見て見ぬ振りの陰のビジネス、リメインダーとは?—Remaindered books are like discreet mistresses?

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見て見ぬ振りの陰のビジネス、リメインダーとは?—Remaindered books are like discreet mistresses?Books and the City

この業界の基本姿勢はひっそりとがモットー。よくできた愛人のように、あくまでも表に出ることはせず、どんな本が回ってこようとも文句は言わず、だけど出版業界の隙間をきっちり埋めて手堅く儲け、裁断の運命から本を救うエコな一面も持ち合わせ、新刊業界にデフレスパイラルを起こすこともなくしなやかに存在している。だからこのコラムを読んだ後も、再ツイートするなどというヤボなことはおいといて、「こういう世界があるのか」と心の隅にそっと仕舞っておいて欲しい…なんてね。

バーンズ&ノーブルやアマゾンといったオンライン書店でも、Bargain Booksと銘打ったコーナーがあって、定価が30ドル近いようなハードカバーの本が5ドルぐらいだったり、分厚い写真集や料理本が10ドル以下だったりするのがわかる。この本に裏事情の吹き出しがついていたとしたら、こんな感じだろう。「出版社側の思惑が外れてゼンゼン売れませんでした」「ベストセラーだったんだけど、ピークを見誤って刷りすぎちゃいました」「ペーパーバックが出たからもうハードカバーは動かないの」「トレンドに乗っかろうとしたんだけど、結局間に合わなくって」「卸し先の書店がつぶれちゃったもんで」「傷みすぎて返本不可」等々。つまりはワケあり商品なのだ。書店側ではこういう安い本で客を呼び寄せるため、バーゲン本じゃなくて、プロモーショナル本と呼ばれることもある。メチャ安の本があったから、ついでにもっと買うことを期待しているのだ。(最近値下げバトルになった9ドル本もこういう期待があって赤字覚悟で安売りしているのだ。)

再販制のある日本ではリメインダービジネスが可能なのか不可能なのかはよくわからないが、平均返本率40%と聞いたり、東京ブックフェアがビジネスの場ではなくディスカウント目当ての一般客が多いのを目の当たりにすると、検討する余地があるのでは?と思う。こっちではとりあえず、版元が在庫を減らしたり、ちょっとキャッシュフローが必要になったときの対応策としてリメインダーがある。

さらにふたつ、リメインダーが生まれる背景を指摘しておこう。こっちの書店は返本する場合、取次なり、版元なりに送り返す郵送費は書店側の負担であること、返本率が高いとブラックリスト入りするというか、本を卸した側にその記録がきっちり残ること、がある。書店の側からもリメインダーが生まれているのだ。だから、リメインダーになりやすい本は「重たくて送り返すとお金がかかる本」「返本するよりはディスカウントしてでも処分しちゃった方がいい本」ということになる。反対にリメインダーになりにくい本は、マスマーケット・ペーパーバックで、これを返本する場合、表紙だけを切って送り返せばお金を返してもらえるシステムになっている。後の裁断は書店の方でやってください、というわけだ。

昨年9月のリーマン・ショック以来、不況の波はアメリカのマスコミ界を直撃し、書籍も当然のように新刊本が売れなくなってきた状況があるので、それは即ち、今後リメインダーとなる本が増えることを意味する。反対に、今どこの出版社も新刊タイトル数を絞っているが、そうすると数年後にはリメインダー市場にもその影響が現れるだろう。

新刊本の企画からマーケティングまで、書籍業界の中心地はニューヨークだが、リメインダーはいきなりアーカンソーだのテネシーだのド田舎の倉庫が舞台となる。例外的に五番街230番地にAmerican Book Companyのショールームがあって、海外から買い付けにくる人に対応している。他には、毎年11月にシカゴで行われるCIROBEという、リメインダー業界のブックフェアが一番大きいかな?

pallets私もリメインダー業界の人に聞くまで知らなかった独特の言葉もあり、こういうところで取引される本は、skidだのpalletだのといった耳慣れない単位で取引される。(ちなみに、バフェットさんの本が乗っている板が1枚のパレットです。)これはフォークリフトで持ち上げるための組み板のことで、冊数にすると1000冊ぐらい、それを1冊に換算すると10セントから高くても1ドルぐらいの値段で取引する。だから、送料がいくらになるかで明暗が分かれたりする。(photo by: J Brew)

大手書店のバイヤーも買い付けにくるし、過剰在庫を抱えた版元も売りに出している。あくまでも、ひっそりと。こういう本が再び返本として送り返されてこないように、リメインダーにはよくマークが付けられている。一般的なのは背表紙に近い底の部分にマーカーでチョン、と線が入っているパターン。見たことある人も多いのでは? あまり国内で大々的にできない商売のため、ヨーロッパを中心に海外からのバイヤーは歓迎される。こういうシステムをうまく利用すれば、英語教材になりそうな本を安ーく仕入れて日本でも洋書がもう少し手軽に買えるビジネスができそうなものなのに、日本のバイヤーがリメインダーを積極的に漁っている、って話は聞いたことがないんだなー。ひっそりしすぎているだけなのか? それとも大手出版社がブックオフに出資しているのはリメインダー目的?

書店としては、古書ではないけど、客寄せのバーゲン品としてリメインダーを使っている場合が多い。安いが買い切りのリメインダーを店に置く場合には注意が必要だ。とりあえず「終わってる」本が多いので、たくさん並べすぎるとしょぼい棚ができてしまうから。あるいはリメインダーである点を前面に押し出して、商売する手もある。Remaindered booksで検索するといくらでもオンラインのリメインダー屋さんが出てくる。

アメリカのリメインダー業界のもっぱらの噂は、大手チェーン2位のボーダーズがヤバいらしい、というニュースだ。で、ボーダーズがつぶれたら大量の在庫がリメインダーに流れてくるだろうね、ホクホク、という怖い話。さすが愛人、したたかなのだ。

written by Lingual

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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