「ゴースト・ライター」のウソほんと、人質拷問・戦争犯罪のウソほんと—Truths and Fiction about being a ghostwriter
この週末はローマン・ポランスキー監督の映画THE GHOST WRITERを観てきた。2月に行われたベルリン国際映画祭ではこの映画、銀熊賞という監督賞をとったものの、プレミアの際の観客の反応はイマイチだったらしい。そして私の感想もやっぱりイマイチ。
ポランスキー監督といえば、32年前に13歳の少女とセックスをしたカドでアメリカ国内で有罪になり、その後はずっと逃げてヨーロッパで暮らしながら映画を撮り続けている。当の少女だった女性は既に彼を許すと公言しているものの、米当局はしつこく彼に服役させようとしている。要するに、性に対して鷹揚なヨーロッパの文化人が気に入らないというわけだ。
そのポランスキーが去年スイスで行われた映画祭で賞をもらいに出向いていったところ、逮捕されてアメリカに引き渡すかどうか判断するため、しばらくチューリッヒに留置されていた。「ゴースト・ライター」の仕上げは軟禁状態の中で行われたとか。
The Ghost Writer: A Novel(原作)そのため映画の舞台はボストン郊外の避暑地マーサズ・ヴィンヤード島に設定されているにも関わらず、ロケはドイツで行われたらしい。見た目はまったく冬のニューイングランド地方という感じが出ていたので違和感なかったけど。
映画としてのできはさておき、政治家のメモワールにまつわる殺人ミステリーというテーマだったので、どのぐらいアメリカの出版業界の実情が反映されているか、なにか内輪なジョークでもあるかと期待していたので、スリラーとしてつまらないものの、ディテールはけっこう楽しませてもらった。
まず、冒頭で、変死したゴーストライターに代わってユアン・マクレガーが選ばれることになるのだが、エージェントの紹介で出版社に面接に行くものの、担当編集者にお前にはムリだと耳打ちされる場面。「ランダムハウスじゃあるまいし」というユアン君に思わずクスリ。
件のメモワールにアドバンス(印税の前払い金)が$10ミリオン支払われたと聞いてまたニヤリ。これはビル・クリントンに支払われたとされるアドバンスの額と一致しているからだ。そしてメモワールを出す出版社の社長がマフィアの親分風ジム・ベルーシで、「ちゃっちゃと書いて、ガンガン宣伝して、どんどん売る」という調子の良いエージェントの売り込みに納得しちゃうところも笑える。出版社の名前からしてハーパーコリンズのヒネリかなぁ? だとしたら、このマフィア風の男はルパート・マードック? 政治家のメモワールの商談には、エージェントに加えて弁護士も出席しているところも現実味ありで、ひとりでウンウンとうなずいてしまった。
そんなこんなで仕事を引き受けることになったユアン君が、ドサクサに紛れてまったく別のゲラを渡され「時間があったらこっちも直せないか見といて」って言われてウンザリしている場面も、ありがちな風景。でも、プロのライターなら、わざわざ一番最後のページを見てページ数を確かめなくても、その分厚さなら600〜700ページはあるって、すぐにわかると思うけどね。
そんなこんなで、ピアス・ブロスナン演じる元イギリス首相、アダム・ラングの別荘にやってきたユアン君。途中で何度も寝ちゃいながらも前任者が書きためた原稿を一通り読んで、あまりのひどさに頭を抱えて「あ゛〜っ!」と声にならない雄叫びをあげている場面が秀逸。だって第1章の冒頭から「“ラング”というのはスコットランド出身の苗字で、私の先祖は….」ってのがだらだらと延々と続くんだもんね。でもこれがおかしいのは、実際にビル・クリントンのメモワール『マイ・ライフ』を読んだ人ならでは、かもしれない。だって、クリントンのメモワールも実際最初の100ページぐらい、延々とつまんねーアラバマの親戚の話から始まるんだもん。映画の最後のシーンで印刷されて出来上がってくるメモワールのタイトルも「マイ・ライフ」になってるし。
アダム・ラングは、イラク戦争が始まった頃の若い首相という設定で、トニー・ブレアそのまんま。(ちなみに、トニー・ブレア、今秋にも自分のメモワールを出すそうです。しかもランダムハウスからw)顔はいいけど、頭は空っぽ、奥さんのほうが出来るヤツ、という設定はレーガンとか、息子ブッシュそのまんま。
これ以上映画について語るとネタバレになるのでやめておくが、推理小説といえば、最後で犯人が明かされて「えっ?どうしてそうなるの?」と最初からまた読み返さなければならない私でさえ、筋書きが読めたぐらいなので、大きなどんでん返しは期待できないけれど、ヨーロッパ風というか、決定的な証拠は見せずに、観た者の解釈に任せる設定はそれなりに上手いと思う。
ところで、先日誘われて顔を出した業界のパーティーで、ほんとうに「今、ゴーストライターやってるんだー」というイギリス人としばし話をした。依頼主の名前は教えてくれなかったけど、ビジネス界の重鎮で、話は面白いんだけど、文才はないし、自分で書きとめる時間もないから、人を雇ってメモワールを出すんだと。
で、ゴーストライターとしてではなく、共著者としてクレジットはもらえないのか?と訊いたら「うん、その人、昔、業界紙でゴーストライター雇って自伝を書かせている人をバカにする発言をしたことがあるらしくて、今さら自分も同じことしてるとは言えないから、僕の名前は出せないんだよ」とのこと。はは。ゴーストライター稼業も辛そうだけど、彼の場合、そのギャラでしのいで、今度はちゃんと自分の小説を出すそうだから、グッドラック、ということで。
そしてこの映画に関するもうひとつの言い分。イラク戦争については、ブッシュ/チェイニー政権はサダム・フセインが大量虐殺兵器を持っているというウソの証拠を米議会と国民に突きつけ、退役軍人であるコリン・パウエル国務長官に国連でウソをつかせ、マスコミに自分たちの息のかかった退役軍人をコンサルとして潜り込ませ、イラク戦争を開戦したのは周知の事実となっている。
問題は、彼らが今後その罪を公の場で問われる機会があるかどうかだ。穏健・温情を謳うオバマ政権にはあまり期待できないが、いずれは国際舞台で戦争犯罪として告発されるべきだと思っている。このままチェイニーに心臓発作なんかで死なれてはたまらない。ブッシュにのうのうと隠遁生活を送らせるわけにはいかない。だから、できればイラク開戦問題はエンタメの材料にして欲しくなかった。ハリウッドではなく、米の良心あるジャーナリストに調査を続けて欲しかった、というのが私の本心だ。映画の中で「war criminal(戦犯)」という言葉が出てくる度に、それを投げつけられるべきはジョージ・ブッシュ、ディック・チェイニー、ポール・ウルフォウィッツ、ドナルド・ラムズフェルドらではないのか、と。
彼らの犯した罪と比べると、30年前の情事でいまだに悪人扱いされているポランスキーは腹に据えかねるものがあるのだろう。今回CIAを悪者に仕立てた映画で鬱憤を晴らしていると思うのは私だけだろうか。










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