iPad狂想曲、アイパッドは出版界の救世主ではない—iPad won’t save the publishing industry

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iPad狂想曲、アイパッドは出版界の救世主ではない—iPad won’t save the publishing industryBooks and the City

とりあえず、iPadを買ってみた。こういう「流行りもの」や「祭り」はとにかくキライなので、なるべく速やかに、人目につかないように(笑)。自分の主義と反している、ということで発売日にのこのこ出かけていくのはかなり気恥ずかしかったんですが、これは「本」がらみのお話しなので、敢えてノッてみたのだ。

今回はiPhoneやiPodの発売時とは違い、かなり早くから予約ができて、宅配かお店での受け取りができるようになっていた。日本でも、早くからお店の前に並ぶ人達の様子が報道されていたようだが、ハッキリいってあんなことは全く必要なかったのだ。並ぶ方も話題になりたい、取材されたいギークな人たちばかりだった模様。

しかも列と言えるほどの列ができていたのは、マンハッタンの目抜き通り、五番街の店舗だけで、並んでいる人たちよりも取材陣の方が多かったんじゃなかろうか、という印象。私は家に程近い、いつも世話になっているソーホー店での受取り。9時からの開店で、11時頃にお店に近づくと、やば!あれは列なのか?と一瞬思ったら、入り口からストリートの角まで10人ほど並んでいて、並んでいるのは入口で予約組か当日組かで、印刷された長—いリストで名前をいちいちチェックしているから。

客が大勢おしよせた時のために待機していると思われるアップルストアの店員の方が人数多かったぐらい。で、後は店内でいつものようにレジに並ぶこともなく終了。あの白い袋を下げたところを見られたくない私はマイバッグ持参。この間、15分。なにコソコソやってんだ?

おうちに帰って、箱を開ける。MacBookや、iPodを買った時と同じぐらいのワクワク感はあるな。WiFiさえちゃんと届いていれば、操作のスピードはかなり早い。私は親指、あるいは人差し指だけでタイプするのが苦手で(両手使いのブラインドタッチなのだよ、フッフッフ。これはアメリカ人にも自慢できる。)一番の鬼門かなと思っていたキーボードも慣れれば、問題なさそう。

ということで、ハードやソフトがあーたらこーたらというのは、マックファンやテクノギークの方たちに任せて、ここからは純粋に書籍用端末としてどうなのか、という話。手持ちのキンドルとの比較が中心ということで。

ibooksメールやiTuneを一通りセットアップしたところで、ハッと気づく。あんなに「本が読める」デバイスとして売り込んでいたのに、iBookはアプリの一つでしかないではないか。まぁ、App Storeではスポットライト付きのトップで出てきたけど…これって、iTuneそのまんまのデザイン。明確に「本なんて、音楽や映画と同じ、娯楽のひとつ」に過ぎないことを突きつけられる感じ。

アプリをダウンロードすると、とりあえず本棚には『くまのプーさん』が既に鎮座している。ふむ、これは版権が切れているのをペンギン社が出しているバージョンをサンプルにする契約を結んだのかな。カラーイラストが入っていて、テキストもある、という点では理想的なサンプル。だけど、これが代表的ってのが、いかにもお子様向けのデバイスという印象だなぁ。キンドルの地味なグレーの画面と違って、真っ白なバックグランドなので、確かに「新品感」あり。

テキストの大きさは2種類だけ。しかし、フォントが何種類も選べるようになっているんだけど、これって必要かね? 素人目にはBaskervilleもPalatinoもそんなに違いはわかんないと思うんだけど。SerifとSans Serifの代表的なもの2つで十分という気もする。そっか、テキストの大きさが2種類に絞られる分、ページ表示がしやすい。キンドルだと、何ページ分の何ページ目、っていうのがわからなくて、全体の何%まで来ましたー、ってな表示になるから。

さすがグラフィックスのマック、ページをめくるのもそれっぽくなってる。キンドルだと反転しちゃうけど。テキストをダブルクリックすることで辞書機能、ブックマーク、検索ができるようになっている。キンドルはカーソルをぐいぐい下ろしてこなくちゃいけないから、これはやっぱりタッチパネル冥利。

ということでiBookストアに戻って、何がいくらで買えるかチェック。この辺の操作も全くiTunesと同じ。カテゴリーがあって、サンプルがあって、レビューがついてて…。なんだかんだ言って揉めていたけど、結局、画面下方に「Bestsellers $9.99 or less」なんてボタンもあったりして、アマゾンと値段的にはどっこいどっこい。

「クラシック」のカテゴリーに並んでいる本が数ドルしているので、あれ? グーテンベルク・プロジェクトはどこだ?(こっちは全部タダのはず)と探してしまった。探さないと行き着かないのはやっぱり、同じ古典でもお金出して買って欲しいからだろうな、と勘ぐったり。

ということで1日目の感想としては、そこそこ使えます。だけど、メールチェックしたり、ツイートしたり、はたまた他にも面白そうなアプリがこれから増えるわけで、誰もこれを「本を読むために」買ったりはしないだろうな。聞いた話だけど、アップルストアで並んで待っていた人たちの誰ひとりとして、本を読んで待っていた人はいないという話だから(笑)。

いくら出版不況のどん底で喘いでいるからって、iPadの登場で本がバカスカ売れるようになって、出版業界が立ち直る、なんてことを期待するのはさもしいぞよ。iPadで本に興味を持ってもらうには、もっとビジュアルなコンテンツを作っていかないといけないだろうし、紙の本だけを作ってきた人たちにはもう、ダサイものしか作れないだろうね。

これは本「も」読めるデバイスだけど、キンドルと違って本「を」読むため「だけ」のデバイスじゃないから。今んとこマルチタスクが効かないから、本を読み始めてもすぐに他の作業がしたいと思ったら、iBooksからみんな出てっちゃうし。iBooksで売れるとしたら、短時間でサクサクッと読めるもの、カラーイラストがあってこそ生きるコンテンツ、紙の本を買ってもらうためのサンプル、後は紙の本では実現できないプラスアルファを考えていった方がいいな。

でも、iPadにかまけてキンドル版を怠ったら、本好きの人たちを裏切ることになると思う。新しい読者を獲得するのがiPad、紙でも何でもとにかく読書が好きな人をキンドルで捕まえておくってのが基本姿勢で、出版社も積極的に取り組んでいくのがよかろう。キンドルやiPadを黒船として恐がるのではなく、目の前に差し出された蜘蛛の糸として、がっちり掴めるか?に出版界の命運がかかっている気がする。

written by Lingual

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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