キンドル、私はお薦め。特に少しでも洋書を読む機会・必要のある人にとっては。もう洋書を扱う数少ないお店に出向いていって、黄ばんだペーパーバックに高いお金を出さなくても済むのだから。洋版が潰れたのはもう1年も前のことだけど、どの道もし生き残っていたとしても、これを期に機能しなくなっていたことだろう。
キンドルの悪口を言うのは容易い。カラーじゃないとか、ファイルが入れにくいとか、ページを繰る時に反転するだとか。だけど、最初からすべての人のすべての要求を満たすようなガジェットを作れ、という方がムリというもの。日本のメーカーも、Eブックのハードを作ろうとしては、あまり普及せず、失敗してきたから、外資にしてやられるのは悔しかろう。
洋書販売店も、これでビジネスを放棄するのではなくて、写真集や絵本など、ビジュアル重視の品揃えにすればいいことなんだし。学者の人のための専門書はアマゾンじゃなくて、これからもエルセビエやグーグル・プリントの行く末が気になるところだろう。
一ユーザーとしてキンドルについて感想を言うならば、これですべての本を読もうとは思わない。いつか著者に会ってサインしてもらいたいなぁという本、自分が読み終わったら人に貸してあげようという本、ジャケットデザインがきれいなハードカバーは相変わらず紙の本を買っている。
私がキンドルに入れているもの。わざわざ刊行初日に本屋さんに行く気はないけど、早々にチェックしておきたかったダン・ブラウンの新作THE LOST SYMBOLといったベストセラー系、メイブ・ビンチーとかメリーアン・キーズといった、業界の人にはファンだと恥ずかしくてちょっと言いにくいチックリット系。
雑誌では、毎週買っているとかさばるし、読まずに次の号が来ちゃったりする週刊誌「ニューヨーカー」と、全国の地方紙に載った書評を集めたDaily Lit。どっちも最初の2週間分はタダでお試しがあったのを片っ端から購読してみて、月に数ドルなので残した2誌。
今さら読んでないとは言えない、あるいは昔読んだはずなのに内容が全く思い出せないクラシック。これも、今さら本を買うまでもないが、アマゾンでは版権切れのものが数ドル、あるいはタダで読めるので、フィッツジェラルドの『ジャズ・エイジの物語』とか、出だし部分をどうしても思い出したかったドストエフスキーの『罪と罰』とか。
社会学系のノンフィクションも、20ドル以上するハードカバーの話題の本がキンドル版なら10ドルなので、ニコラス・クリストフのHALF THE SKYとか、リベラル系ニュースサイト「ハフィントン・ポスト」で推薦されてたIN PRAISE OF SLOWNESSとか。
ブログのサービスもある。気に入っているのはOverheard in New Yorkで、これはニューヨークのどこかで交わされていた会話を、そば耳立てて聞いていた人が投稿するサイトなんだけど、「いかにも」な会話に笑っちゃうものが多くて、楽しめる。もちろんブログなんだからパソコンに向かっているときにタダで読めるんだけど、仕事中にそういうサイトに立ち寄る罪悪感があってなかなか読めない。だけど、外出中なら、ってことでキンドルが便利。
とりあえず、私のキンドルは通勤バッグならぬ(通勤してないので)ジムバッグに入れている。本ほどかさ張らないし、電車の中でも取り出してから「何を読もうかな」と決められるしね。
満員電車で通勤する人だったら、イヤホンを付けて、朗読機能で本を読めるのもいいかもしれない。英語上達法でよくある学習法ってことで。英語のみだけどウィキペディアと電子辞書が使えるので、文中にわからない単語があれば、カーソルをそこに動かして調べることもできる。
で、国際化したキンドルの話に戻る。購入できる国は100ヵ国近い。版権の問題で、英語圏のカナダが抜けているが、それも近々解決するだろう。買えるタイトルは20万タイトル。1台のキンドルに1500タイトルぐらい入る。お値段は$279ドルということになっているが、これに各国の関税や郵送費が加わるから、だいたい3万円。国内では無料の通信費(ダウンロードするときにかかる)が約1タイトル2ドル。今のところアメリカの出版社のうち、マクミランと最大手ランダムハウスが含まれていないが、これも2社が拒否しているわけではなくて、裏で着々と商談が進行中。
業界にとっては、これまでには考えられなかった色々な問題もある。例えば、著者と出版社の契約で、国によって印税率が違う場合。アマゾンは、その国の印税率にのっとった印税を算出して支払うと言っている。同じ英語圏でもオープンマーケットと言って、アメリカ版でもカナダ版でもイギリス版でも買える国もある。オーストラリアとか、母国語は他にあるけど国民の多くが英語を読めるオランダとか。そういう場合、VAT(付加価値税)の関係で、アメリカ版を買う方が安くなることが多い。となると他の国が不利になるという懸念もある。
こういう要素もあって、グーグル・プリントもヨーロッパでは大もめになるのだけれど、さて、日本の出版社はどうするのだろう? そのうちアマゾンは必ず、日本国内で日本語の書籍を売ろうとして、日本の出版社にキンドル版を用意しろと持ちかけてくるだろう。拒否するのは容易い。今の出版不況を打開しようという気持ちがないのなら。
日本の出版社の皆さん、特にトップの人たち。私がこうやってブログに書いていることをアメリカかぶれした小娘の(もうオバサンだけど)戯言、と切り捨てるのもあなたたちの勝手です。自分たちが定年退職するまでは大丈夫かも。だけど、今、本当にやらなければいけないのは、自社の著書をキンドル版のデータに書き換えるための費用を計算すること。いくらぐらいの印税で、それを著者とどう配分すればお互いに納得のいく利益が得られるかを計算すること。著者が電子版権を任せてくれる信用を得ておくこと。
一方で、してはいけないこと。まぁ、いけなくはないけど、それじゃ滅びるよ、というアドバイスとして。デジタル化にひたすら背を向けて交渉しないこと。eブックリーダーとかニンテンドーDSとか、国内発のテクノロジーに固執して独自にフォーマットを作ろうとすること。文化的考慮から、という逃げ道を作ること。
私はどうも昔から、のんびりと浜辺で釣りをしていて黒船を発見してしまう役回りのようだ。村に走り帰って「黒船が来るよ〜!」って言ってるのに、みんな私をオオカミ少年だと思うらしく…。
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