どこか奥ゆかしいミュリエル・バルベリは日本が大好きな御フランス撫子だった—Japanophile Muriel Barbery captivates US readers with her “erudite concierge”


今回のPEN協会の一連のイベントで個人的に一番楽しみにしていたのはフランス人作家のミュリエル・バルベリ。既に日本ではデビュー作『至福の味』も第2作『優雅なハリネズミ』も出ているが、アメリカではTHE ELEGANCE OF THE HEDGEHOGがようやく昨年の9月に刊行になり、翻訳物としては珍しいロングセラーになっている。

著者が日本に在住とは知らず、ストーリーののっけから谷崎もマンガも好きという少女が出てきて、小津監督の『東京物語』の魅力を語ったりするあたりがツボにハマって、アメリカ人に日本の魅力を伝えてくれてありがとう!な気分でいたので、今回ニューヨークで会えるとあって速攻でチケット買いました。

せっかくだからここはひねらずにパネルの中身を紹介しましょう。まずは寡作な著者が2冊目を書こうと思った動機から。ふとしたことで、1冊目の『至福の味』が本棚から落ちた時に開いたページが、コンシェルジュ(あるいはアパートの管理人)が自分のことを主張している箇所。そこでその人物のストーリーを膨らませて書いてみようと思い立ったのだとか。

同時進行でその管理人、レネーが担当する高級アパートに住む少女の話が出てくる構成になっている。この主人公のレネーがかなりの曲者で、表向きには何の害もない労働者階級のオバサンを装っているのだけれど、かなりの皮肉屋でしかも自在に哲学を語れちゃうほどの博識家、そこまで言っちゃうと性格悪くない?ぐらいのnarrativeは編集者のアドバイスで書き換えたものだとか。

そして可愛いのは、「2冊目のアドバンス(印税の前払い金)は要らないから、日本に2週間滞在させて!」と言って、夢だった日本訪問を実現させ、その後の詳しい経歴は知らないけど、今は夫婦で京都にお住まい。パネルでも日本文化とフランス文化の魅力を熱く語り、観衆は熱心に聞き入っておりましたぞ。「日本に引っ越すにあたって、持っていったフランスの本は?」と訊かれて、

1)コデルロス・ド・ラクロの『危険な関係』
これは有名だよね。原作は往復書簡という形だけど、何度も映画化/舞台化され、(あげくの果てには)ヨン様主演で「スキャンダル」という韓国ドラマにもなってるし。

2)ジャン・ラシーヌ
うわ、よく知りません。ギリシャ・ローマ神話をベースに書いている人だっけか? クラシックな趣味というか、ごめん、 知らない。

3)フロベール『ボヴァリー夫人』
これはよくわかります。

自著が売れていることに対しても謙虚で「初版は4000部でしたし、この本を書き上げられたのも夫のおかげです」ってなんだか三つ指ついて夫の帰りを迎える大和撫子を想像してしまった。

肝心の本の方では、ラストがハッピーエンドじゃなくて、ちょっとそれはひどいんじゃないの?という質問も出たけれど、そこはフィクションライター、「申し訳ないけれど、これは私の作品で読み手の気持ちを考えて書くことはできません。人生にはどうしようもないこともあるのだということでしょう」というお答えでした。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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