、既存の出版社をM&Aで買収しようとするわけっだし、同じ理由で新しい出版社がいくつかヒットを出しても長続きしなかったりする理由なんだ。

②大手より中小出版社の方が本を大事にしてくれる
文学がどうのこうのという連中の間では、本のことを第一に考えてくれるのが中小で、大手は儲けばっかり気にしている、というのが通説のようだ。だけど個人的な経験から言うと、大手出版社の編集部の人間だってみんな本好きだった。だからそこにいるんだし、それが本に関わる人たちの真髄ってものなんだから。そして出版社の規模にかかわりなく、本を出す人間なら誰しも、頭ではそんなのありえっこないとわかっていても次の本がミリオンセラーになればいいなと心では思っているものだ。問題は大手だと人件費も高くなっちゃうってこと。そして、大企業であればあるほど、社内のいざこざを納める手間暇もかかるんだ。本を愛していないわけじゃない。

③編集者は編集作業をしなくなった
とある大手で働いていた知り合いの編集から最近聞いた話だが、2日続けて自宅で編集作業をしてたら編集長から電話がかかってきたというんだ。その編集部にとって大事なプロジェクトである本の原稿の赤入れの追い込みをしていたと返事をしたら「とにかく会社へ来い。オマエは編集しすぎるからダメなんだ」って言われたんだって。

反対のことを言っているようにとられるかもしれないが、これは特殊なエピソードだと思ってもらっていい。だって、事実、その編集者はちゃんと編集をしてたんだから。

バーンズ&ノーブルでもご贔屓の本屋でもいいけど、適当に棚から本を抜いて謝辞を見てごらん。“良い本”にしてくれてありがとう、って担当編集者にお礼を言っている人がたくさんいるから。誰もそこに礼状を書けなんて強要していない。美味しいお昼おごってくれてありがとう、でも、印税いっぱいくれてありがとう、でも良かったハズなんだ。

④編集者は厳しいトレーニングを受ける
私が編集部を去ってから、大変革でも起こらない限り、編集者は誰しも「良書」についてその人なりの考え方を持っていて、それを形にする意志と能力を既に持っている。もちろん「編集」を教える学校もあるけど、そんなところを卒業しないとできません、と言われた編集者なんて聞いたことがない。ほとんどの場合、現場で覚えていくんだ。

⑤出版社は事実確認をする
コピーエディターは、地理的な位置を確認したり、という作業はするけれど、いちいちメモワールの原稿で著者が本当にその学校を出たかを電話確認する、なんてことまではしない。ノンフィクションの著者であれば、契約書で「間違いなく事実です」という一筆をとられているし、出版社側はそれを信用してきた。何度もそれで裏切られて痛い目にあったとしても、ね。

⑥ベストセラーリストにはいちばん売れた本が載っている
ベストセラーリストに載らなかった本が、載った本より実売数が上であることも多い。どうしてかって? ベストセラーリストは刊行時からの累計部数ではなくて、一定期間で勢いのあったタイトルを計るものだから。だから例えば1週間で1万部売れた本はNYタイムズのリストに載るけれど、3年間ずっと1ヶ月に1万冊売れているような本は載らないというわけ。

⑦アドバンス(印税の前払い金)が取り戻せない本は出版社側が赤字
これは普通に考えれば、そうなるだろうという話が、実際は本の売上げが、著者が支払われた印税の前払い金に追いつかなくても出版社側は損をしない。出版社側が決めた定価(*日本と違って本にディスカウントがあるので、希望小売価格というところ)の約半分が売上げとして出版社に支払われ、そこからどんなに多くても著者の取り分は30%(*こんな高印税率は、超売れっ子のハードカバーが大ヒットしてからに限られるけどね)だ。もし出版社側がコストを抑えることができれば、その残りの70%からアドバンス全額を差し引いても儲けが出るって仕組みだ。

⑧アドバンスの分に売上げが届かないと、次の本の契約をしてもらえない
わかっている編集長だったら、前作のアドバンスがどうのこうのというのはノイズでしかないとわかっている。次のタイトルの価値は、その本がどのぐらい売れそうかで全て決まる。もちろんその予想売上げ部数は、ぽしゃった前作の数字に影響されもするが、それは出版社側が誤算をしたわけで、著者の次の作品の評価を左右するものではない。

⑨アドバンスが多額だと、出版社側が一生懸命宣伝してくれる
もちろん、出版社側にもこれだけ支払ったんだから、宣伝も大々的にいやらなくちゃという気持ちもあるが、もし売り場での感触が期待はずれになりそうだとなったら、出版社もさっさとこれ以上損を出さないようにする。コアップなし。広告なし。電話キャンペーンなし。よくあること。(*このコアップについては長編ブログエントリーが書けそうなぐらいなので、今回は省略)

⑩作家は儲かる
目立っている有名人はもちろん羽振りが良い。だが原稿料に収入を頼っているほとんどの著者は貧乏というのが現実だ。残念ながら「作家」という肩書きはセレブなラベルでしかなく、そこには一握りの勝者と大多数の敗者がいるだけだ。それでも、お金持ちと言えるレベルの作家のトップの1%だって、ハリウッドのトップクリエイターの1%とは比較にならない。儲けようとして作家になるのは、雨に打たれようとして砂漠に出向くようなものさ。

⑪エージェントは「中の人」
もし本の市場が象の群れだったとしたら、書店員はその群れに踏みつぶされてて、書店営業の人たちが自分たちや他の人の顔から血をぬぐっている時に、出版社の人たちは脇に立ってて、上手くいったかなと期待してる、ってとこかな。ヒドイ例えですまないけど、この例えで言ったらエージェントなんてずっと遠くで、何が起こっているのか知ろうとして地面に耳をあてている、ぐらいの距離があるんじゃなかろうか。

⑫本の値段は紙のコストで決まる
本に限ったことじゃないが、本の値段はマーケット次第。コストで言えば、紙、印刷、製本はほんの一部に過ぎない。いちばんのコスト高は、本を作るのに必要とする高学歴で教養のある人件費。大手出版社がEブックの台頭を前にパニックになっているのもこれで説明できる。もしこれからのマーケットで30ドルのハードカバーがみな10ドルのEブックに取って代わられたら、紙、印刷、製本のコストがかからなくなっただけでは追いつかない。解決法のひとつとして人件費を削るとしたら、会社をバンガローレ(インド)に移すしかなくなる。さもなければ、スポーツチームに飽きた富豪を探すとか。(*誤解のないように言っておくと、アメリカの大手出版社の給料は、日本の大手と違ってかなーり低い。これ以上削れないくらい。)

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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