ポール・オースターの最新作THE INVISIBLEを一足先に堪能—Paul Auster generously gives preview to his latest novel INVISIBLE


村上春樹の『1Q84』の売上げ部数が刊行1週間で50万部というのもすごいが、こっちでもポール・オースターの人気は相変わらずだ。ブック・エキスポに続いてニュー・スクールでの朗読会でも話を聞くことができたので、紹介する。

文芸誌『グランタ』の最新号ではNew Fiction Issueと銘打って、超一流の寄稿家たちが名を連ねる。その中で今年の10月に刊行予定の小説INVISIBLEの冒頭部分が掲載されている。主人公のアダム・ウォーカーはコロンビア大学の学生で、とあるパーティーで出逢った同大の教授が篤志家となって、お金はどーんと出すから、好きなように雑誌を作ってみないかという話を持ちかけられるというストーリーだ。

ところが、オースターがニュー・スクールで披露したのは、もっとストーリーの核心に迫る部分。ラッキー! そのお話というのは…。アダムには2つ年上の姉グウィンの他に年下の弟がいたのだが、その弟は7歳の夏に溺死してしまった。それ以来、姉弟は毎年、弟の誕生日には2人で、彼を忘れないためのバースデーパーティーを祝ってきた。まずは弟が好きだったチョコレートケーキにろうそくを1本だけ立て、だけど「ハッピーバースデー」の歌は歌わずに囁きかけるだけ。それから弟の思い出話をして、生きていたら今頃どんな風になっているかを話し合い、さらに彼の未来をも想像してみる。そんなことを2人はどちらからともなく、10年以上も続けていた。

アダムがコロンビア大学のプログラムの一環で次の学期をパリで過ごすことになった年の夏、大学院生だったグウィンは出版社でバイトしていた。2人は大学からほど近いモーニングハイツに安アパートを借り、一緒に住んでいたのだが、弟の誕生日を祝い、酔っぱらって「毎年だんだん思い出せなくなっちゃった。こんなことをしても、弟の思い出はどんどん薄れていってしまうのよ」と泣き出したグウィンをなぐさめようとしているうちにセックスしてしまう。夏の終わりにはまた別れ別れになることを知っている2人は、それから毎日、狂ったようにやりまくる。

この辺りを読んでいる時のオースターさんったら、赤くなっちゃって、可愛いの。自分で書いたくせにー。(Photo by: David Zellaby)

3部に分かれたこの作品、ナレーション(語り口)が第一人称、第二人称、第三人称と変わっていくという意欲作とか。

ファンからの質問に彼が答えた様子を思い出せるだけ書いてみます。

「いつも同時進行でいくつかの小説を書いているのですが? それとも一つずつ仕上げて次の作品に移るタイプ?」

「BOOK OF ILLUSIONやCITY OF GLASSは、まだ若い時に書き始めたけれど、当時の僕にはまだそれを完成させるだけの力がなくて、結局、書き上げたのはかなり時間が経ってからになってしまった。また、BROOKLYN FOLLIESを書いた後では、なんだか燃焼しきった気がして、しばらくもうこれ以上何も書くことがなくなったような気分だった。」

「編集者の校正は素直に聞き入れる方ですか?」

「何を指摘されたかにもよるなぁ。担当編集者も何度か代わっているし。だけど、同じ家に最も尊敬する書き手(奥さんのシリ・ハストヴェットのこと)がいるし、書いたものは全部読んでもらう。彼女が『ここから話がちょっと脱線してない?』なんて言ったりしたら、そりゃもう素直に(笑)」

「毎日定期的に書く方ですか?それとも波がある?」

「家族の行事がない限り、毎日のルーティンを守る。つまらない話だけど、まず朝起きたらオレンジジュースを一杯飲んで、紅茶をポットに沸かす。そして仕事場(ブルックリンはパークスロープの近所にある)に行ってひたすら気が済むまで書く。そこの電話番号を知っている人は3人しかいないし、邪魔されることもないから。実は僕はまずは紙に書いてみないとダメなたちで、しかもそれが方眼紙じゃないといやで(笑)、そこに小さい字で万年筆かお気に入りのシャーペンで書いていくんだ。あちこち直しながらね。それが何枚か溜まると、今度はそれをマニュアルのタイプライターで打つ。早くしないと自分で何を書いたかわからなくなっちゃうから(笑)。」

「CITY OF GLASSはグラフィック・ノベルになっているし、映画もありますが、いつも映像化を意識して書いていますか?」

「いいえ、SMOKEやBLUE IN THE FACEは最初から映画としてしか、僕の頭の中に存在しなかったんだ。CITY OF GLASSのグラフィック・ノベルは後からのアダプテーションだしね」

「ライティングの授業をとったりしたことは?」

「一切ない。とにかく10代の頃から、ものを書く人になりたいという強烈な思いを持っていた。高校時代の先生が『そんなにやりたいのならやってみるがいいさ』と奨励してくれたことが僕の人生を決めたと思う。それからはあらゆる本を読みあさって、とてもこんな文豪たちは超えられないと絶望した時もあったけれど、それでも自分のストーリーを書くしかない、と思い直したんだ」

「作風がバルザック的だと言われますが?」

「自分じゃ全然思わないけどなぁ」

「 新作のテーマは死なのか?」

「この作品に関わらず、僕はずっと「死」というものから逃れられずにいる「生」を書き続けてきたと思う。身近な人の死というのは、誰もが直面するものだ。そしてそれは年齢を問わない。物心がつく以前の子供にも降り掛かることだってあるし、大人になったからといって、それが楽になるとも限らない。主人公の姉弟はそれぞれにとても賢い若者なのに、幼い弟の死を受け入れられずにもがき続けている。それを描きたかったんだ」

ポール・オースターはもっとシャイな人なのかと思っていたけれど、この日はいつになく饒舌で、熱く自作について語っていたのでした。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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