次のアリス・シーボルドはどこに? イチかバチかの青田買いでギャンブルする米出版社ーU.S Publishers’ high-stake gamble on the next hot literary debut author
2003年6月は、ハリポタの第5弾、ヒラリー・クリントンの自伝、久々のオプラ・ウィンフリーのブッククラブ(「エデンの東」というエラクまた旧い名作)の3つがバカ売れして、久々に明るいニュースが続いた米出版界だった。でも、最近エディターやエージェントと話をする限りでは、新しいタイトルは「パッとしないねぇ〜」というのがコンセンサスの様なのだが。ぼちぼち不況の風がぴゅうぴゅうと吹き荒れ始めたアメリカだが、これからデビューしようという作家志望の物書きにとっては、必ずしもお先は真っ暗ではないらしい、という記事が「ニューヨーク」誌の最新号に載っていた。
12 ページにも及ぶ長い特集なのだが、要するに、古くは97年に刊行されたチャールズ・フレージャーの「コールド・マウンテン」に始まって、昨年のアリス・シーボルドの「ラブリー・ボーン」に見られるように、マーケティング次第では、文芸色の強い新人作家でも一大ベストセラーに躍り出た例がいくつかあったために、どこの出版社でも、イケる、と思われた新人のアドバンスの額がつり上がる一方、最初の数作で思ったように数字が伸びないミッドリスト(中堅)作家が切られている、という状況なのだ。
最近、多額のアドバンスでデビューした作家には、クノッフが最初の2作に400万ドル払ったという「THE EMPEROR OF PROSPECT PARK」のスティーブン・カーターや、角川から刊行予定の「ピアノ調整士」と次作で120万を受け取った医学生ダニエル・メイソン、デビュー作「IMPRESSIONIST」で100万ドル近く儲けたハリ・クンズルや、たった6日で書き上げた「THE DIRTY GIRLS SOCIAL CLUB」で47万5000ドルもらったアリッサ・ヴァルデズ=ロドリゲス、デビュー作50万ドルの後、ペーパーバック権まで売れたジョナサン・サフラン・フォアーなど、枚挙にいとまがない。
これは出版界の「ハリウッド化」とも呼ばれている。大ヒット映画(ブロックバスター)を狙えるものでなければ、要らない、と断られてしまう。デビュー作は地味でも、地道に作家を育てようとする姿勢が編集側から失われつつあるということなのかもしれない。アドバンスの額で、版元が作品にかけている期待度が測られるため、一か八かのギャンブル性が高まっている。書く方にとって恐いのは、最初の2〜3年でアドバンスを取り戻すぐらいのヒットがなかった場合、すぐさま見切りをつけられる可能性が高いということだ。
アメリカ文学の大御所、といわれる作家を引き合いに出せば、このトレンドがよくわかる。例えば、ジョン・アービング。彼が初期の作品である「SETTING FREE THE BEARS」とか、「THE 158-POUND MARRIAGE」あたりで出版社から見放されていたとしたら「ガープの世界」や「サイダーハウス・ルール」も生まれなかったかもしれない。
今までは出すことに意義はあっても、あまり儲からないとされてきた文芸色の強い作品が、売れてポピュラーになるのは悪いことではないだろう。それだけ力量のある新人が大勢出てきているという受け取り方もできる。少なくとも、面白そうな原稿を見つけたら、リスクが大きくても出してみようという編集者がまだまだいる、ということだろうか。
ニューヨーク誌のこの記事の後半は、著名な作家たちにデビューまでのいきさつを語ってもらったもので、これはこれでかなり面白かった。例えば、ゆっくりと時間をとるよりボロアパートでキツい仕事をしていたときの方がよく書けたというゲイリー・シュタインガート、「男の最初のスーツ」などというくだらない雑誌記事を書いて(ボツになったのが幸いだったと自分でも言っていた)食いつないでいたというジョナサン・フランゼン、小説を書くつもりが新聞社の仕事が面白くてニュー・ジャーナリズムに転向したというトム・ウルフ、あまりにも恥ずかしすぎてエージェントのオフィスのドアの下に入る分だけの原稿を押し込んで黙って帰ってきたというアリス・マクダーモット、どうせ30歳になるまでは売れないだろうと覚悟して失恋の末に辿り着いたニューヨークに来た途端、宝くじが当たったりして人生が開けてきたというジェフリー・ユージェニディスなどなど。









