値下げ競争で自爆した書店とスーパーの安売り戦争の顛末—Who won the $9 price war?


オンライン書店のアマゾンが自社の電子書籍端末、「キンドル」を普及させようとしてまず始めたのが、ハードカバーで定価20ドル以上もするような売れ筋の本のキンドル版を$9.99ドルで売り始めたことだ。それまでは刊行後間もない売れ筋のハードカバーの本は、アマゾンの最大限ディスカウント枠でも40%引きなので、定価25ドルのものでも10ドル以下になることはなかった。

キンドル版の場合、同じアマゾンのサイトで購入後、1分もしないうちに手持ちのキンドルに自動的にダウンロードされ、読み始めることができる。しかも送料がかからず、1冊10ドル以下となれば、数万円もするハードを買うのもやぶさかではない、という気にもなるだろう。

とはいえ、キンドル版の売上げなんて、書籍全体の売上げからしてみれば、まだまだ数%という1桁の数字だったのである。話題になったとはいえ、すぐに紙媒体の存在を脅かすような存在ではなかったはずだ。アマゾンとしては、同じタイトルならハードカバーで売ってもキンドル版で売っても、同じ額の売上げを版元に払う、という条件の元で行っていたことだからだ。

なのに、それに対抗するように、10月の半ばぐらいからディスカウントスーパーのウォルマートが売れ筋のハードカバーの本を10タイトル選んで$9.99で前売りを始めたことが、安売り競争の火種をつけることになった。ウォルマートといえば、同じ商品だったらどこよりも安いのがモットーの量販スーパー。商品の大半が中国製だったり、従業員の労働条件がかなり悪いので色々と批判もあるが、この不況の中で、いや、不況だからこそ売上げを伸ばしている数少ない企業のひとつだ。(ちなみに店内で目撃された醜い客のスナップを集めた爆笑サイトを見てやって下さい。)

ハードカバーの新刊が9.99ドル、と聞いて我が耳を疑った。そんなのムリ!と思ったからだ。

アメリカでは、どんなお店でも、一定以上の部数さえ注文すれば版元から直接、定価の50%に近いディスカウント率で本を仕入れることができる。(日本ではディスカウントという概念ではなく掛け率で言うので、5掛け強ということですね。)だけど、それはどんなにそれ以上の数を仕入れても半額よりは安くならないハズだった。(大手書籍チェーン店のバーンズ&ノーブルがもっと安くしろと裏で取引しようとして版元に圧力をかけたので、公正取引委員会のお咎めを受けたことがある。10年くらい前の話。)

ちなみにどんな本が10ドル以下になっているか、ちょっと列記してみる。(カッコ内はハードカバーの定価)

・前注文だけでトップセラーになった元副大統領候補サラ・ペイリンの自伝 ($28.99)

・ベストセラー作家ジェームズ・パターソンの「アレックス・クロス」シリーズ最新刊 ($27.99)

・久々のスティーブン・キングの書き下ろし1000ページの大作Under the Dome ($35.00)

・スリラーの大御所、ディーン・クーンツの新作Breathless ($28.00)

・遺作が2つ見つかったマイケル・クライトンのPirate Latitudes ($27.99)

ウォルマートのこの本をまるで傷みかけたバナナを叩き売りするような行為に対し、アマゾンはさっそく、同じ$9.99で対抗し始めた。そうこうしているうちに、今度はウォルマートのライバルであるターゲットが同じタイトルを99セント安い9ドルきっかりで売り始め、さらにウォルマートは1ドル下げて8.99という値段をつけた。ターゲットがこれにマッチングすると、ウォルマートは8.98に…。

こうなるとまさに泥沼。そうこうしているうちも、インディペンデントと呼ばれる零細書店は最初から事態を冷静に傍観、安売り競争には加わらなかった。それどころか、その裏をかいて、取次から仕入れる代わりにこの3店に注文を入れ出したのだ。なにしろ、大量に注文しても通常1冊18ドル近いスティーブン・キングの新作がその半額で仕入れられるのだから、当たり前と言えば当たり前だろう。

これに気がついたディスカウント店側は、さっそくお一人様数冊(ターゲットが5冊、アマゾン2冊、ウォルマートが3冊までだから、どんなに頑張っても10冊が限界)まで、という制限を付けたけどね。でも、書店によっては書店員スタッフ全員で注文を入れたところもあったみたいで、結局、安く注文できた一般の読者はあまりいないんじゃないか、という話。

その間にもスティーブン・キングは「この話を聞いてgobsmacked(ベックラこいた)」というコメントを出していたし、出版社の団体ABAは、これが違法行為かどうかを調べろと法務省に嘆願書を出す始末。

とりあえず、ディスカウント競争が自爆した3社は、これ以上安売りするタイトル数を増やしたり、値段を下げたりする気はなさそうで、一過性のクリスマス商戦で終わりそうな気配。とはいうものの、価格破壊による地獄を垣間見た恐いエピソードだった。

(個人的にはサラ・ペイリンがゴーストライターに書かせた自伝Going Rogueは$8.98という値段がお似合い、という気もするけどね。)

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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