フランクフルト・ブックフェア08雑感ーMiscellaneous Musings after the Buchmesse 08

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フランクフルト・ブックフェア08雑感ーMiscellaneous Musings after the Buchmesse 08Books and the City

今年も無事に行ってまいりました、フランクフルト・ブックフェア。毎度毎度のことなので、もうフランクフルト市内でも、ブックフェアの会場でも、目新しいものに出会うこともあるまいと高をくくっていたけれど、それなりに新しい経験もありました。忘れないうちに書いておこうっと。

まず最初に反省したこと。私は今まで「フランクフルトって街はつまんないから行きたくない」と毎年のようにさんざん文句を言ってきたけれど、これはこれで楽しい仕事じゃないか。いつものようにJFK空港から夜に出るルフトハンザ航空の405便に乗って、機内でいつものWarsteinerのビールを注文して、さぁ今年も頑張るぞ、という気持ちになった。もうブー垂れるのはよそう。なんだかんだ言ってもこの仕事が好きだ。そしてこれからまた世界で同じように(儲からない)本の仕事をしている仲間に会いにいくのだから。

そして着くなりグッドニュース! やっぱり今年のブッカー賞「White Tiger」がとった! アンバーちゃん、おめでとう! 帰ったらお祝いしようね。

これまでは日本語の本を出す出版社のタイトル・スカウトとして「買い」の立場で回っていたけれど、今回は版権レップとして「売り」の立場になってみると、今まで毎年のように挨拶していた人とは会えず、初めて話をする人たちとビジネスをすることになった。これはかなり新しい感覚。今まで相手のマシンガントークを聞いていたのが、今度はこっちがそれをやることに。今までは英語圏の編集者相手だったし、次のアポまで30分しかないと思うと、つい早口になってしまうけれど、考えてみれば相手も英語で仕事をしているとはいえヨーロッパの人たちにとっても英語は外国語。ニューヨーカー丸出しのマシンガントークじゃ相手もつらいということに気がついた。しかもあわてんぼうの性格丸出しで、これじゃいかん。もっと落ち着いて。

版権ビジネスは情報の管理能力しだいということを感じた。究極のマルチタスキング、私にできるのか? 1年ぶりに会う人でも、初めて会う出版社の人でも「この前おたくとはこのタイトルの話をしましたね」「御社はこういうタイトルに興味があるでしょうね」「この本でしたらフランスのどこそこから出ていて、担当編集者は○○さんだったはずですよ」と限られた時間内で濃い話をするためには前回までの成り行きを瞬時に用意しておく必要がある。データベースが要るな。それとも分厚いシステム手帳? なんてったって覚えきれるような数じゃないから。

Seven Stories PressのダンとのミーティングでユニのTachiさんの話になった。この6月に亡くなられたと聞いて私もビックリしたもんね。思い出話をしてしんみり。そう、彼女が生きていたら、6号館と8号館の間の通路ですれ違って「お久しぶりでーす」「あ、どーも」と声をかけ、どこかのパーティー会場で出くわしたら他愛ない世間話をして、何か面白い本の話を聞き出して…ってことがあたりまえだったのになぁ。ダンはフェア中に催されたメモリアルに参加したらしく、会場に飾られた彼女の若い頃の写真を見て「Tachiってこんなbabe(べっぴんさん)だったんだ!」って驚いたんだとか。Too late, Dan. Tachi, we all miss you. R.I.P.

今年も「ビッグ・ブック」がなかった。大きな本、というのは、どこかの版元かエージェントが直前まで極秘にしていて、フランクフルトブックフェアの席で大々的にお披露目して各国の海外翻訳権を売りさばくというもの。今までだとローマ法王やクリントン大統領のメモワールあたりが大きかったかな。だけど日本は例の「失われた10年」のおかげでこのお祭りには参加できずに「フランスではオークションで10万ドル超えたって」「ドイツではどこそこがドカーンと15万ドルでプリエンプトしたって」と噂するのが関の山。2年前のジョナサン・リテルのLes Bienveillantesに至っては、1000ページ近いフィクションで近親相姦あり、ナチス高官による拷問あり、って聞いただけでみんな尻込みしていたもの。

会場を行き来しているうちに誰彼となく、とある本の話が口の端に上って、気がつけばみんながその本の行方を話題にしている。だから、ビッグ・ブックの話が耳に入ってこないと、自分が何かを逃しているのではないかという強迫観念におびえてしまう、それがビッグ・ブックだ。一昨年の春(ロンドン)のアラン・グリーンスパン元FRB議長のメモワールが800万ドル、というのが最後かなぁ。もう「ビッグ・ブック」という観念そのものが古いのかもしれない。オークションでもゲラのやり取りでもネットでできてしまう時代だし。今年はサブプライム〜金融危機のグローバル経済ショックで、どの国も即決のオファーなんて出せない状態みたいだし。

怒濤のように過ぎる毎日。週末はドイツの一般客がやってきます。ドイツの出版社が出展している3号館、4号館なんてもう、身動きも取れない状態。もうこうなると仕事できない。日本のブースにはマンガ目当てのコスプレっ子たちがやってきます。ドイツのゴスロリちゃんに、着ぐるみ君、なりきりハルヒ。日本語のサンプル本を見てはキャーキャー言ってるんですけど、読めるのかい?と不思議がっていたところ、つまりはドイツで出ているシリーズの先がどうなるのか知りたくて、絵だけ見て騒いでいるらしい。なーるほど。

いつも日本に帰る度にお土産に頭を悩ませてきた私は、どんな土地に行っても「変なもの」を見つけるのが得意になってしまったようだ。今回ドイツで見つけた変なお土産ナンバーワンはこれ! 「塩トマト」味のチョコレート。これは日本にもないでしょう。現地でも食べてみたけど(+周りの人に食べさせてみたけど)、ちゃんとトマトの風味が効いていて、塩の固まりにあたると美味しかったりする。しかもHachezのチョコレートだから品質も確か。Hachezというのは北ドイツは(あの音楽隊のお話で有名な)ブレーメンに本社があるチョコレート会社。その昔(大航海時代かな)、カカオ豆はアフリカや南米からアントワープやブレーメンハーフェンという港に水揚げされて、そこからヨーロッパ全土に出荷されていったらしい。そのときに、一番いいカカオ豆を自分たちの地元で消費するようになったからベルギーチョコしかり、ブレーメンのチョコレートはグレード高いんだとか。(って昔ドイツびいきのうちの伯父さんが言っていたのだ。)
そして今年は念願のノイアー・ヴァインが飲めました! (Photo by: by Melvin Udall) 噂に聞いていたのは、ドイツでは10月のほんの一時期だけ出回るワインになる前の「フェーダーヴァイサー(白い羽)」という発泡酒があるそうで、ミュンヘンのオクトーバーフェストでビール飲まなくてもいいから(ああいう大騒ぎのお祭り系イベントはどうも苦手)、ずっと前から飲んでみたいなーと思っていたのだけれど、それどころか、白バージョンよりもさらに珍しい「フェーダーローター(つまり赤い羽)」もいただけるチャンスに恵まれました。う〜ん、甘くて美味しい。ってことはこの糖分の分だけお酒はカロリーが高くなるのね…。(Nさん、ありがとうございます)

ま、そんなところです。さ、お仕事、お仕事。

written by Lingual

ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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