東海岸一帯が暗闇の中、楽しくパーティーをしていたニューヨーカーーBlackout won’t faze the party-minded New Yorkers in the dark


毎度お騒がせしております、ニューヨークでーす。とはいっても今回の大停電では、カナダのオタワから、オハイオからニュージャージーまで、5000 万人が暗闇の中ですごした一昨日の夜。いつものごとく日本では対岸の火事として面白おかしく伝えられていたようですが、まずは個人的な24時間ドキュメントから。

8月14日木曜日、4時を少し回った頃、ひたすらパソコンに向かってタイプしていた画面が「ブチッ」と急に消えた。最初は「あっ、チキショー。今のセーブしてなかったぞ。このー」としか思わなかった。私のオフィスは大きな窓のそばだったし、辺り一面の電気が一瞬にして消えたことにさえ気づいていなかった。「あ〜あ、全部打ち直しだー」と思いながら同じフロアの人たちとしばし談笑。やっと向いのオフィスビルも停電していることに気がつく。

晩春からずっと雨の日が多かったので、このところ気温も上がらず、この日は折しも久しぶりに夏らしい気候になったばかり。市内で一斉にエアコンが始動してコンエド(東京電力NY版)がヘマをしたのだと決めつけていた。しばらくすると館内放送で「市内一帯が停電」との報告が。しかし、コンピューターが消え、電話も内線しか繋がらない状況では大した仕事もできず、オフィスのみんなも三々五々集まって「いつ回復するかね〜?」とのんきそのもの。

5時を回ったところで会社から「避難するように」とのお達しが。自家発電でかろうじてエレベーターがひとつ動かせるとのこと。みんな身支度をして帰り始める。オフィスを出たところで、ちょうどバスが来たのが見えたので、何も考えずに乗り込む。ところが、このバス、ブロードウェイを突っ切ってミッドタウンを下る路線。信号が全て消えたタイムズスクエアは、道路を埋め尽くさんばかりの人も車も、縦横に我が道を行く無法地帯。もちろん警察なんかまだ出動していない。みんなパニックこそしていないが、このカオスはただごとじゃなかった。別に急いで行かなければならない場所があるわけでなし、端から見ている分には面白かったけど。

そんな中でバスはノロノロと進むどころか、立ち往生。たまたまバスを運転していたのが「肝っ玉かあさん」と言うべき女性で、彼女はクラクションを鳴らし続け、窓から通行人に「おらおら、危ないわよー!ひき殺されたいの、そこのお兄ちゃん!」と怒鳴りながら強引にバスを前に進めていく。無線で本部から連絡が入り、42丁目から先に行けないことが伝えられると、ほとんどの乗客は「歩いた方が速い」とバスを降りていった。「なんでその先に行かないんだ」と食ってかかる乗客に対して「文句あるんだったら降りろ!」と応酬する乗客。まったく、ニューヨーカーってみんなこういう時にケンカ腰になるんだから。

その一方で、たまに車内で停電を免れた地域の人とケータイが通じた人がいると「停電は東海岸全体だってよ」「テロリストの仕業じゃないみたい」と、その場に居合わせた人にもニュースを伝えあう。車窓から電気のついたビルが見えると「回復したのかしら?」「いや、あそこは俺の取引先のビルだが、ファイナンス系だから自家発電してるのさ」と、見知らぬ者同士のニューヨーカーも、こうなると運命共同体。

42丁目からは徒歩で家路に辿り着く。暗くなった店内で商売するのはあきらめて、さっさとシャッターを降ろして帰り支度をする店あり、氷とドリンクを店頭で売り出す店あり。「生ぬるくなる前に飲んじゃって!」と格安でビールをたたき売るバーありで、思わずちょっと寄り道。陽が高いこともあってまだ誰もパニックモードからは程遠い。ただ、これはマンハッタン内に住んでいる一部の人だけで、ブルックリンやニュージャージーの郊外に帰る人にとっては、地下鉄も電車も完全マヒで帰るに帰れない辛い夕方だったはずだ。

アパートに着くと、ご近所さんたちが1階のカフェに集まっていた。カフェの売り物もすべて「室温」になっていたが、水やフルーツや出来合いのサンドウィッチがけっこう売れていく。陽が傾く頃、下の階に住む同年代のペニーと、ボーイフレンドを呼びつけて懐中電灯を持ってきてもらったホリーたちとでユニオンスクエアに行ってみることにした。

私はラジオ、ホリーちゃんは生ぬるくなったビールと懐中電灯、ペニーちゃんは飼い犬のパグ2匹とキャンドルを持って近くの公園に行く。ここは9月11日のテロ事件の後も自発的に大勢の人が集まってきた場所。やっぱり今回もみんな同じことを考えてやってきたらしい。ユニオンスクエアの芝生や階段のところに座り込んで、桜の季節の上野公園まっつぁおの大宴会。普段はビール瓶をそのまま公共の場で飲むのは御法度。誰かが「Isn’t this supposed to be illegal?(これってイケナイんじゃなかったっけ?)」と言うと「I think the NYPD has more pressing matter at this point.(今、NY警察はそれどころじゃないと思うよ)」と突っ込まれていた。

誰かが気を利かせてピザを持ってきた。電気かまどはストップしているが、ダウンタウンには煉瓦釜のピザ屋がいくつもあって、そこからオートバイで何枚も積み上げて運んできたカップルがいて、みんなから拍手で迎えられていた。普段でもいつもは食べない美味しいピザと生ぬるいビール。最高っすね。おまけに、なんか煙いので振り返ってみたら、自宅からバーベキューグリルまで持ち出してきたグループまでいたし。

辺りが暗くなってくると大小さまざまなキャンドルがともされ、ギターの弾き語りとサックスをバックにみんなで歌うわ踊るわの一大ブロックパーティーが始まった。ちなみに一番ウケた曲は、スプリングスティーンのDancing in the Dark。そして70年代のヒット曲、The Night the Lights Went out In Georgiaの「ジョージア」を「ニューヨーク」に代えて大合唱。

そこからちょっと離れた私のラジオの周りにも、私と同じニュースジャンキーが結集して、ニュースを聞きながら都会のインフラがああだ、ブルームバーグ市長の対策がこうだとディベートを始める。そのうち、バカ息子ブッシュのスピーチが流れ始めたのだが、この時はみんなが一斉に白けた。「Oooh, how reassuring, it’s our president, from his air-conditioned Oval Office.(あ〜ら、エアコンの効いた執務室から我らが大統領のお出ましだわ。勇気づけられること)」「Somebody please loot the White House.(誰かホワイトハウスを略奪してやってくれー)」と手厳しい。

停電の原因については、ナイアガラの発電所に雷が落ちたとか、火事があったとか、二転三転していたが、アメリカはカナダ側で起きた事故のせいだと批判すれば、カナダは、いや、引き金になったのはアメリカ国内だと、責任のなすり合い。聞いている方が、「え、アメリカってそんなにカナダと仲が悪かったっけ」とクビを傾げたくなるぐらい。

そのうち、誰かが「俺は1977年の時のニューヨーク大停電の時もここにいたけど、あの時はさすがに身の危険を感じたな。『サムの息子』っていう連続殺人犯が出没してた時期だったし、あっちこっちで略奪や暴動があったしな」と言いだし、今はニューヨークも平和になったのか、市民も少しは成長したのか、などと話し合っていた。すると、今度はそれまでそばでじっと聞いていた年配のおばさんが口を開き「アタシは 77年どころか、65年の停電も覚えているわよ。あの時は今よりも平和で、誰もテロのせいかもなんて心配はしなかったし、みんな今みたいに何でも電気に頼ってなかったし『いつものように』戸や窓を開け放して、寝ていたのよ」と言い出した。これにはみんなも感慨深かったのか、しばし黙り込んでいた。

「でも、マンハッタンでこんなに星がキレイに見えるなんて思わなかったなぁ」と呟いた子がいて、皆で空を見上げた。「たまには、こういう停電も悪くないかもね。」というのがその場のコンセンサスだった。その後は、三々五々みな家に引き上げていった。私も今回のことで隣人と親しくなれたし、真っ暗なマンハッタンという珍しいモノが見られた。夜中まで懐中電灯を振って交通整理しているお巡りさんをアパートの窓からしばし見下ろした後、ちょっぴり寝苦しい夜を過ごしたのでした。

で、翌日。地下鉄はまで全然復旧のめども立たず、バスは無料で走ってはいるものの、どれも満員だったので、さっさとオフィスに行くのをあきらめ、家にいることにする。とはいえ、お昼を回っても私の住んでいる地域は停電したまま。いいかげん室内が暑くなって腹が立ってくる。7時頃、ようやく点灯。近所で一斉に嬉しそうな雄叫びがあがる。メールを読み、友達に電話を入れ、何だか悔しいので遊びに出ることにする。タイムズスクエア近くに住む友だちの家の近所は昼過ぎから復旧し、店も通常通り営業しているというので、腹ごしらえを兼ねて会いに出かける。

友人の話では、夕べのタイムズスクエアは真っ暗。ホテルのエレベーターも動かず、部屋に戻れない観光客が枕やシーツを抱えて、あっちこっちの路上で寝ていたとか。しかし、今夜のタイムズスクエアのこの明るさはどうだ。ネオンギラギラ、まったく以前と同じ。街行く人も、既に停電のことを忘れたかのように、何もかもが元通り。「なんだかなぁ」と気が抜けた。まぁね、アメリカ人って動じないというか、学ばないというか。これを機に節電しようなんて気はこれっぽっちもないようだ。

かくいう私も、今はエアコンをガンガンに効かせた涼しい部屋で、こうやってパソコンに向かい、ネットに接続して文句タレているわけで…。

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ニューヨークと東京を往復する文芸エージェント。 日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
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