偶然ソーホーの本屋さんに寄ったところ、前から名前を聞いていたサイモン&シュスターの編集者が、自分が担当した著者のデビュー作のプロモーションを作家と一緒にやっていたので、覗いてみることにした。(今回はちゃんと名前出します。)このお店、マクナリー・ジャクソン書店は、ウェストビレッジのスリー・ライヴス、イーストビレッジのセント・マークスと並んで、私のお気に入りの本屋さん。
純文学系が充実、翻訳ものも多いし、ノンフィクションのセレクションも心憎い限り。カフェのメニューも安価で美味しく、ネット環境も整っているので、もう少しアパートに近ければ、パソコンもって毎日でも通いますって感じ。どうしても文句をつけろ、というのなら、書店員さんのセレクションが今ひとつブッ飛んでなくて、安全路線だったりするのがちょっと惜しいかな。
それはさておき、朗読会をやっていた著者は「いかにもインテリお嬢様でーす」という感じのジューイッシュのお姉さん、ジョアンナ・スミス・レイコフ(写真)で、作家になる前は自分のことを詩人だと錯覚してたのよー、などと笑いながらまずは詩を披露。小説デビュー作の『A FORTUNATE AGE(幸運な時代)』の冒頭部分を読み始めたのはいいけれど…。
会場となった店内のカフェに響き渡る赤ちゃんの泣き声。おいおい、誰だよ、迷惑だなぁ、と思っていたら、いきなりジョアンナ本人が「もうだめ、貸して。お腹空いてるのよ、きっと」といって、それまでお守りをしていた人から大泣きの乳児を受け取ると、聴衆の前でいきなり授乳し始めたのである。もう、クチあんぐりですよ、こっちは。公然とおっぱい出して朗読を続けるその根性。母強し。本人がそこまでするのなら、こっちも写真撮っちゃいますよ。
で、肝心のストーリーの方ですが、自分を含めた坊ちゃん嬢ちゃんグループが、様々な分野のアーチストになりたいけど、親がうるさいし、結婚もしたいし、ドンゾコ貧乏生活はいやだし、というありきたりのテーマで展開するお話。1963年にアメリカでミリオンセラーの大ブームを起こしたメアリー・マッカーシーの『グループ』へのオマージュというわけです。マッカーシーの本はヴァサール大学を卒業してマンハッタンに住むワスプの女性グループを追うあらすじだけど、こっちはオベリン大学を卒業してブルックリンに住むユダヤ系の男女グループ(ま、女性が多いけど)を追ったもの。本のオープニングの部分がメンバーの1人の結婚式で始まるところまで同じです。
元々は『Brooklyn』というタイトルだったらしいけど、同じ出版社から同じ時期に、もっとベテランのアイルランド人の著者が同じタイトルの作品を発表することがわかって、急遽変更。今となっては懐かしささえ感じる、イケイケな時代だったね、という郷愁漂うタイトルになった。
このオベリン大学って日本じゃアイビーリーグの学校ほど知名度はないけど、(でも日本の桜美林大学ってここと提携して名前もらったんだよね?)リベラルアーツでは全米でも屈指の学校で、卒業生も作家が多いです。思いつくだけでも、ゲイリー・シュタインガートとか、マイラ・ゴールドバーグとか、ジョン・ウレイとか、今「旬な」書き手ばかり。
この本の時代背景としては、ITバブルでクリエイティブな仕事が溢れていた頃だし、それぞれの女性が抱える悩みも、お金持ちで、頭もよくって、特にブスでもなくて、何もかも恵まれた人たちが一応現実にぶち当たってみるぐらいの甘いもので、まぁ、私が読む本じゃないね、という気が。
ただ、エディターのアレクシスとはぜひ会いたいんだな。まだ刊行されてないけど、まだ私が某出版社でタイトル・スカウトをやっていたときに彼女が取った韓国系女性作家のLONG FOR THIS WORLDというタイトルが気になっていて、「あの本、どうなった?」って訊いてみたら「かなりいい出来で、期待してるの」と言ってゲラを送ってくれると言っていた。
この商売をやっていてやめられないのは、こうやって未刊の本のゲラや見本刷りがタダで読めてしまうところ。だから今、本屋さんに平積みされている新刊本の中には私が仕事を辞める前に既に読んでいたり、企画書を見ていたりするタイトルが多くて「あ、とうとう出たのね。表紙のデザインはこういうのにしたんだ、ふーん」ということが多くて、ついついそこにいる見知らぬお客さんに「これ、お薦め。面白かったわよん」と知った顔ですすめたくなってしまうのだ。いかんなー。
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