NYタイムズが有料化するってニュースなの?—When the inevitable and known fact becomes a news item


火のないところに煙がモクモク、といういい例である。というより、チロチロの炭火にいきなり大騒ぎというべきか。日曜日になぜか日本の複数のマスコミ(サイト)で、「NYタイムズ有料化!」というニュースを見かけた。しかも、絶対失敗するとか、成功するのか?みたいなくくりで。

何をそんなに騒いでいるのかと思って、元記事をたどると、ニューヨーク誌のちいちゃいコラムだった。しかも原文を読むと情報源は「事情に詳しい内部の人」と要するに匿名で「appears close to ~(近々〜しそうだ)」とか、「could be(という可能性がある)」とか、「perhaps as soon as~(おそらく近いうちに)」というあやふやな言葉のオンパレードで、確定していることは何も書いてないのだった。

NYタイムズは以前、オンライン版で課金制度を既に試みているし、今も既に一部有料だし、今後も課金すると言っても一部は無料で閲覧できるので、どうしてこれがニュースになるのかわからない。

日本のマスコミも慌てて転載する前にもう少しバックグランド調査したらどうなのかなぁ? しかもリーマンショック以後のアメリカの新聞・雑誌業界がどうなったかを知っていれば、驚きもしないような事でしょ?

しかも絶対失敗する、などとわかった風なコメントも付いてたりして。でも、何をもって「失敗」って判断するんだろう? そりゃ有料化したとたんアクセス数は激減するだろうけど、それでも購読する人がいれば、今までタダだったものからお金が入ってくるんだし。

アンケートでは80%の人が「課金したら読まない」と答えているというのだけど、これだって普段NYタイムズを読んでいる人が答えているわけじゃないしね。

私だったら? 最近は、サンデータイムズ以外はオンラインで、だけどずっと欠かさず読んでいる一読者としては、課金するのならそれもオッケー、というところかな? もちろん納得のいく額であることが望ましいし、コンテンツのクォリティーは下げて欲しくない。NYタイムズが抱えている赤字を考えたら、少しでも事態が好転するように上手に課金してくれ、と願うばかり。

新聞に載っている情報ぐらい、他に無料でいくらでもある、という意見も多いけど、そこはやっぱり「腐ってもタイムズ」ってところがあって、コンテンツの「質」を考えると、他の新聞じゃダメなのね。NYの場合、タブロイド紙といって、NYデイリー・ニュースやNYポストという日刊紙もあるけど、これは日本のスポーツ新聞に毛が生えたぐらいの内容。ハードニュースはダメ。NYポストに至っては、フォックスTVとオーナーが同じだから、内容もガチガチの保守で、読むに耐えない。他にも無料で配られるメトロやAMニューヨークという新聞もあるけど、タダだからもらっとく、ぐらいの代物。ローカルネタに、AP通信の記事を借用してあるだけ。

NYタイムズじゃないとダメなもの、が明確に示せる限り、有料化で生き延びるのは不可能じゃない。たとえば、私みたいな書籍出版業界の人間にとって、ミチコ・カクタニの書評が読めない世界はもはや考えられない。この業界の番付記者、モトコ・リッチだって、他紙で不動産業界をカバーしていた頃から知っているから、彼女の成長ぶりも見守ってきたし。友達とコラムニストのモーリーン・ダウドの発言をバカにするのが習慣になってるし。

無名のブロガーじゃなくて、競争の激しいメディア界でしのぎを削って署名記事を書いてきた馴染みのエリート記者たちの文章だから読みたい、お金を払ってでも。だから、そこには「信用」という名の情報の質の問題があるんだな。他で読んだことは「ほんとかよ?」って疑ったりもするけど、タイムズが書くと「それも一理あるな」と納得する。

課金方法もよく考えて欲しい。私はメーター制度ではなく、一年間の定期購読料金として、一定料金を払う方がいいな。どのぐらい読んだら次から有料、なんて考えずにどんどん読みたいから。タイムズだったらどうせ毎日アクセスするのだから、毎月引き落としがあるよりも、年間で一気に落としてもらった方がラク。

まぁ、日本の新聞社も先細りする購読者をどう食い止めるかと必死だからNYタイムズの動向が逐一気になるのはわかるんだけど、だったらまず、ちゃんとニュースのニュース性を認識できない無能な記者をクビにするところから始めたら?

アップデート:ざわつき始めた一部マスコミに対し、NYタイムズは重い腰をあげてアーサー・スルツバーガー会長が声明発表。課金制度は早くても来年になってから。独自のメーター制を検討中。やっぱり驚くほどのニュースじゃないと思うけどなぁ。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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