再提出されたグーグル・プリントの和解案で日本は落ちこぼれに—Japanese authors adrift after missing the Google Print boat

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再提出されたグーグル・プリントの和解案で日本は落ちこぼれに—Japanese authors adrift after missing the Google Print boatBooks and the City

先週の金曜日にニューヨークの連邦地方裁判所に再提出されたグーグル・プリントの和解案をざっと読んでみた。懐かしいな、この感覚。Pursuant to individual rights holdersとか、Notwithstanding for the foregoing provisionsとか、Unless otherwise agreed byなんて普段の会話で使わない文体がてんこ盛り。大学で「マスコミと法律」という地獄のセミナーで米最高裁の判決文を死ぬほど読まされた時以来の感覚。法律用語がちりばめられた判決文にも一定のリズムみたいなのがあって、慣れてくるとスラスラと頭に入ってくる瞬間があるのだ。それが持続するとけっこうなハイになっていて、周りの雑音(半分ぐらいカフェで読んでいたので)が全く聞こえなくなるから不思議。

で、その感想。

これを歓迎しないユーザーがいるだろうか? 思いつく限りの本や刊行物を検索することができるようになるのだ。オンラインで全文が読めなかったとしても、どこの図書館で見つかるのか、どこのサイトにいけば手に入るのかがわかるのだから、こんなに便利なことはない。そして全文読みたければオンラインで自動支払い、コピーの手間さえいらずに入手できるのだから。

これで得をしない著者がいるだろうか? 自著が絶版になっていたとしても、「在庫なし、増刷予定なし」で宙ぶらりんになっていたとしても、グーグルがデジタル化してくれて、世界のどこからでも閲覧できるようにしてくれて、しかも版権を持っている人を捜して、全文を載せたいか、一部抜粋だけにするか、著書に関する情報だけにするかを決めてオンラインのレジストリーに伝えれば、売上げの70%からデジタル化の手間賃(7%)を引かれた残りのお金を受け取れるようになるのだから。そのためにグーグルは6750万ドル出すって言うんだから。たとえ消息不明の著者、と判断されても5年間はお金をとっておいてくれるんだから。

日本の著者団体がどういう理由でこれに反対していたのかが、今もって私にはわからない。色々読んでみたんだけど、どれ一つ納得できる説得力があるものがなかった気がする。オプトアウトが不公平だ? これでますます英語になった/で書かれた情報が氾濫し、日本語の書物が取り残されていくだけなのに。

またペリーの黒船が来たよ、って騒いでいる沖の人になっちゃうけど、日本の出版業界の皆さん、キンドルやnookを手に取って喜んでいる場合じゃないよ。書籍のデジタル化、ってこういうことなんだ。パソコンひとつあれば、世界の図書館を瞬時に検索できるってことなんだ。ケータイ小説を紙に印刷して「わーい、ベストセラーになったぁ」って喜んでいるようじゃ時代に逆行しているでしょ。出版文化を守る、とか息巻いて黄ばんだ本を抱えて一緒に心中するつもり?

もうひとつ、グーグル・プリントのこの事業に震え上がっている一般書籍の出版社の言い分がわからない。だって、グーグルのこのプロジェクトは主に図書館に眠っている絶版の本や、もう手に入りにくい専門書にとって画期的な計画だけど、すぐに刊行になったばかりの新刊書を脅かすものではないのに。例えば、『1Q84』みたいなベストセラーがすぐさまスキャンされて、誰も本を買わなくなる、というケースは現実味がないってことがわからないのかな?

じゃ、どうしろっつーの? と突っ込まれそうなので、考えてみた。とりあえず大手出版社が共同で鳩山政権に働きかけて国会図書館のデータをベースに日本でもレジストリーをつくって、版権保持者を追いかけ、情報が集まったところで、直接グーグルとネゴシエーションする。これだけの著作があって、権利保持者の連絡先は管理するから、そっちでデジタル化しろってね。ユーザーインターフェースも英語じゃなきゃ検索できない、ってことにならないように、ローカライゼーションを監督する。アニメ・マンガの殿堂を立てるような予算があったんだから、その分をまわせばいいでしょ?

私がこうやって金曜日に下りたばかりの判決文を読めるのもひとえにデジタル化された公文書をさくっとGoogle Settlement、24時間以内、という条件で検索することができるからだ。ちなみにScribdというサイトです。しかもこれ、最終決定の前の書類だからawaiting court approvalという但し書き付き。こういうサービスがなかったら、裁判所に直接出向いていったとしても、判決文の全文コピーなんて手に入らないだろう。その辺の図書館に行っても、まだそんなものはないと一蹴されるだろう。金曜日深夜に下りた判決文を土、日で読んで、NY時間の日曜日夕方にこのコラムをアップしている。これがスゴくなくてなんなの?

written by Lingual

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
  • Satoshi Iwamoto

    これがスゴくなくてなんなの?……と言われれば、確かに「すごい!」です。が、テレビもない時代に生まれた私には、「すごいけど、なんなの? それで人間は以前よりほんとうに幸せになっているのか?」と思ってしまいます。
    それはさておき、ご指摘の「国会図書館の蔵書をベースにしたJapan Book Serchの構想」は、なんとか動き出しています。もちろんアニメ・漫画の殿堂などとは無関係で、規模も異なる予算の元に、です。今後も紆余曲折あるでしょうが、遅まきながら、日本も動き始めています。
    Googleの与えてくれたインパクトは、日本の出版界に少なからず「近代化」を迫るものでしたが、そのGoogleの提供しようとするサービスの建前は素晴らしくとも、その手段はおそまつなものでした。
    その辺の実態は、週刊プレイボーイが7回にわたって連載した明石昇二郎氏のルポ『Googleの正体を暴く』にも詳しく述べられていますが、建前と実態のあまりに大きな落差に驚くばかりです。
    ともあれ、「日本が落ちこぼれ」にならないよう、独自の視点と手段を模索することが急がれます。
    今後も、このブログには注目し、期待しています。時折ツッコミを入れながら読ませていただきます。

  • Lingual

    岩本様 コメントありがとうございます。

    別にグーグルは人類を幸せにするためにこんなことをやっているのではないので、私企業としての利益を求めつつ、著者やユーザーにも利便を図り、利益の一部を還元するプロジェクトということで、やっぱりスゴいとしか言いようがありません。
    Japan Book Search、期待しましょう。でも「独自の視点と手段を模索」している時間と余裕があるのかは疑わしいですが。
    明石昇二郎氏のルポについては、週刊プレイボーイに載っていた、と言われても、こっちでは入手できないわけです。雑誌業界もバックナンバーと検索機能を充実させて欲しいですね。
    でも「勝手にスキャン」というのはアメリカ国内ではfair useの範囲内との見方があるわけですし、全文を勝手に公開したりしたわけではないので、かえって、この訴訟のおかげでこういう本があるんだという自著の宣伝になってよかったですね、ぐらいの感想しかありません。
    グーグルやアマゾンを悪者にしたてて批判するのは日本のマスコミの常套手段のように思えます。もしかしてペリー総督が下田に入港した頃から変わってないんじゃないか?ってぐらいに。ツイッターの方でも議論になりましたが、アメリカにおける裁判は、白黒つけるバトルではなくて、和解案を講じるステップにしか過ぎません。

  • http://maru3.exblog.jp/ まる3

    しばらく日本の電子出版の業界は、まぁ独自路線を行くということで。

    むしろ、既存の電子ブックリーダーとかデジタルサイネージとか、機関リポジトリとか…それらの組み合わせで、「書籍」に限定しない展開を考えることはできないかなぁ。

    たとえば、幕張とかビッグサイトとかパシフィコ横浜とかでの展示会で、配布しているカタログやパンフレットやチラシのたぐい。あれらが電子化されていたら…って、凄く思う。

    たとえば、会議やセミナー、講演会で配布される資料。これなんかも机の上に山積み状態…これなんかも電子化して欲しい。

    パンフレットやカタログ、配布資料等々は、かんがえてみれば、そもそもパソコンで作っている電子データなはずだし(たまに手書き資料もあるけれど)、それらを上手に配布する仕組みがあればいいだけの話し…だと思うんだけどなぁ。

  • Pingback: Twitted by roseau_naissant

  • http://310000.cocolog-nifty.com/blog/ ハト

    とおりがかりで失礼します。

    著作者や出版社にとって不利、ということよりも、先に公開しておいて事後的に和解に持ち込むという、グーグルのやりかたが批判されているのではないでしょうか?

    >これで得をしない著者がいるだろうか?
    いると思われます。おおよその著作者は、あなたの書かれたように得をするのかもしれませんが、絶版本には、著作者の事情(例:思想信条の変化)や、人権問題(例:現在では差別用語となる用語の使用)等で、再頒布されるのが好ましくない性質の本も存在すると思いますし、そもそもそれを再頒布することの是非は著作者/出版社に留保されるべき性質のものと思われます。
    和解に参加後も、著作者は自分の本を選択的に削除することが出来るようですが、「事後」になってしまう(=いったんは公開されてしまう)ことは問題ではないでしょうか。
    権利者に事前許諾を得ることなく先に既成事実をつみあげてしまうやりかたと、権利者やその周囲の人々への配慮が圧倒的にかけている点に批判が出ているのではないでしょうか。

  • Lingual

    まる3様 コメントありがとうございます。

    ということはケータイと同じく、日本の規格がガラパゴス化する可能性があるわけですね。日本の書籍は、ジャンルとして独立しておらず、雑誌やマンガやアニメと直結しているのでマルチメディアを望む声はわかるんですが、テキストだけでもさくっとデジタル化しないから、いつまでも紙の山が減らないのだと思います。そしてその仕組みを作るのは….期待してます。私じゃないから。

  • Lingual

    ハト様 コメントありがとうございます。

    でも、そうでもしないと、先に分厚い和解案がドサッと送られてきても、それがどういう結果を招くのか、わからない部分もあるでしょう。やってみて初めて不都合な部分にも光が当たり、修正することができるのだと思います。そのぐらいしないといつまでたっても動きません。実際、日本はそうやって国際社会から突つかれることで対応してきた歴史があるわけですし。

    >再頒布されるのが好ましくない性質の本

    紙の本で、もう絶版になってしまったからなかったことにしよう、という発想はもう通じない時代になったということでしょう。国内だけに向けた(つもりの)政治家の発言が通用しないのと同じで、日本という小さい国の、独自のルールではプレイできない土俵ができているのです。そこに上がって勝負するか、背を向けて置き去りにされるかは日本のチョイスですが。

  • Satoshi Iwamoto

    岩本が申しあげたことで、ちょっと補足を……「すごいけど、なんなの? それで人間は以前よりほんとうに幸せになっているのか?」というのは、別にGoogleに限ったことではなく(Googleの社員は、折に触れて「人類全ての幸せのために」のような発言をしていますが)、私が申しあげたかったのは、「テクノロジーの進歩、それによって可能になったサービス、そしてそれらのあり方の変化」が、私たちがほんとうに求めてきたものだろうかという、もっとプリミティブな疑問です。21年前に、HDも内蔵されてない2フロッピードライブの、メモリー512KのMacを、80万円近く払って手に入れて以来、ずっと頭から離れない思いですが、その割には、器械もサービスも人並み以上に早くから使っている自分は何なんだと。Googleはすごいです。すごいことをやってくれます。そのサービスを享受しながら思います。だから怖い。

  • Lingual

    岩本さま 再度コメントありがとうございます。
    グーグルは社命として「一部のお金持ちだけじゃなくて、みんなが安く使えるサービス」を目指しているので、社員からそんな発言も出るのでしょう。
    テクノロジーの進歩が人を幸せにするか? この問題を自問し続けてきた人たちが一部アメリカに存在します。アーミッシュの人たちです。自動車、テレビ、携帯電話といったものが出現するたびに、「それを取り入れることで家族の絆が薄れはしないか?」「それを使うことは神の思し召しにかなうことか?」を逐一検討した上で、ほとんどを拒否しながらも、私たちと同じ時代を生きています。その結果、概ね幸せそうです。強靭な意志と深い信仰がなければできないことですが、不可能ではありません。たまたま同年代のアーミッシュの女性と知り合った頃の私は、ハードのメモリーが80㎆のMS-DOSを使って仕事をしていました。作家さんは原稿用紙に万年筆書きで入校する人ばっかりだったから、コピー取りが大変で…。私はあの時代に戻りたいという郷愁は残念ながら持ち合わせていません。

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