E-インク事始め—How I witnessed the first days of e-ink at MIT Media Lab


あれは90年代初頭のこと。日本の企業の間では、バブルで儲けた文字通り「あぶく銭」の使い道として、積極的に海外の新技術開発に投資でもしよっか、という風潮があった。マスコミ関連の企業の羽振りもよく、当時私が勤務していた出版社も例外ではなかった。

medialabマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボといえば、ニコラス・ネグロポンテ所長が率いる「未来のメディア」を研究する機関で、ボストン郊外のチャールズ川岸に、I・M・ペイが設計したかっこいいビルで、全米屈指の理系学生を使って常人の想像を超える未来構築をしている場所として知られている。(Photo by: Samat Jain)

メディアラボでは「コンソーシアム」という名の下で色々なプロジェクトに対して企業スポンサーを募っていた。研究の結果が出て商品化ともなれば、スポンサーした企業が優先されるという条件で。国内では学生を私企業の金儲けの下請けに使うなんて、という批判もあったが、ネグロポンテというカリスマ教授を広告塔として、がんがんスポンサーが集まり、大盛況という感じだった。何しろ、そんじょそこいらの広告代理店やPR会社なんかよりよっぽど話題作りが上手いのだから。

雑誌の取材に同行して、あるいはスポンサーとなっていたとある日本企業の通訳として、研究生がプロジェクトのお披露目をする場に行ったことがあるのだが、そこで私はE-インクの原型を見ていたのだった。今から思えばすごく貴重な体験。当時は次々と繰り出されるコンピューターの専門用語に苦労させられた

今やアマゾンのキンドルにも、バーンズ&ノーブルのnookにも使われているE-インク。パソコン画面のようにバックライトを使わない分、目が疲れないと評判だ。瞬時に、そして自在に印刷物のような白黒画面を作り出す。

どういう仕組みになっているのかというと、一面に球形のポリマーが並んでいる。ポリマーの大きさは人間の髪の毛を切った側面ぐらいで、中に電磁気を帯びた黒い粒子と白い粒子が浮遊している。だから、普段の画面(およびバックグランド)では、半透明のポリマーの中の黒と城の粒子が見えて、それがぐちゃぐちゃになっている状態だから薄いグレーのスクリーンになるというわけ。

私が見たデモ盤では、プラスチック製の日本の「下敷き」ぐらいの大きさで、折り曲げることはできないが、多少たわませることができるぐらいの厚さだった。ここに電極をつなぐと、あーら不思議、電気の通っているところだけ、このポリマーの黒い粒子が上の方に浮き上がってくるので、黒い線が浮き出てくる、という代物で、当時はそこまでしかできあがってなかった。

デモンストレーションを見せてくれた、いかにも理系オタクっぽい学生クンが「あとは、これをどうやって文字の形にするかなんだよなぁ」とノンビリつぶやいていたことを思い出す。その時は、まだまだ時間がかかりそうだなぁ、という気がしたけれど、これが実現すれば、ほんとうに(ほとんどの)紙媒体は要らなくなる時代が来るという確信があった。バックライトに夜パソコンの画面とは根本的なところからして違うことがわかったからだ。

その後、この技術がどういった経緯で台湾のPrime View International社で製造されるに至ったかはわからないが、あれから約15年経って、アマゾンが発売したキンドルという形で再び私の目の前に姿を現したE-インク。そして間もなく、大手書籍チェーン店のバーンズ&ノーブルも同じテクノロジーを使ったヌックnookを発売する。

確か5年ほど前、ソニーがリブリエを売り出した時に、現物を見る機会はあったが、欲しいとは思わなかった。本体が4〜5万円はする上に、PCにつながなくてはいけなくて(私はマックっ子)、コンテンツがあまりなかったり、期間限定だったり。日本はどうも「もの作り」に力を入れすぎるあまり、タイトルや、ソフトや使い勝手といったものを軽視しがちだ。出版社にとってもせっかく、新しいフォーマットで本を売るチャンスだったのだから、コンテンツのライツ問題を業界で足並み揃えてちゃんとクリアするか、エージェントの機能を果たすライツセンターみたいな団体でも作るべきだったと思う。

同時期に松下電器が作っていたΣ(シグマ)ブックというのもあったらしいが、こっちは「本」を意識するあまりか、見開きになっている。厚さと重さが2倍になるだけで、読者が電子ブックに求めるものはこれじゃないだろ、という感想を持った。

メディアラボのE-インクにずっと投資していた企業の中に、日本の凸版印刷があるが、ハードを作るわけじゃなし、コンテンツのライツを持ってるわけでなし、どうやって活かすというのか?

とりあえず、今はちゃんとアマゾンのアプローチを受けて、どこの出版社もコンテンツ契約をどうするか、ネゴシエーションとしている最中だと信じたい。じゃないと今度こそ完全に置いていかれるだろう。

追記:どうも佐野眞一や水村美苗のように「殺す」とか「滅びる」とか言わないと危機感が伝わらないらしい。「なくなる」とか「置いていかれる」ぐらいじゃ、ダメなのかなぁ?

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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  • 自殺した方が幸せかもね

    別に良いじゃない。危機感がなくても。
    日本の出版業界(つか国自体)が滅んでも貴女は賢い人だから生きていけるだろうし。

    ・・・じゃ、これからも頑張ってください。

  • Lingual

    単に悲観的なのか、悪意があるのかわかんないコメントありがとうございます。しかも嫌みったらしいw
    これでもけっこう愛国心はあるので国が滅ぶのはイヤだし、出版業界が滅んで本が読めなくなるのも寂しいですが、なにか?
    言われなくても頑張りますので、そちらも自殺などせずお元気で〜

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