トルコ代表の現代作家、オルハン・パムクはニューヨークでもかなりの人気者—Orhan Pamuk in New York


その国で唯一海外で知られている作家、ということで日本の代表が村上春樹なら、トルコはオルハン・パムクで決まり。個人的にも『わたしの名は「紅」』や『雪』はすごーく好きな作品。日本の版元は藤原書店か、しぶいな。1冊4000円近いってのもすごい。でも、できればもう少し手軽な文庫本やソフトカバーでも読めたらいいのにな。じゃないと新しい読者が増えにくくなっちゃうから。

新作が英訳されたということで、精力的にアメリカで著者ツアーをしているパムクさん。私の図書館(ユニオンスクエアのバーンズ&ノーブル)にも登場です。バーンズ&ノーブルは今秋から店内でも無料WiFiサービスを始めたので、早々に店内に席を確保して、ツイッターや仕事の合間にマックで仕事がてらにメモを取れるので、重宝してます。

日本で作家を目指す人にも、英語は必須だと思う。自分の作品が(英語圏だけではなく)世界に広がって、そこで読者と直接語り合うにも、既に英語ができないと身動きが取れない時代になっちゃったってこと。AKB48みたいなおバカアイドルでも、英語さえできれば、海外進出の道が開けるわけです。アメリカ人にゴマをするというわけではなく、世界言語として、もう英語がスタンダードになっているのは否めない。かつてエスペラント語なんてのもあったけど、あれはどうなったのかな?

pamukそのオルハン・パムクさん。なんだか親しみやすい大学のセンセ、って感じの人でした。そりゃそうだ。コロンビア大学で教鞭とってるんだから。「新刊のTHE MUSEUM OF THE INNOCENCE『無垢なる者の美術館』、これは私の恋愛小説です。歴史小説を書く時は歴史小説を読みあさり、政治小説を書く時政治小説を読みまくるのが私のやり方ですが、今回は恋愛小説です。当然のように恋愛小説を読みまくりました。俗っぽいものも含めて」と切り出したパムクさん、『雪』を発表した後のように政治的な騒動も一段落して落ち着いたように見えました。(90年代にクルド人の参政権運動を養護するエッセイを発表してトルコで非難轟々だったことがある。)

「THE MUSEUM OF THE INNOCENCEは、70年代のイスタンブールにおける裕福なトルコ人男性の恋の話であるが、恋愛をする過程において彼に何が起こるかは、国境や時代を超え、一人の人間として特に美しくもなく、突出したものでないことは自明であろう。」

恋愛中の体の痛みを描写した部分を朗読したパムクは、ロラン・バルト、プルースト、マルケスらも取り組んだ「恋愛」というテーマについて、それを至高の物としてではなく、交通事故の後のようには不快な部分を孕んだ物として描きたかったようである。

「自分の小説を説明しすぎちゃってるかな? でも好きなんだよね、こういう話するのがさぁ」と言って会場の笑いを誘っておりました。

恋しい人妻フィスンの影をいつも見てしまう主人公。彼女を銀幕のスターにするべく、トルコ唯一の映画村でのエピソードを朗読。今ではすっかりなくなってしまったけれど、一昔前までのイスタンブールの映画館は、途中にインターミッションをとるのが普通で、映画館には緑の生い茂る中庭が常設されていたんだとか。いいなぁ、それ。

一通り、朗読した後は、読者からの質問コーナー。

Q: 一時期ひどかったトルコでの政治的批判は今どうなっているでしょうか?

恋愛小説を書いている間は、世間の批判は気になりませんでした。この本を書くのにも10年かけているので、世間のノイズで気が散る、ということはありませんでした。

Q: シンメトリーとドッペルギャンガー、バランスなど、アナタの小説は構造を大切にしている印象を受けますが?

確かに、音楽的要素など、構造には気を使います。何度もリライトして全体の形を整えます。絵画を描く時の技術と似ているかもしれません。

Q: トルコ文化と関係ない小説を書く予定は?

最近はNYのコロンビア大学の客員教授をしたので、そのときの同僚に訊かれたりもするのですが、アメリカを舞台にするとか、キャンパス小説の類いは書かないでしょう。

Q: プロットは最初からかなり精密に構築しますか?

他の作家と違って、割と先までプロットや各章の組み立てを考えてから書く方です。でもどんなにそれをやっても最初の計画通りということはありません。ディテールは書きながら埋めていくものですから。サプライズもあるけど、私はそれに「神が降りる」ような体験はなく、自意識的に組み立てていく方です。インスピレーションやひらめきと、計画性の折り合いはかなり意識的にやっています。

Q: 子供時代が懐かしいですか?

その時代に戻りたいわけではなく、子供の頃から脈々と続く自己の記憶について書くのが好きなのです。過去をみつめることで今の自分に正直になれるからです。記憶はどうしても甘くなる。それに誘惑されているわけではなく、記憶の中で過去が本物になっていくのです。ノスタルジアというのは現在からの逃避ですが、私のはノスタルジアではありません。

written by

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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  • Hannah Wisemann

    Do you have any site in English? Talk about Pamuk, I bet you have already heard that he is now an item with Kiran Desai.

  • Lingual

    Yes, talk about THE literary couple.

    Sorry, I have very few English entries, mostly crazy rants about gaijin.

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