そもそも電子書籍も出版社の仕事だろ、ってな—Hey, publishers, E-books are books, too


今回の元ネタは、「講談社の「デジタル的利用許諾契約書」について」と題された10月24日付けの池田信夫blogエントリー。ツッコミどころが満載で、はてどこから突っ込んだものかと一瞬ボーゼンとさせられましたが、気を取り直してまいりまひょか。

まず、電子書籍に関する私の基本スタンスは、電子書籍だって「本」なんだから、基本的には紙の本を出した同じ出版社が率先して出すべき、というもの。特に大勢の著者を抱え、ハンパない刊行点数を手がける大手は、率先して電子版にも取り組み、印刷会社にやらせていた組版データをきちんと保管して、本を出してから契約書を送りつけるような悪習を改善し、ちゃんと著者と副次権について明確にするように、口を酸っぱくして言ってきたつもりだ。

個人的に、講談社の野間副社長が電子版や海外での事業にも積極的に取り組んできたのを見てきたこともあって、彼が公に自社の本2万点をデジタル化するぞと音頭をとるような宣言をしたことも、評価している。取次や書店や、色々としがらみも多い講談社だからなおさらだ。

今回、講談社が著者に宛てた契約書の第3条と第4条で、池田センセが最大の問題としているのが、これが「講談社がデジタル化権を著者から奪って独占すという規定」だからということらしいんだけど、全然問題ないじゃない。デジタル化権を「奪う」のではなく、デジタル化するときは我々が窓口となるから、勝手にやらないでね、ってことなんだから。

例えば、講談社がアマゾンなり、アゴラブックスなり、電子書籍を作ったり売ったりしているベンダーと交渉して、フォーマットや値段を決めようとしているときに、一方で著者がなんの断りもなくアップルとiPad版を相談してたりすると、ややこしいというか、ハッキリ言ってまずいだろ、それは。そういうこと。

著者側が、でも自分でやりたい、というのならこの契約書に同意しなければいいだけの話だし。でもその場合も微妙だな。例えば、張り切った著者がデジタル版には、紙の本にはない画像をいっぱい付けようとか、書き換えたかった部分を改正しちゃおう、と思った場合、その時点で紙の本とは別モノになるんじゃないの?って話もあるしね。(Photo by: Andy Coan)

他にも、「しかも講談社は、この本を電子出版すると約束していない」のを問題視しているようなのだが、これも電子版を出して採算がとれるかどうか、出版社が判断して何が悪いわけ? 紙の本の売れ行きをみたり、出すタイミングを見計らうのはあたりまえでしょ? 儲かりそうならやるだろうし、赤字になりそうだったらやらない。やってみて赤字だったとしてもそのコストを著者に請求するわけじゃないんだから、フェアでしょ。

次の問題は15%の印税率が「異常」に低いという池田センセなのだが、それも大いに疑問。 「印刷・製本などの工程がなく間接費の小さい電子書籍」なんだからもっと出せるだろう、俺たちゃ最大50%出してるぜ、という言い分なんだけど、出版社が紙の本を出す場合にかかるコストのうち、印刷・製本は実はたいしたこっちゃない。拙著ではアメリカでのコスト計算を風呂桶風の大雑把な数字でこんな風に紹介している。

1.著者とエージェント(いわゆる印税)            約10%

2.出版社(編集、製本、マーケティング)約50%

3.ディストリビューション(いわゆる取次業)            約10%

4.リテイラー(いわゆる書店)            約30%

2.の出版社の取り分のうち、印刷代・製本代にかかる費用はそのうちの20%、つまり全体の10%になる。

そして、アメリカでも基本的に新刊のEブックの印税は15%がデフォになりつつある。別にカルテルとかじゃないから。たまに名だたる文豪を抱える辣腕エージェント(=ワイリー)がゴネて、もっと高い印税率を勝ち取ったりしているけど、それは例外。紙の本でもベストセラー作家は10%以上もらってるし。

もう一つ、「出版するあてもないのに版権を囲い込むだけの契約を結ぶのは、著者を愚弄するものだ」っていうのも池田センセ、ひどいなぁ。デジタル化して出版しようという気があるからこそ、こういう契約書を送ってくるわけだし、まずは著作権を確保していることを確認しないと、交渉もできないでしょ。

まぁ、著者擁護の電子書籍理論にはそれなりの説得力はあるけれど、もう一つ、忘れてはならないのが読者。紙の本と電子書籍がバラバラに出ると、一番困っちゃうのが、その本を読みたいと思う側の人。欲しい本があったとして、紙の本しかないのか、そのうち電子書籍版が出るのか、出るとしたらいくらで買えるのか、どのフォーマット(ガジェット)がないと読めないのか…。そういう情報をきちんと読者側に伝えるのも出版社の役目でしょ。

重ねて私が、電子書籍は出版社がやるべきと考える理由に、電子書籍版は副次権ではないという考えだから、ってのもある。またまた専門的な話になっちゃうけど、普通に考えれば同じコンテンツであれば紙の本も買って、わざわざ電子書籍版も両方買う人はいない。電子書籍版の売上げは確実に紙の本の売上げを食う。従って、映画化権だの、ドラマ化権だのといった副次権に含まれず、いわゆる「プライマリー・ライツ」に含まれると解釈するのが正しいだろう。ということは、出版社が著者と「本を出します」という合意に達したのなら、本来は電子書籍権も出版社のオプションとなっていいはずなのだ。

更に、出版社が著者から原稿を受け取り、少しでも編集作業をした著作は既にその時点で著者と出版社の「合作」であり、著者だけが勝手に完成稿を他に持っていくのはずるいとも考えられないだろうか?

すもももももももものうち、紙の本も電子書籍も本のうち、ってことね。

池田センセのエントリーに対してはポット出版の人も疑問を呈している。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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  • Anonymous

    基本的に同意。ただし、この先のデジタル主体の時代に合わせて出版社もキッチリ構造改革できるというのが前提にあると思う。印刷会社とのしがらみその他既得権益への固執を見せ出すと、音楽業界でも起きているのと同質の問題が起きますよね。基本的に紙ではディストリビュートしない、と予想される近未来においては、現行の印税率は問題がある。そこら辺を透明化し、著者とのコミュニケーションを密にしていかないと、不信感が募るのも避けられないと思います。そこらへんは音楽業界を反面教師として、出版社には精進していただきたいですな。

  • Taka

    素人の私は池田先生の意見をもっともだと思っていたんですが、
    今回の記事を読んでみて、なんだか判らなくなりました。
    というのも、電子化されても、印税や契約など、あらゆる面で旧来と全然変わらんのじゃないか? 
    と思うからです。

    印刷や製本のコストがそれほど掛からないにせよ、
    無駄に刷った本を送り&送り返されて裁断するまでの、輸送費や人的コストなどはどのくらい掛かるのでしょう?
    そもそも紙じゃないのに、取次店などが必要でしょうか?
    また電子化により著者の取り分が、従来の10%からたった5%しか増えない理由がよく判りません。

    なぜもっとコストダウンをはかって著者に還元しようという動きにならないのでしょう。

    はっきり申し上げて、私は依然として、既得権益団体がなんとか自分らの食い扶持の保持に必死になっていて、
    その象徴として、講談社のくだんの話が持ち上がってような気がしてなりません。
    第一、自分でやりたいなら契約しなければいいと書かれていますが、そんなこと新人作家にはとても言えません。

    勿論、最初は電子化のためのインフラやソフト整備にお金は掛かるとは思いますが、
    それも償却されれば保守費用だけですみそうな気がします。
    流行なのか知りませんが、クラウドでもなんでも使ってやれば旧来よりはコストは低くすみますし。

    電子化で大事なのは、読者にとっての利益が高まるのと同時に、作家にも恩恵が与えられる点だと思います。
    つまりそれは業界の仕組みを変えるものでもあると期待していたのですが、
    どうやら、以前に電子書籍が失敗した頃となにも変わらない気がしてきました。

    不況になって急に若者の新卒問題が取り上げられたように、
    電子化問題も、Amazonの進出によって急に話題になったにしか過ぎないのではないでしょうか。
    つまり業界側には根本から変える気などさらさら無くて、単に時代の流れにより沿ってみただけだと。

    これでは現在のように、売れない無駄な本を大量に刷り続けて自らの首を絞め、同時に作家を育てることもなく、
    次々と新人を発掘して焼き畑農業みたいなビジネスを続けるだけだと思うのです。

  • yuzoy

    シバかれるの嫌なので、リンガーナの『電子書籍大国アメリカ』を購入いたしました。
    そこで確認させていただきたいのですが、上記のコスト計算のパーセンテージは、「印税は15%がデフォ」の部分も含めて、小売価格を100%としたものですよね?
    一方、ご著書のp.94に以下のような記述があります。

      そのエージェントが最近声高に叫んでいるのは、紙の本を出すときに出版社がEブックを作る追加コストはほとんどかからないのだから、Eブックの儲けは出版社と著者で折半、つまり50%ずつ分けるべきだ、というもの。

    こちらの「50%」はEブックの「儲け」に対するものなので、母数は小売価格ではなく卸価格から制作費等を引いた「粗利」のようにも読めます。

    ただ、p.161には「ワイリーの狙いはただ一つ、電子書籍の印税率を現行の25%から50%ぐらいまで引き上げる」ことと書かれているので、「50%」の母数はやはり小売価格?とも考えられます。
    果たしてどういう理解が正しいのでしょう? ご教示いただけたらありがたいです。

  • NetCat99

    所謂communication gapってのがあるみたいですね。
    彼が言いたいのは。
    >(著作者とって講談社と契約を結ぶ上での)最大の問題(として注意すべき点は)は、上の第3条と第4条の講談社がデジタル化
    >権を著者から奪って独占するという規定である。
    そして
    >契約書も見ないで「どこからでも電子版は出せます」などといい加減なことを書いている業界ライターもいるが、こんな契約を結ん
    >だら、著者はアマゾンからもアップルからも電子書籍を出せないし、講談社が出さないと埋もれたままになる。

    つまり著作者の皆さんにいい加減なこと言ってる人達について注意を喚起しつつ、自分のところに来てくれと言ってるわけだ (誤解を招きやすい書き方だが、お歳だから)。

    ちょっと厳しいなと思うところは「奪う」て言葉ですけど、日本語の場合感情に訴える言葉の使用について英語と違って規制がないんで、追求はしにくいですね。それに、私には「唯一の窓口として等出版社を利用しなければならない」も、「著者権を奪うも。」同じ所を意味するように聞こえます。 

    で、本文についでですが、商売としては仰る通りですし何の問題もない。
    ただ、私達の多くは「これから著作者の皆さんの立場が強くなるだろう。」と思ってます。ですから私のような人間には、ここで扱われている契約書は著、者者の立場が弱い今の内に、出版社が自分達に有利な契約を結ぶためのものに見える。
    これは読者や著作者の側から見たら、「出版社が自分達の利益を読者や著作者の利益より、いざと成れば優先出来るようにしている。」と深読みも出来るわけです。

    そして実は一部の読者は出版社に対して大層攻撃的なのです(憎んでいるのです。) 例としては:
    1) フォーラムやアマゾンのreviewで情報を集めるので、本のマーケッティングは、自分たちに利益が無い。
    2) 編集は作者の個性を殺して一般化させる作業だ、もっとヘタクソで個性的な文章が読みたい。。
    3) 出版社のマーケッティングが読者の消費行動を方向付けているせいで、個性がなくて一般受けする本ばかり売れるように成ったのが嫌だ。

    個人的には一般書籍は殆んど読まないので(漫画とライトノベルと技術書と勉強用の洋書に漬かってます)あまり強い感情は無いんですが、文字がないと生きてけないんで、本が安いに越したことはないし、いい本が多く出るように、本を書いている方の生活は楽になって欲しいとは思っています。 
    結果、「支払うお金の85%が出版社行き??!!!」となる訳です。

    感情的な問題なので難しいですが、誤解の芽を摘むには、(多少最初に敵に塩を送る事になっても、)公正な地盤でアマゾンなどと競争し、日本の出版社の役割が販売利益の85%を得るに値するものであると証明する必要があるでしょう。

  • Hajikaran

     紙の本の印税は、発行した本にかかる「発行印税」で、電子書籍ともなると、たぶん売れた本にかかる「売上印税」になるかと思います。なので印税10%と一口に申しましても、平均返本率が4割といわれる昨今、売れない作家たちは売上印税に換算いたしますと(単純に倍にして)20%は頂戴しているかと思います。
     電子書籍ともなれば、世間の風当たりも強くなり、紙の本にくらべ価格を下げることにもなりましょう。仮に紙の本の半分の価格で販売いたしますと、印税15%と申しましても、それは紙の本でいうところ半分、8%程度になります。
     つまり、紙の本から電子書籍に移行することによって、売れない作家らの印税は、20%から8%にまで落ちるわけです。

  • Anonymous

    売れていない本の印税ももらっていることになる紙の本のシステムがおかしいのであって、実売の8%ならそれでいいでしょ。

  • Anonymous

    売れていない本の印税ももらっていることになる紙の本のシステムがおかしいのであって、実売の8%ならそれでいいでしょ。

  • Anonymous

    売れていない本の印税ももらっていることになる紙の本のシステムがおかしいのであって、実売の8%ならそれでいいでしょ。

  • Anonymous

    売れていない本の印税ももらっていることになる紙の本のシステムがおかしいのであって、実売の8%ならそれでいいでしょ。

  • NetCat

    確かに実質収入が減るかも知れないのにその事実が警告されていないのは問題ですね。 
    ただ価格を下げるともっと沢山の人に読んで頂けることもあるので、単純に売上が半分に成るというのは乱暴ではないでしょうか?
    それに印契率を四倍の30%に設定すれば、売上の中で作者の取り分は2x8=16%になります。

    Hajikaranさんの仰ていることは、電子化というよりは、返本に絡む制度が無くなる事によって発生する事態のようですね。

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