バーンズ&ノーブルが身売りという誤報にビックリ—B&N considers alternative strategies, not selling itself
私のツイッターのフォロワーさんにも、私がフォローしている人にも出版業界関係者が多い。ここんとこ、ずっとアメリカの出版社相手に仕事してきたから、日本での同業者とのつながりが広がっていくのはありがたいことだと思っている。日々業界誌で目にしたり、編集者から聞いた話など、アメリカの出版業界関連のニュースをソース付きで流すようにしているうちにこうなった。今は「電子書籍」がバズワードだから、特にこっちのEブック関連のニュースはわかりやすく、日本のどのマスコミより速く正確に伝えているという自負はある。
3日夜、突然TLに全米最大手の書籍チェーン、バーンズ&ノーブルが「書店ビジネスから撤退する」「会社を売却する」などというニュースが驚きとともに流れてきて、こっちがビックラこく番になった。ニュースに驚いたのではなく、そんなビッグニュースが本当なら私が先に知らないわけないだろう、という自己チューな驚きだが。
アメリカで一番先に出たニュースソースはブルームバーグのようだ。私は株というヤツがキライで興味がないので、全く見ないが、それがLAタイムズやNYタイムズに取り上げられたときに見出しが「considers selling itself」となっていたからか、あるいは日本の人が最初に目にした第一報は朝日.comの「米の世界最大書店チェーン売却か 電子書籍台頭…株低迷」という見出しの記事のようだ。
さすがマスゴミ。キンドルだのアイパッドだの「黒船」(←もうこの言葉もいいかげん聞き飽きた)が押しよせて戦々恐々としているところにこの煽り方。うまいねぇ。これで記事がもう少し正確だったらねぇ。
ということで、バーンズ&ノーブルで今なにが起きているのか、少し歴史をたどって書いてみる。
バーンズ&ノーブルはレンとスティーブのリジオ兄弟が始めたビジネス。とはいっても、元々はバーンズって人とノーブルって人がやっていた本屋を買い取ったもの。Barnes & Nobleっていう綴り、日本人には覚えにくいのか、Barns & Nobelだったり、Burns & Novelだったり、よく間違えられているのを目にする。
ユニオンスクエアに面した瀟洒な本店に本社が移る前の、五番街18丁目の第1号店は今も健在で、バーンズ&ノーブルのルーツが伺える店構えだ。というのも、奥に行くと大学の教科書を売っているコーナーがあるから。そう、元々バーンズ&ノーブルって大学生相手の生協みたいな本屋さんから出発したんだよね。
留学したことのある人は知ってると思うけど、こっちの教科書の重さったらハンパない。漬け物石かよ、ぐらいの重量がある。というのも、改訂版が出るまで、学期が終わったらまた書店が買い取ってくれるし、何度も使い回しできるように頑丈に作られているから重いってわけ。従ってお値段も安くないから、学生も、きれいな古本から選んで買っていく。
すごく地味なビジネスだけど手堅く儲かる。今もオンラインと、大学キャンパスのそばにバーンズ&ノーブルの「キャンパスストア」という店があって、学生を相手にしている。みんながよく知る一般書ビジネスは、大学生相手に普通の本も置いていたのが、枝分かれしたってわけ。それが70〜80年代。
90年代に入ると、バーンズ&ノーブルは全国に店舗を増やして急成長。ショッピングセンターを中心に小規模店舗を展開していたB.ダルトンというチェーンを買収したりもした。そして時代をリードする「メガストア(英語ではスーパーストア)」を続々開店させる。それまでの本屋のイメージを覆す、めっちゃ広い床面積で、ゆったり座れるふかふかのソファーを置いて、立ち読み歓迎、スターバックスと組んで店内にカフェを作ったり。そして売れ筋のハードカバーの新刊を40%引き、という破格のディスカウントで売り出したのもバーンズ&ノーブル。
もちろん、これにはインディペンデントと呼ばれる中小書店から非難ゴーゴー。店員が本のこと何も知らないとか、はしたなくもテレビで本のコマーシャルを流すのはけしからんとか、本屋は食事する場所じゃないとか、ディスカウント攻勢で我々を一軒残らず潰そうとしているとか、言いたい放題。ま、気持ちはわからなくもない。レジオさんって、眼鏡をかけたヒョロい「本の虫」のイメージからはほど遠く、恰幅のいい体をイタリアンスーツに包み、ちょび髭に葉巻が似合いそうな、いかにもマフィアのおっさんって風体だから。
他の本屋だけでなく、出版社に対しても高圧的で、俺んとこがいちばんたくさん仕入れているんだから、もっといい条件で卸せ、なんてやっちゃったこともあるし。(これは独禁法にひっかかるとする訴訟に負けて撤回。)今だって、バーンズ&ノーブルからのバイヤーが来る日(大手のプレ販売会議というのに招待されちゃうのだ)はもうVIP待遇もんで出版社のスタッフ、大わらわなんだから。版権切れの古典を革装丁でB&Nから出版したときも、嫌われてたしなぁ。
でもね、本屋みたいな薄利多売の商売一筋で(店内でゲームソフト売ろうとしてゲーム店を買ったこともあったけど、結局売り飛ばした)頑張ってきたわけ。同じ大型店を展開するボーダーズが本拠地のミシガンからマンハッタンに進出するってんで店舗物件を探していたときは、すごいライバル意識燃やして「させるかぁ!」みたいなバトルもあったしね。でも結局ボーダーズがNY一号店としてパーク街57丁目という目抜き通りの店をオープンしたとき、お店を見るだけで悔しくて腹が立つからアッパーイーストにある自宅に帰るとき、ハイヤーの運ちゃんに迂回してマジソン街を上がってくれと頼んでいたとか。かわいいところもあったりして。
アマゾンをはじめとするオンライン書店が出てきたときも、何もしなかったわけじゃない。さっそくBN.comというオンラインビジネスも展開している。日本にはないから馴染みも薄いだろうけど、こっちのディスカウント率もすごくて、アマゾンと新刊を比較すると、BN.comの方がちょびっと安い、ってこともザラだった。さらにマンハッタンに点在する出版社相手のサービスとして、朝11時までにオンラインで注文した本の在庫が市内のどこかにある場合は夕方までにお届け、という超特急宅配サービスもあって、重宝されてた。レジオさん、これはアマゾンにもできない技だろう、ふっふっふ、とばかりに配達代で赤字出しながらもご満悦だったとか。
電子書籍の分野でだって、アマゾンに後れをとっているわけではない。日本にはキンドルしかないからわからないだろうけど、こっちではNook(どう考えても、発音はヌークじゃなくて、ヌックだと思うけどね、「ブック」とかけているわけだから。朝日さん。)も同じぐらい売れてて、私もケイト・スペードとのコラボで売られているヌックカバーが実は欲しいんだよね。
まぁ、レジオさんも自分がそろそろ頭の固い年寄りになりつつあるのは自覚しているようで、今は会長職に退いて、弟のスティーブも一歩譲って、ITに明るい若いCEOを雇ったばかり。だから「電子書籍に押されて店頭での販売が落ち込み」(朝日)ってのはそうかもしれないけど、押している電子書籍がNookでもあるわけで、なんか誤解を生む書きかただよなぁ、これって。
ま、売上げの方は2009年が前年比マイナス5%ぐらい? リーマン・ショック後のリテイラーなんてどこもボロボロなんだから、5%ぐらいですんだのはまだマシじゃないかな? 本だって生活必需品じゃないから、生活が苦しくなったら真っ先に削られる出費に入るだろうし。
ということで、問題の株価の件。そりゃ粗利が数%の書籍ビジネスなんて、投資先としては美味しくも何ともないから、そんなもんだろって。B&Nは既に組織を中央集権化してて、これ以上スリムにするところなんてなさそうだし。
なのに、去年の暮れだっけ? 急にB&N株を買い漁るヤツが現れた。ロン・バークルという御仁。いわゆる投資家で、元々スーパーマーケットのM&Aなんかで大儲け。クリントン夫妻とも仲が良く、アル・ゴアのエコTV局に出資したり、NHLのペンギンズを買ったり。ま、目立つことが好きなんでしょうな、金に飽かせてモデルを連れ歩いたりする白豚ヤロウ。(←悪意が出てますな。ま、イタ公マフィアよりさらに出版ビジネスを知らなさそう、ということを仄めかしたかったわけで。)
ロン・バークルがB&Nを牛耳って何をするつもりか知らないけど、いきなり株を買いあさるから、レジオさんたちはpoison pillというヤツを投入して(ゴメン、これがどういうことなのかよくわからないのでその辺はファイナンスに明るい方にお任せします)、阻止したのである。確かレジオ兄弟の持ち株が依然30%越えで筆頭株主。それで訴訟になったりで、色々と負担がかかったというのもありましょう。
で、今回、レジオ兄弟は、自分たちが納得できるビジネスプランで、株価が上がるような投資グループを入れて巻き返しを図ろうとした、ということ。 possible sale and other strategic alternativeを検討中、っていうレジオ会長の言葉からなんで 「会社の売却」とか「身売り」とかってなっちゃうの? 原文をよく読めば、納得できる投資家グループが見つかればレジオ会長はそこに参加する、って書いてあるじゃん。そこまで無理矢理センセーショナルにすることないのになぁ。
まぁ、これからの時代、メガストアも「店が広い」「セレクションが多い」ってだけじゃ、やっていけないから、売上げが落ち込んでいる店舗は閉じるだろうし、閉じた店は売却もするだろう。その分、ヌックの電子書籍とリアル店舗の両方を持っていることを活かした戦略を打ち出してくるはず。手始めに店内のヌックコーナーを広げているし、ヌックのソフトをアップグレードしてから、かなり使い勝手が良くなっている。
紙の本がこの先もなくならないのと同じように、バーンズ&ノーブルもなくなりゃーしないだろ。Changeあるのみ。
そういえば、レジオ会長って、昔NYタイムズが彼のことを取り上げたときに、記事に1点だけ間違いがあったのを、タイムズ紙のオーナーのザルツバーガーに直通でしつこいほど電話をかけて間違いを指摘、翌日の「お詫びと修正」に載っただけじゃ満足できずに、わざわざ自分でNYタイムズに全面広告を打って訂正したという逸話があるんだよね。朝日も毎日も日経も気をつけろ。変なこと書いたら私が翻訳してレジオおじさんに送っちゃうからな。あ、そうしたら広告打ってもらえるからいいのか。












