そしてこの戦争の行方はいずこへ? そりゃやっぱり泥沼の生き地獄でしょーSo, where is this war in Iraq taking us? Straight to hell, of course


ずっと前からスーザン・ソンタグを尊敬していた。学生の頃とった「ニュー・ジャーナリズム」の授業で彼女の「キャンプ(低俗なアート)とは何か」というエッセイを読んだときに、頭をぐわ〜んと殴られたような(この人、頭よすぎ!)ショックを受けて以来、私の中では「アメリカ社会のインテリ最高峰」のもの書きとして燦然と光り輝いている人なんである。以前とある出版社オフィスに勤めていたときも、近くのコーヒーショップでカフェラテをすするソンタグを時おり見かけたものだったが、とうとう一言も声をかけられなかった。(だってさー、なんて言うのさ?「あなたの大ファンでーす」って? 思いっきりバカにされそうじゃない。そうでなくても見かけはエラクこわい人だし。)

ソンタグは小説も書くのだが、いかにも「功労賞」ってな感じで 1999年に発表した「In America」で全米図書賞を獲ったきり。しかもこの作品、日本語に翻訳されていない気がする。(同じ全米図書賞をとったアン・マクダーモットやE・アニー・プルーの凡作が翻訳されて、なぜソンタグがまだ?)最近は「写真論」やモダン建築に対する考察が多かったが、9ー11のテロをきっかけに、かなり突っ込んだリベラルな世界観・政治論を披露してくれた。テレビで右翼系オバカ相手にディベートさせられちゃって、相手の論理のレベルの低さに、思わず苦笑してクビを振っていた姿が印象的だった。去年、日本にも招待されて講演していたようだが、ちゃんとこの人に太刀打ちできるパネリストを用意したんだろうか?

日本映画にも造詣深く、昨年春にジャパン・ソサエティーで「スーザン・ソンタグが選ぶ日本映画」と銘打った一連の日本映画が紹介されたほどだ。これがまた渋い選択で、原一男の「ゆきゆきて、神軍」とか、五所平之助の「煙突の見える場所」とか、溝口健二の「祇園の姉妹」が入るんだよね。かなりの通だ。そういえば、アメリカ出版業界の名物編集者ロバート・ゴットリーブ(最近は間もなく出るビル・クリントンの自伝を担当)も旧〜い日本映画が大好きで、原節子や田中絹代ら往年の日本映画女優の話を始めると止まらない、という話を聞いたことがある。

おっと、つい話題が逸れてしまった。アブ・グレイブ刑務所での人質虐待写真について、民間人首チョンパ映像について、イラク戦争について、何をどう書くか思いあぐねていたが、昨日付けのNYタイムズ・マガジンに載っていたソンタグのコラムと、月曜日夜に放映されたバカ息子ブッシュの「イラク再建」演説を聞いて、アメリカという国には、ちゃんと頭のいい人もいるのに、なんでこんなにバカが大統領になっちまうのかね?とタメ息が出る。

ところで、ひとつナゾなのが、このスピーチが民放で放映されなかったことだ。苦境に立たされたブッシュに対して「オラオラ、どーすんだよ。この先」という番組を組む絶好の機会だったのに、ケーブル局以外は無視。穿った見方をすれば「今さら、何を言ってもらってもイラクの状況が全然改善されていないことは明白なんだよ。机上の再建計画なんてニュースにもならないんだよ」とマスコミに思われているのだろうか? そんなことやっても今さら支持率なんて上がらねーんだよ、ということなんだろうか? 

戦争捕虜の虐待については今さら何も言うまい。あまり驚きもなかった。だって戦争だもん。そのくらい、ありそうなことでしょ。アメリカ人が本当に戦地に行って公明正大で立派な振る舞いをしてると思ってた? だって、ああいうところに派遣されていく兵士って、アメリカ社会でも落ちこぼれのバカばっかりなんだよ。イラクに行く前は(もしかしたら行った後でも)イラクが中東のどこにあって、イスラム教がどういう宗教なのか、サダム・フセインがどういう主導者だったか、な〜んにも知らなかったはず。大学に入る学力も財力もなくて、田舎でとうもろこし農家を継ぐのがいやで、トレーラーハウスでテレビを観るのにも飽きて、マクドナルドでハンバーガー焼いているのも嫌になって、「アメリカン・アイドル」のオーディションに行くほどの歌唱力もなくて、「なんか面白いことないかな〜。タダで外国にでも行けないかな〜」っていう人たちが軍隊に入るんだから。

兵士たちを監視する方も、一時拘束されただけのイラク人でも、一応「拷問」(ソンタグも書いていたとおり、素っ裸にしたり、首輪をつけて女性兵士に引っ張らせるなど、精神的ダメージを与えるのも虐待を通り越して立派な拷問に値する)しておけば、得られる情報もあることだし、と見て見ぬ振りをしていたか、暗にもっとやれと指示していたと考えていい。で、バカな兵士が安物のデジカメで、戦地で出会った「面白いこと」の写真を撮ったというだけのことだ。こう書くと、また誤解されそうだが、誰もアブ・グレイブ刑務所での捕虜の扱いを容認しているわけではない。元々イラク戦争が正義のためだなどという、お為ごかしなどは信じていないし、もっともっと残酷な写真が流出してアメリカ軍の撤退に拍車がかかり、ブッシュが次期大統領選で負ければいいと思っている。ブッシュはアブ・グレイブ刑務所を取り壊すと発表したが(証拠隠滅行為と受け取ってよろしいですな)一連の写真が、これからもずっと「イラク戦争のイメージ」として後世に伝えられていくのは間違いなさそうだから。

まぁ、いずれにしろ、捕虜の扱いについては日本はもの申す立場にはないことは確かだ。自分たちが戦時中にどういうことをしてきたのかを考えれば。で、次はアル・カイダによる民間人首切りビデオ。インターネット上でビデオを見て気分を害した人が大勢いるらしいが、この際、しっかり考え直してもらいたい。特に「キル・ビル」だの「グラディエーター」だの、ハリウッドのアクション映画で残酷な作り物の暴力を見慣れている人たちには。ギロチンや日本刀でスパッ!と切るのと違って、ナイフでぎこぎこ首を切ると、切られている方は「ぎぇ〜!」と断末魔の叫び声をあげるんだということがよーくわかるね。

よく日本にいる人たちから、アメリカでもきっとみなこの映像を見て震撼しているでしょうと聞かれるのだけれども、なにしろ、民間人の首チョンパ映像が流れたのは、これが初めてじゃないし(2002年にパレスチナ人に捕らえられたユダヤ系アメリカ人ジャーナリストが同じ目に遭っている)、今回の青年は軍人ではなく、一攫千金を目論んで仕事を探しにイラク入りした民間人で(究極の自己責任)、映像が流出する前に既に本人が首なし死体で見つかったというニュースは家族に伝えられていたし、みんな無事にサマワで井戸掘りしている日本の自衛隊と違って、アメリカでは毎日のように兵士が攻撃にあって死んでいるので(今のところ死者700人くらい)、これで一気にイラクから撤退するのどうのこうのという議論にはならないわけで。

でもまぁ、今回の一連の事件でイラク戦争の後始末が「思っていたようにうまくいっていない」というのはアメリカ人も気づきはじめたわけで、ブッシュの支持率がぐんぐん下がっている。(これは喜ばしいことだ。)イラクの復興計画を発表したバカ息子だが、来年1月には選挙を予定して6月末日から撤退の準備をするとは言っているが、もう誰も計画通りにことが運ぶとは思わないだろう。大体選挙なんて、できるのかね? あんなに宗教的にも人種的にもゴチャゴチャと国内でも国外でも対立を繰り返してきて、おまけに長い間フセインみたいな独裁者に押さえつけられることに慣れてきた国民が「さぁさぁ、これからは民主主義ですよ。みんな平等なんですよ。男も女も同じ権利があるんですよ」なんて言われても、その通りに政(まつりごと)に参加できるわけないっしょ。

押しつけのデモクラシーはベトナムでも失敗したし、朝鮮半島だって2つにされちゃって、アフガニスタンもまだゴチャゴチャしてて、上手くいかないんだってことがわかんないのかねぇ。でも、上手くいった国がたったひとつあるんだもんね。最近、つくづく不思議なんだけど、なんで日本ではスンナリ民主主義に移行できたんだろう? 国民がほとほと戦争に疲れて終戦を歓迎したから? やっぱ原爆でビビった? 誰か私に説明して下さい。昨日まで鬼畜米英と呼んでいた人たちからもらったチョコレートがそんなに美味しかったのでしょうか? とりあえずここで大人しく従っていれば天皇様だけは殺さないでくれるとマッカーシー様がおっしゃったから? どーして? 

なんて、ふざけて書いたけど、本当に以前から知りたかったのだ。ジョン・ダウアーの「敗北を抱きしめて」を読んでも、日本の市井人だってかなりの反骨精神もあるし、したたかに生き延びる術を心得ているようにも思えるけど、それが戦後民主主義をすんなり受け入れることとどうもつながらない。遠藤周作読んでも、大江健三郎読んでもわからない。その辺について吉本隆明は語っているんでしょうか? 誰か頭のいい人、お願い。バカな私にもわかるように説明して下さい。あ〜、やっぱり日本にもスーザン・ソンタグがいてくれたらよかったのに。いいな、アメリカは。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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