今回のコラムを読む前に、次の中から答えを3つ選んでみてほしい。A. 純文学 B. エンタメ C. ビジネス書 D. セルフヘルプ(自己啓発書)E. ミステリー F. スリラー G. SF(サイエンスフィクション) H. ノンフィクション I. チックリット J. ロマンス K. YA(ヤングアダルト) L. 短編集 M. エッセイ M. 専門書
答えは、J、G、C。
まずはロマンス。ロマンスの読者って、ほとんど女性。やっぱり主婦層が中心。主婦と言ってもアメリカは専業主婦が少ないから、働いている奥さん、お母さん。ま、要するに、オヤジ化したメタボなダンナを尻目に、現実逃避、頭の中でスーパーモデルになった自分とイケメンとの仮想ラブアフェアを楽しんでいるわけ。通勤途中や家事の合間に。
アメリカでロマンスに力を入れている版元にはハーレクイン、ケンジントン、大手傘下のインプリントでは、ペンギンのバークレー、ハーパーコリンズのエイヴォン、ランダムハウスのバランタインなどなど、たくさんある。
フォーマットはマスマーケット・ペーパーバックが中心。これは縦18センチ、横幅11センチぐらいの縦長のソフトカバーのこと。紙質が悪く、すぐ黄ばむ。平均的なお値段は8〜9ドル。ただし、ブッククラブに入ったり、安いのを探したりして読む人が多いので、1冊5ドルぐらい、と考えていい。超売れっ子の最新作になるとハードカバーもありだけど、基本的には量産タイプ。
そういえば、最近、長年ハーパーコリンズのトップだったジェーン・フリードマンという女性が、ルパート・マードックと問題児編集者ジュディス・リーガンとの軋轢が原因で失脚した、という話があったんだけど、結局フリードマンは、絶版になったロマンスをタダで読めるようにしたネットベンチャー、Open Roadを立ち上げて、カムバックしてたっけ。この人は、著者に全国行脚をさせる「著者ツアー」を業界で最初に取り入れたり、大手出版社で最初に社内にオーディオブックの部門を作った人として知られている。そんな彼女が、次なる成長分野として目を付けたのがロマンスだったということだ。
ロマンスはひとえに読者が次々と読みまくるので、とにかく質より数が求められる世界。つましい家庭(低〜中所得者層)の主婦なので、1台数万円もするキンドルは思い切った買い物になるけど、アタシの楽しみはこれぐらいだしー、今まで読んで捨てたペーパーバックにつぎ込んだお金を思えば、このぐらいヘソクリから出してもノープロブレム、ってことで。
もう1つ、忘れてはならない、ロマンスをキンドルで読みたい理由がある。日本語版のロマンスの表紙と言えば、外人のお姉さんのドアップぐらいで、女性向けの本なのね、程度の情報しかわからないけど、アメリカのロマンスのジャケットはあまりにもあからさまでわかりやすい世界。服をはだけた男女が絡み合ってる表紙が多いわけ。いまだにファビオみたいなbeefcake(筋肉ムキムキ男)がはびこってるし。(Photo by: anoldent)
タイトルも、ここまで量産されるとネタが尽きて、ついつい、ヒネリのないものになりがちな上、最初からどういう内容かがタイトルでわかるように直球ストレートなもの多し。Good in Bed(床上手)とか、Hot and Heavy(お熱いことで)とか、Devil’s Desire(悪魔の欲望)とか、Price of Passion(情熱の代償)とか…。ちょっと勇気いるよなー。だから周りの人に何を読んでいるのかわからないキンドルだと好都合。
かつて一般家庭にビデオデッキが普及する糸口を作ったのが、エロビデオを家で観たい男性だったように、キンドルを流行らせているのはエッチな女性、なのかも。
ちなみに、ロマンスの総売上げ部数に占めるキンドル版ロマンスの割合は既に6%に上っているとか。読まない人には全く見えてこない世界だけど、おびただしいロマンスのタイトル数を考えれば、これはかなりスゴい数字だということができるだろう。
女性読者が支えているのがEロマンスなら、男性読者が多いのがSF。理系のオタク男性が中心層。これも量産タイプなのは同じ。ただ、理系男子が多いため、ガジェットが好きなので、キンドル購入へのハードルも低かったというわけ。ある意味、紙の本へのこだわりがないというか。
プロメセウスのPyr、セントマーティンスのTor、ハーパーコリンズのEos、ランダムハウスのDel Rey、などが思いつくインプリント。(英語表記にしたのは、なぜかみんなアルファベット3文字の名前がついているので、昔から不思議だなぁ、と思っていたから。)
ファンによるオンラインのコミュニティーや、オーディオブックなどが充実しているジャンルでもあるから、要するにテクノロジーに積極的に取り組む姿勢が元からあったということ。
同じオタク系仲間としてファンタジーとひとくくりになっていることも。コアなファンがいるから、何をやっても一定の読者が見込めるジャンル。
小学館と集英社のマンガを北米で出しているVizMediaも、マンガ以外のカテゴリーとして、ラノベも出していたが、今年に入ってHaikasoruというインプリントを立ち上げてSFとファンタジーに力を入れると宣言したばかりだしね。
そしてもう一つ、キンドルで売れているジャンルがビジネス書。これは上2つのカテゴリーと全く理由を異にする。
日本でビジネス書、というと、なんだかんだ言って勉強熱心な普通のサラリーマン、つまり平社員や中間管理職にも読まれているイメージがあるけど、アメリカではエリートのビジネスエグゼクティブが中心層。ビジネス書といっても、経営理論や、有名なCEOの自伝や、勢いのある企業の舞台裏もの、今流行りのマルコム・グラッドウェルのタイトルなど。
こっちのエグゼクティブたちは、こういう本を読んでいないのは許されない、ってぐらいに読みあさっている。エリート同士のミーティングで雑談をするにも、ベストセラーは押さえてないと恥ずかしいし、話についていけない。ガンガン読んで、それを仕事に活かして稼がないと、すぐにクビになるし。
ビジネス書は平均的な定価が28ドルのハードカバーが中心。ペーパーバックが出るまで待つ、なんて悠長なことは言ってられないのだ。この読者たちにあるのがお金、ないのが時間。つまり、飛行機での移動時間や、会議の合間にササッと読めなければいけない。となると分厚いハードカバーは重たすぎて何冊も持ち歩けない。
この読者層は昔からオーディオブックでもビジネス書を買っていた。オーディオブックは昔からあって、カセットテープがCDになり、今ではMP3やiPodで聴くのが中心だけど、オーディオ版のビジネス書なんて、下手すると28ドルのハードカバーが、オーディオ版だと35~50ドル、ということも珍しくなかった世界。やっぱり録音して他のメディアに焼き直す、という作業があったわけだから。それでも金に糸目をつけなくていいビジネスエリートがけっこう利用していたのだ。
だからもしキンドル1台の値段ががもっと高かったとしても、こういう人たちは買っているはず。アマゾンのサイトを見てみればわかると思うが、ビジネス書だけは、キンドル版の定価が9.99ドルよりも高いものが多い。平均価格が15ドルぐらい。
ということで、キンドルを含めたEブックが一過性のブームで終わらないのは、こういう風に、それを陰で支えているコアな読者層があるからだ。そして版元の側も、自分たちが作っている本の読者の好みや、収入や、デモグラフィックをきちんと押さえていて、そういう人たちを裏切らない本作りを常に考えている。自分たちの利益だけを考えて、グーグル・プリントやアマゾンの進出を阻止しようという行為は、結局は自分たちの首を絞めることにほかならない、ということをわかっている。
[...] This post was mentioned on Twitter by 渡辺由佳里 Yukari Watanab and kei_ex, Kay Ohara. Kay Ohara said: New blog post: キンドルで売れているのはどのジャンル?—What’s selling on Kindle?… http://oharakay.com/archives/1866 [...]